第26話 命の重さ
「ダンジョンって生き物なのか?」
体内がダンジョンって・・・鯨かなんかの体内が迷宮になっているみたいな話がどっかにあった気がする。内容は一ミリも覚えてないけど。
「色々言われているみたいですが、ダンジョンは魔物の一種であるというのが通説になっていると思います」
「・・・理由を聞いてもいいか?」
歩きながらも確認していたククレ草を片手間に採取しつつ、問いかける。
「えっと・・・私もあまり詳しくはないのですが、ダンジョンの最奥にはダンジョンコアと呼ばれるものがあり、それを破壊するとそのダンジョンが崩壊することが魔物とされる理由の一つだったと思います」
うーん、これもよく聞く設定だなぁ。
この世界を作ったやつはラノベ好きだったに違いない。
「ダンジョンコア・・・ね。もしかしてダンジョンって層にわかれてたり、層を進む手前にボス部屋があったりする?」
そしてそいつを倒さない限り、その部屋から出られなかったりするのかな?
「はい。ご存知だったのですね」
「いや、知らなかったけど」
不思議そうに首をかしげてこっちを見るのをやめてくれ。
抱きしめたくなるじゃあないか。
「ダンジョンは稼げるのか?」
話を進めよう。じゃないと我慢できなくなる。
ワンチャン人の気配のないここならはじめちゃっても大丈夫か?
いや、人はいなくてもモンスターがいるか・・・。
「ダンジョンに出現する魔物は特殊で死体が残らない代わりにアイテムを落とします。魔物固有の素材は入手できませんが、ドロップアイテムならばかさばらないのでたくさん討伐できるならばそっちの方がいいと思います」
たしかにな・・・さっきのフォレストハウンドも剝ぎ取れば色々な素材として売れるらしいが、よく洗わなければククレ草を入れているリュックに入れるわけにもいかないから持っていけても1匹分くらいなもんだろう。
まぁそんなもんを持って戦闘するわけにもいかないから、結局はとること自体していない。
「なるほど。たくさん狩れるほど数はいるのか?」
「ダンジョンの魔物はコアが破壊されない限り無限に湧き続けるといわれています。1層や2層の魔物は単独行動をとるので人がそれなりに居ますが、3層からは複数同時にいることもあるので、探索者の数は激減するという話を聞いたことがありますね」
数が無限なのはいいな。レベル上げがはかどりそうだ。
「通常はフルパーティー・・・8人で入るのが普通ですが、ご主人様の攻撃力ならば一人でも十分だと思います。力になれるかどうかわかりませんが・・・」
「一緒に来てくれるか?オリヴィエ」
あの戦闘力で控えめになる理由がわからないが、彼女を連れて行かない材料が少なすぎるので、最後まで聞く前に即答してやったぜ。
「はい!」
オリヴィエは予想通り以上の笑みを見せて喜んでくれた。
「そういえば、街中でもあまり魔法使いも僧侶もあまり見かけなかったけど、あまりいないのか?」
「・・・魔法使いも僧侶もかなり特殊な職業で、普通の生まれのものはなれないとされています。私はなり方を知りませんが、魔法使いは貴族に、僧侶は神殿の位の高い生まれの方に多いようです」
「あ・・・じゃあもしかして魔法ってあまり人目のつくとこで使わない方がいいか・・・?」
「普通のギルドに通うような者が魔法を使うことはまずないので、魔法が使えることが周知されれば色々と詮索されるかもしれません・・・もしかしたら領主様や貴族などに呼び出されるかもしれません」
あまり悪目立ちしたくないな・・・。人がいるときは魔法を控えるか。
貴族とか領主とかめんどくさそうだしな。
「じゃああまり使わない方向でいくか」
「それでしたらダンジョン探索中に近くに人がいるような場合はお伝えしますね」
オリヴィエは気配察知みたいなスキルが使えるのか?
そういえば、さっきもその前も・・・俺が視認する前に敵を察知していたな。
ゴブリン3匹と鉢合わせした時なんか近くに居た俺とゴブリンは目が合うまでお互いの存在にきがつかなかったのに、離れたところにいるオリヴィエの方がはやく察知していたな・・・。
「私は耳がいいので」
自分で指さした耳をピョコンと揺らしてみせる。
あ、スキルとかじゃなくて単純な聴力なのね。
でも職業に依存した能力じゃないオリヴィエ自身の特徴ならば、そっちの方が便利でいいな。
今後剣士から変更することもあるかもしれないし。
「わかった。頼む」
揺れる尻尾を見るとわかりやすいのはいいんだけど、モフラーである俺は見るたびに我慢しなければならない。
だってモフるとふにゃるんだもん、オリヴィエ。
「とりあえず蓄えてたククレ草は今日分で全部だ。明日からは持ってきても少量だと思う」
ファストの冒険者ギルドについて受付嬢に納品をする。
毎回あれほど大量に納品するのは通常ありえないニュアンスの事をオリヴィエから指摘されていたので、あらかじめ決めといた言い訳を伝える。
「了解しました。とても助かりましたが、これ以上は依頼を止める必要性も考えていたところでしたので、丁度良かったです。それでは精査してきますので、少々お待ちください」
いつもどおり受け取ったククレ草を受付の奥にある部屋へ持っていく。
「ありがとう。俺だけだったら今頃途方に暮れていたかもしれない」
「いえ、ご主人様なら私などいなくても大丈夫だったと思います」
なんかオリヴィエの俺への評価高すぎんか?
単純な俺は普通に嬉しいからいいけど、普通はもうちょっと怪しんでもいいと思うけど・・・。
そもそもオリヴィエってなんか最初からやたら俺の評価が高すぎないか?
最初は奴隷の強制力みたいなもんかと思ったけど、話を聞く限りこの世界の奴隷って結構自由意志あるし、拘束力もそれほどなさそうなんだよな。
「お待たせしました。ククレ草が162個で24300ルクとなります。ゴブリンの討伐報酬は1匹500ルク、フォレストハウンドの討伐報酬は1匹1200ルクですので、こちらが合わせて計13900ルク、今回すべての合計が38200ルクになりますね。どうぞご確認ください」
162個かぁー、記録更新だな。2人だったから当然だけども。
帰り道にした採取も手分けしたりして効率よかったし、少し離れた場所にいる敵はオリヴィエが事前察知してくれることで脅威の度合いが著しく下がった。
おかげで今まですれ違ったりでエンカウントしなかったであろう個体もオリヴィエが察知してくれるから討伐数も増えている。
おかげで俺はレベル7。オリヴィエは3にそれぞれ上がった。
モンスターの討伐報酬も結構おいしいな。
いや、でもゴブリンの500ルクって白鯨亭1泊分か・・・。
色々買い物して思ったんだけど、この世界のお金の価値は日本円にすると、大体1ルクが10円くらいの感覚だと思う。
細かい相場は両世界で物の価値の違いがあるため、一概には言えないが、大きくは違っていないと思う。
だとしたらゴブリン1匹5000円ということになって、命をかける仕事に対する報酬としては安すぎると思ったが、少し考えて前提条件が違うことに気が付いた。
そもそもこちらの世界と現代日本では命に対する重みが全く違うのだ。
こちらの世界では命に対する価値というものが日本と比べて著しく低い。
もし日本で企業の仕事が命がけでその報酬が5000円だったとしたら誰もやらないし、結果命を失ったなどということになったらそれこそその企業が潰れるまでマスコミが叩きまくるだろう。
だがこちらでは冒険者が命をかけることなどは当然で、それに失敗して失っても誰も文句など言えないし、言わないだろう。
オリヴィエを運んだ馬車に対する対応でもそれは見て取れる。
日本で輸送中のものが事故を起こし、乗客が全滅したなどとなったら関係者全員を調査して原因の解明に努めるだろうが、こっちでは報告した俺に聞きに来ることさえない。
つまりはそういうことなのだろう。
輸送中に魔物に襲われることなどよくあることだし、それが起こっても対策をしていなかった奴隷商人が悪いということだ。
あの時は護衛のような存在も見当たらなかったしな。
ここは命の軽い世界だ。
そして俺は今後、この異世界で生きていかなければいけない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます