第25話 察知能力
「さすがご主人様、凄いです!」
いや、凄いのは君の方だと思いますけど・・・。
オリヴィエじゃなかったら嫌味に聞こえそうな台詞だが、相変わらず彼女からは微塵の悪意も感じられなかった。
「オリヴィエって魔物と戦ったこととかあったの?」
あれは経験からくるものなのか・・・それとも剣士に職業を変えるとあんな動きが可能になるのか?
「はい。私の育った村の近くでは、たまに角ウサギが出ましたので。出没した時は毎回討伐隊に参加していました」
「もしかしてだけど・・・その時は最前線で戦ってた?」
「私は村の中でも動ける方ではあったので、毎回お願いして魔物の正面に立たせていただいてました」
・・・どうやら彼女の動きは剣士のせいではないようだ・・・。
「正面って・・・攻撃が当たったら大変じゃないのか?」
「そうですね。村人は弱いので魔物の攻撃を受けるとほぼ戦闘の継続が不可能になると思います。でも村が作られるような場所には滅多に魔物は姿を見せませんし、弱い部類の魔物しか居ません。強力な魔物は基本的に人里とは離れた場所に生息していますので大丈夫です」
グッと両手を胸の前で力強く握るオリヴィエ。
そして何が大丈夫なのか俺には全くわからなかった。
一撃で戦闘不能になる・・・しかもこちらの攻撃はほぼ効かないやつを正面に据えて戦うことの何が大丈夫なのか・・・。
「・・・オリヴィエってもしかして、奴隷になるって話した時にすっごく止められなかった?」
「はい、家族とはとても仲が良かったと自分でも思っていますので、反対はされました。父など怪我をしているのに自分が替わりに奴隷にいくと最後まで冗談を言っていましたが、あまり大事にしたくなかったので翌日の早朝に家を出ました」
アハハと笑うオリヴィエだったが、それたぶん冗談じゃないぞ。
俺が家族だったら君のことは村単位で止めると思う。
村長を差し出しても足りないくらいだ。
いつか良い娘に育ててくれた親御さんに挨拶にでも行こうかと思ったり思わなかったりしていたが、こりゃいけないな。
俺の命が危ない。
今更返せと言われても即答で断るしな。
「ご主人様」
突然オリヴィエが後ろを振りむき、小声で俺を呼んだ。
最初は何事かと思ったが、彼女が手にククリを握り、視線の先に向けて構えたことで彼女の言いたいことを察知し、俺もそれに倣う。
「複数・・・おそらく2匹居ますね。フォレストハウンドです」
オリヴィエの睨みつけている方向を見ても何も見当たらないが、冗談とも思えない表情からは確信的な自信を感じる。
「・・・来ます!」
彼女の言葉とほぼ同時に正面の草むらを飛び越え、フォレストハウンドが現れた。数瞬遅れてもう1匹。
俺はすぐさま魔法で最初の1匹に向け放つ。
命中して怯んだそいつを次のフォレストハウンドが追い越し向かってくるが、あらかじめ戦う準備を整えていた俺はそいつを剣で斬りつけ、攻防一体の行動に成功する。
「オリヴィエ!そいつを頼む!」
オリヴィエは俺の言葉足らずの注文をしっかりと理解し、「はい!」と返事すると同時に俺が斬り払った個体の正面に立つ。
その隙に俺はもう1匹に向かって駆け、攻撃をする・・・が、任せたはずのオリヴィエに気が向かっていたせいか、俺の剣は空を斬り、フォレストハウンドに避けられてしまう。
「このっ!」
だが、魔法がよほど効いていたのか、避けた敵からの追撃はなく、次の一撃をしっかり当て、倒す。
(オリヴィエは・・・!?)
少し手間取ったのもあり、慌てて彼女の方を確認したが、俺の心配をよそに彼女はフォレストハウンドの素早い攻撃をすべてひらひらとかわしていた。
まぁ、大丈夫だと思ったから任したんだが・・・あらためてみるとやっぱり凄いな・・・。
おっといかんいかん。
余裕すら感じる彼女を見ていると、俺が手を出さなくてもいいと思ってしまうがそうではない。
回避を続ける彼女は反撃も都度行っているものの、倒すに至っていないからだ。
「オリヴィエ!」
俺が駆け寄って一声かけると、彼女はその意図を正しく汲み取って後ろへ大きく跳ねる。
そこへ剣を振り下ろし、撃退した。
「ふーっ・・・大丈夫だったか?」
「はい、ご主人様がすぐに倒してくださいましたので」
俺が手を出さなくてもたぶん君一人でイケてましたけどね。
「あの・・・なんだか、体が軽くなって以前よりもよく動くようになった気がするのですが・・・」
新型機を手に入れた主人公みたいなこと言うな・・・。
「あー、剣士になったからじゃないか?」
鑑定で彼女のレベルが3になっていることは確認できているが、それはこの戦いの結果後のことなので、オリヴィエの話は職業変更による変化だと思う。
「え?私、剣士になったのですか?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「あ、すいません。適性を得られただけだと勘違いしていました・・・まさか変更までお出来になられるなんて・・・凄いです!」
あ、そうか。
普通は職業ってほいほい変えられないんだっけ。
まぁいっか。オリヴィエに隠しても今後色々と不便が出てきそうだしな。
「そうそう。出来るのだ。あまり人には言わないようにな」
「大丈夫です。わかっております!」
ふんす、と鼻息を荒くして可愛く両手を握る。
それにしてもオリヴィエの戦闘センスは凄いな。
狐人族という種族がそういう戦闘民族的なものなのかと少し思ったりもしたが、さっきの話の印象上、彼女独自のものだと思う。
村人じゃない今ならおそらく俺が居なくても一人でフォレストハウンドの2匹や3匹位ならなんとかしてしまうのではないかと思うほどだ。
「よし、今日はここまでにしようか。結構奥まで来たし、帰り道も少しルートを変えて戻れば稼ぎにも出会えるだろう」
「そうですね。あ、ご主人様」
「ん?なんだ?」
提案をうけ、引き返そうとしたところでオリヴィエに呼ばれた。
「あ、歩きながらで大丈夫です」
二人横並びで歩き出す。
思えば女の子と二人で歩くの自体いつぶりだろう・・・。
・・・思い出そうとするという行為自体が虚しいものだと気が付いてやめた。今はオリヴィエが居るもんねっ!
「このままこの森で採取を続けることはやめた方がいいかもしれません」
なんで?と思ったが・・・
オリヴィエのリュックにすでにたんまり入っているククレ草をちらりと見て言う。
「・・・採り尽くしか?」
「それもありますが・・・この採取量を毎日持っていくとなると値崩れをおこしかねません。最悪の場合、常設依頼から一時的に外される恐れもあります」
なるほど、供給量が需要を上回ってしまえば当然か・・・。
毎回持っていく度に驚かれるから単独で持っていく量としては異常かな、とは思っていたが・・・。
「ふむ・・・ククレ草以外になんかいい稼ぎ口はあるかな?討伐依頼とかか?」
今のところ俺はこれしかやってない。
やめろと言われても他に稼ぐ方法がないのでは生きていくことが出来なくなってしまう。
といっても、まさかすべての冒険者ギルドの人間がククレ草のみで生計を立てているはずもない。なにかはあるはずだ。
「それもいいですが、ご主人様であればダンジョンに潜るのがよいと思います」
おお、ダンジョンあるのね。
塔タイプとか洞窟タイプとか色々あるのかな?
「ダンジョンか。ファストの近くにもあるのか?」
別に他の街に移ってもいいけど、やっと店の場所とかも覚えてきたところだからなぁ・・・なるべく移動したくない。
「討伐されていなければ、ファストの西に1つあったはずです。街に戻ったらギルドで確認した方がいいかもしれません」
ふむふむ。じゃあ帰ったらあの可愛い受付嬢にちょっと聞いてみるかな。
・・・ん?
さっきのオリヴィエの言葉に少しひっかかる部分があった。
「・・・討伐?」
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