第24話 剣士
地面に仰向けに倒れた緑色の体を見ながら改めて思う。
これ・・・村人から戦闘職になるの無理ゲーすぎだろ。
条件が倒すだけならなんとかなるだろう。最悪大人数でタコ殴りにしてとどめだけもらえばいいからだ。
だが、取得条件は魔物のHPを半分以上減らして討伐するということだった。
討伐の部分がPTで共有なのかどうなのかでもすこし難度は変わるが、共有だとしても村人の攻撃でHPの半分以上を担うのは厳しい。共有だった場合は2人で倒した時にどちらか片方が条件を満たすことになるが、もし共有じゃなかったら2人で討伐してもHPの条件を満たしていない方がとどめを刺した場合、条件を満たせないことになる。
・・・どう考えても厳しいよな。
そんな村人への悲観的な考えを巡らせていたら、その視界にオリヴィエが入ってきて緑色の大きな左耳をククリで削ぎ落としはじめた。
え・・・グロ・・・オリヴィエなんかゴブリンに恨みでもあったの?
「オリヴィエ?」
「雑用はお任せください」
え・・・?あ、あーなるほどね。
これはあれか。いわゆる討伐証明ってやつかな?
ラノベ好きを公言している俺がこんな見落としをするなんて・・・。恥ずかしいからここは当たり前みたいな顔をしとこう。
「これは討伐証明です。ゴブリンの場合は左耳になります」
バレバレで草。
俺ってそんなにわかりやすい顔してるのかなぁ。
オリヴィエに嘘はつけないな、と思いながら彼女にPT設定変更を使う。
すると、変更可能職業に戦士と剣士、それに農民と料理人が追加されていた。彼女の望み通りに職業を剣士に変更する。
名前
オリヴィエ(奴隷)
性別
女
年齢
17
種族
狐人族
職業
剣士 Lv1
所有者
アマノ サトル
お、できたできた。
変更可能な職業が複数あるとあんな感じに表示されるんだなぁ。
表計算ソフトのプルダウンみたいな。
・・・ん?
俺はある疑問が頭に浮かんで自分の職業変更を試してみる。
・・・。
どの職業を選んでも村人への変更しか出来ない・・・。
俺は剣士を持ってないが、魔物の単独討伐を何回もしている。
だからHPの半分以上を減らして討伐という条件はらくらくクリアしているはず・・・あ。
そっか。
そもそも剣士になるには村人のレベルが10必要という前提条件がついていたっけ。
難しそうな条件ばっかりに目がいっていて忘れてたわ。
必要ないと思っていた村人は様々な職業のトリガーとなっているのかな?
俺は少し考えた後、商人を村人へと変更した。
たしかにストレージは非常に強力で魅力的なスキルだと思うが、低いレベルで戦闘職じゃない職業を6つの中に入れて育てるよりも、まずは戦闘職のレベル上げを優先して行い、強力な魔物を討伐できるようになった方が高効率だと思ったのだ。
そのためにまず村人のレベルを10にして戦闘職への変更条件を満たそうと思う。
どういう原理かはっきりとわからないが、村人のレベル上げはそんなに苦労しないんじゃないかと思っている。
何故なら魔物を討伐できそうにないファストの街中を楽しそうに駆け回っていた子供でもレベル6以上あったのだ。
だから村人はレベルが上がりやすい職業なんじゃないかという推測を出した。
1つしか職業が選べないのであればストレージへの最短の道程は条件に含まれている職業を一つ一つレベル20へ上げることだが、俺にはマルチジョブがある。活用しない選択肢はないだろう。
「よし、変更完了だ。これでいこう」
「え?」
「オリヴィエもちゃんと剣士を取得出来ていたぞ」
数秒目を丸くして俺の心を採りにきたが、俺の耐性もあがってきた。なんとか耐えることが出来たぜ。だが
「凄いです!ありがとうございます」
すぐに輝く笑顔に換装してみせた。
降参だ、持っていくがいいさ。
その換装パーツは宇宙世紀で活躍した白い悪魔のコックピット戦闘機の数百倍の価値はあるぞ。
その後、手持ちも心もとないのでメイン金策のククレ草とゴブリンを続ける。
剣士へ変更後、10匹目のゴブリンを倒した時、オリヴィエのレベルが2になった。
俺の時は5匹でレベルがあがったので、経験値は人数で分割するようだ。
となると、俺の6つの職業には経験値は分配されないことになるな。20かける6で120倍の成長速度というのは正しかったようだ。
・・・120倍て。
最初は微妙に感じたけど、これは十分チートの範囲だな・・・。
ちょっと口角があがってニヤケ顔になるのに苦労してきた。
ここはまだ森の中だが、その中でも少し開けた場所に出た。
「お、ここら辺には結構あるな、向こうにも何個かあるみたいだがあっちは難しそうだから、オリヴィエはそこのやつを頼めるか?」
見晴らしが少し良くなったからか、もしくはここが群生場所なのか、それぞれ少し離れた場所に転々とククレ草が固まって生えている。
その中でも判別しやすそうな場所をオリヴィエに任せ、少し離れたとこにあった大きな木の付近の雑草に紛れてしまってわかりにくい場所を俺が担当する。
ククレ草の判別は鑑定がないとかなり難しいが、俺が指定した場所を適当に採ってきてもらえば受け取る時に鑑定で取捨選択できる。
真面目なオリヴィエはここに来るまでにも俺が採取したククレ草をじっくり観察していたからもしかしたらその必要すらないかもしれない。
まじまじと真剣な顔で地面の草の判別に挑み始めたオリヴィエを尻目にさっき確認した大木の根元にある群生場所へと向かう。
お、木の反対側にもあるな。
手前のを採取して、木の陰に隠れていた新たなククレ草を発見したその時
「ご主人様!!」
後ろで俺を呼ぶ大きな声が聞こえてすぐ、大木の陰からククレ草だけじゃなく、3匹のゴブリンも顔を覗かせた。
普通の木なら遠目でも複数のゴブリンが隠れることはないが、この木なら容易に見える。
しかも俺達がこの木へ向かってきた丁度反対側が獣道のようになっていたため、この3匹が近づくのを俺もこいつらも今の今まで
気が付かなかったのだろう。
その証拠に俺だけじゃなく、この3匹もかなりびっくりしているし・・・。
だがそのおかげで奇襲などを受けることもなく、戦闘態勢に入れた。しかしそれは同条件のゴブリン達もだった。
同時に剣を構えた俺だったが、初手はいつも通りに魔法で対処する。
一撃で仲間を倒されたゴブリンはそれを見ると叫び声をあげて2匹同時に向かってきた。
同時といっても少しのズレはありそうだ。
よし、最初の1匹を剣でいなして次のやつをまず倒そう。
一撃で倒せることがわかっていると、こうも落ち着いて対処できるものかと自分に感心する。
そしてゴブリンの一撃目を難なくいなし、次の・・・
「ご主人様!」
俺を心配してだろう。
オリヴィエが駆けつけてきた。
まずい!
今俺が受け流したゴブリンが不幸なことに丁度オリヴィエの方向に行ってしまった!
俺は自分の失態を挽回するためにまず、今まさに目の前でこん棒を振り下ろそうとしているゴブリンにいなした際の力を回転力に変え、その流れのまま敵を横一文字に斬りつけた。
「オリヴィエ!」
今は斬った相手の状態を見る時間すらもったいない。
俺はすぐにオリヴィエに向かったゴブリンがどうなっているかを
確認した、が
ギャァァ!
ゴブリンは既にオリヴィエにむかって攻撃を始めているところだった。
受け流したときにすぐ次の行動に移れるようにと力をいれなかったのがよくなかったらしい、たいして崩れなかった体勢は流れた力をそのまま利用したゴブリンはこん棒をオリヴィエの脳天へと振り下ろす。
くそっ!!
その瞬間がスローモーションで俺の目に届く。
人は極限まで集中するとここまで物事を細かく見てとれるのか・・・。
だが、こんなところを細部まで観察するために集中力を使ってもなんの意味もない・・・周りがスローモーションになったところで俺の体が早く動くわけもなく、俺はオリヴィエの頭にこん棒が打ち付けられる様子を・・・見ることはなかった。
「え?」
俺の口から出た疑問府と発音は違うがほぼ同じものがゴブリンの口からも出ていた。
俺もゴブリンも命中したと思ったこん棒は空を斬り、次の瞬間驚愕に大きく見開いていたゴブリンの目に剣筋が走る。
ギャァァァァァ!
突然奪われた視界にやたらめったらと振り回すゴブリンのこん棒をなんなく躱すオリヴィエ。しかもその度に一太刀ずつ反撃まで加えている。
「・・・ハッ」
予想の範囲外だった光景にしばらくほうけてしまった俺だったが、正気に戻る。
いくら状況が圧倒的でもなにかの拍子で攻撃が当たってしまうかもしれない。そんな事故みたいなことでオリヴィエは失うことなど許されないぞ。
「オリヴィエ!後ろに跳べ!」
目標の定まってないこん棒をひらりひらりと回避しつづけるオリヴィエをその範囲からはずしてからゴブリンを斬りつけて倒す。
・・・あっぶね。
俺が攻撃する直前に振られたこん棒が予想しない方向からきたから当たるとこだった。
その前に俺の攻撃が当たったからよかったけど・・・。
滅茶苦茶にくる攻撃を避けるのって難しいものだな。
それをこの娘は・・・。
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