第23話 奴隷
ひとしきりモフモフを堪能したあと、ふにゃふにゃになってしまったオリヴィエをみてふと思ったことを聞いてみた。
「そういえばオリヴィエってどうして奴隷になったんだ?あ、答えたくなければ答えなくてもいいぞ」
言葉に出してからまずいかなって思ったけど、途中で止まらなかったからしょうがない。ノンデリだと笑ってくれ。
「父が怪我を負って一時的に働けなくなってしまい、冬を越すための資金がたまらなかったので、私が奴隷になることになりました」
「え・・・父親に売られたってことか?」
オリヴィエを売るとはひどい父親だっ!
「いえ、奴隷商人には自分で行きました。両親に言っても了承を得られないと思ったので事後報告という少し強引な形にしてしまいましたが」
ごめんよファザー。あなたの娘は立派に育ってます。
後のことは俺に任せてください。
ちなみにお金を持って返してくださいと言われてもキッパリと断るので来ないでください。
「そもそも奴隷には双方の同意がないと刻印できませんので、嫌がる者を無理矢理奴隷にするということはできません」
「望んで奴隷になるってことあるのか・・・?」
「私と似たような状況は結構あると思いますよ」
「オリヴィエが変な奴に買われる前に出会えてよかった・・・」
俺はNTR属性を持ってないんだ。彼女が他の男に抱かれるなど想像するだけで吐きそうになるわ。
「私もご主人様と出会えてよかったです」
守りたい、その笑顔。
たとえその言葉が偽りであったとしても可愛さ余りすぎて全然憎くない。
「ですが、奴隷は売買の時にも刻印のスキルを使うのでこちらも双方の同意が必要です。相手が嫌なときは断ることも結構あるそうですよ」
なんか俺の知ってる奴隷と結構違うんだな。
「でもそれだったら奴隷にする意味ってあるのか?」
強制力がないなら奴隷にする意味がないような・・・。
「奴隷以外で人身売買をおこなうことは禁止されています。それに刻印された奴隷は主人を直接害することはできません」
「直接ってことは間接的に貶めることは出来るってことか・・・」
自分の手で害することはかなわなくても他人に頼んで命を狙うことは可能なのね。
「そうですね。可能だとは思います。ですが、その場合は罪人となり、奴隷である状況よりもはるかに悪くなりますが・・・」
罪人か・・・。指名手配にでもされるのかな?
たしかにこんな壁に囲まれた場所でそんなことになったらここに居られなくなるな・・・。
手配が国中に回ったらそれこそ目も当てられない状況になりそうだ。
「なるほどねぇ」
この世界では奴隷というのがちゃんと合理的にシステムの一部として組み込まれているってことか。
いいのか悪いのかは俺にははっきりと言えないが、今すぐ廃止しろと声高に叫んだところで誰にも見向きされないだろうな。
オリヴィエの家族だってオリヴィエが奴隷になっていなければ全員餓死していたかもしれない。
軽く聞いただけだが、自分で奴隷になることを選んだってことは他の手段が断たれていたか、余程難しい状況だったのだろうし。
その後、相変わらず残念な味の宿飯を喉に押し込み、オリヴィエの装備を買いに武器屋へ来た。
「オリヴィエは武器はなにがいい?」
「私の装備よりもご主人様のものを優先で構いません」
「もちろん俺のも買うが、今はとりあえずオリヴィエの装備だ。何かあったら困るのは俺なんだから遠慮はしなくていいぞ」
「・・・ありがとうございます。それでしたら私は重い武器よりも取り回しの効くものの方が好みです。防具も動きを阻害しないものの方がいいです」
俺としてはフルプレートくらいがっちりとした鎧を着て後ろに控えてもらった方が安心なのだが、本人の意に反して不満を持たれても嫌だしな。
そんなことでオリヴィエが文句を言うとも思えないが、こういう小さな不満が心根でくすぶっていつか爆発するかもしれない。
オリヴィエに見捨てられたら立ち直れない自信があるぞ。
俺は君の奴隷です・・・ってね。
主人だけど。
「じゃあこのククリとかどうだ?」
「はい。ありがとうございます」
あの魔法陣の?とか言うオタクにしか通じない返しをするのはあの後輩くらいだろう。
オリヴィエは俺の提案をちらりとも悩まずに受け入れた。
銀貨5枚を支払って購入した後、防具屋へ。
オリヴィエはさっきの言葉通りに革製のジャケットなどの軽くて動きやすそうなものをチョイスしていく。
ヘルメット型の革の帽子に革の靴、手袋と全身の装備を整える。
そして俺も同じものを購入した。
鉄製で比較的軽めなプレートメイルも試着したが、重くて動きづらいし、暑そうだし、着るのも手順がめんどくさかったので簡単に着られる革製のものを選んだ。
いつか高い防御力が必要になるかもしれないが、今は攻撃をうけるより避けることに重きを置いた方がいい気がする。
・・・歩くだけで疲れそうだしな。しかもちょっと高いし。
「こんなもんかな」
2人分の全身を揃えたら銀貨11枚になり、残りの銀貨は4枚にまで減ってしまった。
まぁ2日分の稼ぎで宿、食事代を出して尚、全身の装備まで揃えることが出来てまだ余っているのだから文句など出ようもないんだけどな。
「ご主人様」
「ん?」
「採取や討伐などをするのであれば、背負い袋を購入するといいかもしれません」
背負い袋・・・リュックサックみたいなやつのことかな?
・・・たしかに。
逆におれはなんであれだけククレ草で滑稽な姿になったのにそこに思い至らなかったのだろうか。
世の中不思議なこともあるもんだね。
断る選択肢など出るはずもない提案をうけ、雑貨屋によって背負い袋を購入する。
結構しっかりした作りで手頃な大きさのものを選び、購入した。残りの銀貨が2枚になったが、必要経費だろう。
準備も整い、森へと向かう。
俺が背負おうとした袋はオリヴィエの強い意志を持った眼差しに心と一緒に奪われてしまった。
あやつはとんでもないものを奪っていきました。
俺の世代のアニオタは何かあるとこの刑事の言葉を使ってた記憶があるなぁ。俺の周りだけだったかもだけど。
「お、さっそくあったな」
鑑定でククリ草を見つけて引っこ抜く。
なんかオリヴィエの視線を感じたが、俺の魅力をあらためて確認したのか、ウンウンと頷いていた。
モテる男はつらいぜ。
「ご主人様、こちらへ」
オリヴィエが俺のことをうなじで悩殺してきた・・・のではなく、ククレ草を背負い袋へ入れろ、ということですよね、わかってますとも。
その魅力は今日の夜にあらためて味わわせていただきたく候・・・ぐぬぅ、言葉の響きは嫌いだね!
今の俺は大丈夫なようだけど、以前の俺は・・・。
嫌なことを思い出してしまった。
オリヴィエを見て精神を落ち着けよう。・・・あぁ可愛い。
目当てのゴブリンを探しつつ、ククレ草を採るルーティンをこなしていると、4つほど見つけた時にそれは見つかった。
2匹か・・・。
こちらに気が付いた片方を魔法で倒す。
そして残った方に素早く近寄り、右ストレートをお見舞いしてから、完全に体勢を崩したゴブリンの背に張り付き、羽交い絞めにした。
「よし、オリヴィエ・・・こいつを倒せ!」
「え・・・?は、はい!」
一瞬の戸惑いは見せたが、腰につけたククリを握り、ゴブリンへと斬りかかる。
ジタバタと俺の腕の中で暴れるゴブリンを力任せに押さえつけ、オリヴィエが攻撃しやすい位置に固定する。
「やぁ!」
低い姿勢から居合切りのようにククリでゴブリンの腹を斬り上げる。
ダメージは入っているようだが、まだまだ元気だな。
「よし、その調子で続けろ!」
「はい!」
2度3度と鋭い剣線がゴブリンを襲う。
続けて4度5度。そして6、7、8・・・いや、全然倒れないな。こいつ。
これはこのゴブリンが特別硬い個体、ということはないのだと思う。
つまりはこれが普通で、一撃で倒せる俺の方が異常なのだろう。
職業変更条件を満たせない理由も納得だ。
俺もLv1だった当初はゴブリンに1発もらっただけで死を感じたほどだった。
戦闘職を、それも複数持っていてもそうだったのだ。
村人で魔物を倒すことなど俺だったら考えもしないだろうな・・・。
そんなことを考えている間も斬撃音は続くが、まだ倒れない。
さすがに抵抗の力は弱まってきたが、もう30回以上斬っているんじゃないか・・・?
「やあぁぁーーー!!」
そしてオリヴィエが渾身の一振りを与えると、ようやくゴブリンの抵抗が腕から消えた。
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