第22話 はじめて
自分でもこの世界基準においてかなり突拍子もない発言をしたと思ったのだが、意外なことにオリヴィエはあっさりと俺の言うことを信じてしまった。
ちぇ、もうちょっと驚くと思ったのになぁ。
背中、首、腕と、後ろ側の出来る場所をすべて拭き終わったオリヴィエは、俺の前方に回ってきた。
座ったままでは拭きにくいかな?
「あ」
そう思って立ち上がったら、俺と真正面で目が合ったオリヴィエが恥ずかしそうに目を逸らす。・・・これは強烈だな。
「失礼します」
そしてそのまま俺の胸を拭きはじめたが・・・もう限界。
こんな魅力的な子が目の前で頬を染めながら献身的に俺の体を拭いている・・・。
この状況で耐えられる人類がどれほどいるのだろうか。
少なくとも俺には無理です。ごめんなさい。
俺は正面に立つオリヴィエの背中に手を回し、こちらへ抱き寄せる。
「あっ、ご主人様・・・いけません・・・」
拒否された・・・。泣きそう。
この世界の奴隷って手を出しちゃダメだったのかな?
これが原因でやっぱり解放してくださいとか言われたら、すぐさま泣いて土下座したうえでごめんなさいもうしませんと謝る準備は出来ている。
まだ出会って数時間だが、俺の中でオリヴィエを失うという選択肢はもうないのだ。
それほどに彼女が魅力的だということです。はい。
「・・・汚いです」
よし、死のう。
この世界で生きる意味はもはやありません。
「体を清めさせてください・・・。恥ずかしいです」
生きよう。思う存分。ビバ異世界。ありがとう神様。
「わかった。それじゃ、それを貸してくれるか」
オリヴィエの持つ布を半ば強引に受け取る。
「わ、私の体は自分で・・・あっ」
「大丈夫大丈夫。俺に任せなさい」
俺はそういってオリヴィエの服の下から布を差し入れ、優しく撫でながらその弾力をたのし・・・清めていった。
素晴らしい。
同時に進行方向に立ちふさがる邪魔な布を除去しながらその体を磨いていく。
素晴らしい。
「んっ・・・」
漏れ出す吐息と滑らかな手触りが俺の理性をどんどん奪っていくが、ここでがっついて童貞みたいなことはしない。
この素晴らしい時間をじっくりゆっくり堪能するためにもな。
まぁ、体は童貞なんだけどね。
「ん・・・んん・・・」
「おはようございます。ご主人様」
薄暗い部屋で目が覚める。
宿の部屋は窓を閉め切って唯一の光源である蝋燭の火を消すとほぼ真っ暗なのだが、閉めた窓の僅かな隙間から漏れる光がすぐ目の前のオリヴィエの顔を俺の目に映す。
「おはよう」
同じベッドで向き合い、生まれたままの姿のオリヴィエを見た俺は、昨夜のことを思い出し、心の中のもう一人の俺が全力でガッツポーズをした。
夢の様だけどー、夢じゃなかったー!
一つ一つを思い出す度に再びかぶりつきたくなる気持ちを何度も抑え、なんとか平静を装う。
彼女・・・初めてだったしな。
まぁ俺のリビドーが発散しきれていない原因でもあるが、さすがの俺もそんな彼女に無理強いは出来ない。
それに彼女はもう俺のものなのだ。
これからいくらでもチャレンジできる。そう焦ることもないさ。
と、何度も何度も自分自身に言い聞かせないと心の中で抗議するもう一人の自分が俺の人格を奪ってしまいそうなのだ。
結構ぎりぎりです。
「この街の店ってどの位で開くのだろうか。まだはやいかな?」
このまま幸せの時間を続けてしまうと、強大な兄弟が表に出てきてしまいそうなので、俺はベッドから起き上がり、さっさと何かの行動に移そうとした。
「そうですね。店によって違いはあると思いますが、店舗を構える店は日が昇ってからだと思います」
そういいながら、俺に続いて上半身を恥ずかしそうにシーツのように薄い掛布団で前を隠しながら起こしたオリヴィエが質問に答える。
「あっ・・・」
たまらず抱き着く。
いやぁ、こんなん我慢できないでしょ。
出来るやつは男として認めんぞ。俺が診断書を進呈してやる。
「それじゃ、もう少ししたらオリヴィエの装備を買いに行こうか」
「・・・はい」
やばいやばいやばいやばいたえろたえろたえろたえろ!
その恥ずかしそうに目を逸らすのは反則やで!
人生最大の我慢力を発揮してなんとか彼女の肩に手をかけて体を離し、ヤサイの星の戦闘狂が訓練に使っていた重力増強マシンが俺にかけられてしまったのかと思うほど重い腰をあげて、ベッドから立ち上がる。
「そ、そういえば、オリヴィエは何かなりたい職業とかあるのか?」
この上擦った声で俺の苦労がわかるだろう?がんばれ、俺。
「私はご主人様のお役に立てる職業になりたいです」
いや、そうじゃなくて・・・。嬉しいけど。
「そのうえで目標としている職業とかないのか?」
「そうですね・・・笑わないでいただけますか・・・?」
なんだ、大道芸人を目指すとか言わないよな?・・・ってかそれだったら笑ってくれた方が嬉しいやーつか。ほなちゃうね。
「私は、伝説の職業の一つ。「剣聖」になってみたいです」
「おおー剣聖か。いいね」
異世界チートものでも結構な頻度ででてくるジョブである、あの剣聖か。
オリヴィエは前衛希望なんだね。こんな可愛い顔して。
昨日職業の事について少し聞いたときも思ったが、彼女は戦うことに対しての忌避感はない、もしくは少ないようだ。
魔物が厳然として存在するこの世界においては彼女がもつ基準が標準なだけかもしれないけど。
俺はシステムサポートに剣聖の事を問いかけた、が・・・
剣聖は剣士から派生する職業の一つです
詳しい情報はサポート範囲外です
サポート範囲外・・・?
なんでも教えてくれるんじゃないんだ・・・。
まぁでも、その位の塩梅の方がこの世界を楽しめるのかもしれないな。
なんでもわかる未来視を持つ人間は必ずや自殺するだろう、なんてどっかの心理学者だか哲学者だかが言ってたか言ってないかは定かじゃないが、なんでもわかってしまってはつまらないのはたしかにそうかもしれない。
剣士は村人Lv10以上で
自身の攻撃により魔物のHPを半分以上減らして
討伐することで取得することが出来ます
とかいいつつも剣士のことをシステムサポートさんに訊ねてしまう俺の意思の弱さを笑ってくれよ。
今の俺の意思力はオリヴィエにすべて使ってしまってすっからかんなのだ。
剣士の説明は戦士のそれとまったく一緒だな。
コピペして戦を剣に変えればそれで完成するものとなっている。
・・・やってないよね?
「それじゃ、オリヴィエは戦士じゃなくてまずは剣士になるってことでいいかな?」
「・・・はい!」
ほんの少しだけ揺らいだ感情を見せたが、その後すぐ決意に満ちた鋭い眼つきで返事を返してくれたものの、その後ろからふわふわしたものが彼女の背の左右から交互に姿を見せていたので、とても微笑ましい光景になった。
「オリヴィエ」
「はい」
突然真顔で名前を呼ばれたオリヴィエが俺に呼応するように振っていた尻尾と背筋をピンと伸ばし、返事をした。
「それ、触ってもいい?」
先程まで彼女を中心に左へ右へと揺れていたが今はオリヴィエの背から少しだけ見えるだけになってしまった尻尾を指す。
ずっと触りたかったんだよね、それ。
昨夜のベッドでも他の事に夢中でモフるのを忘れていた。
子供の頃から成人する頃まで飼っていて兄弟同然で一緒に育ち、ずっと一緒で滅茶苦茶仲が良かった俺の犬もそのあまりのしつこさに、2、3度だが飼い主であり親友の俺に牙を剥くほどのモフリストである俺は、彼女に出会った時から・・・いや、ゲームで見た時から彼女の尻尾の魅力にやられていたのだ。
もうすっごいモフモフしたい。
許されるならクンクンもしたいね。
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