第21話 マイプリティ
雑貨では下着やら歯ブラシ(植物の茎をブラシ状にしたもの)やら日常で使うものを俺とオリヴィエの2人分買った。
服屋になかった下着が雑貨屋にあるのが不思議だったが、オリヴィエによるとこの世界ではこれが普通らしく、疑問に感じているのは俺だけだった。
彼女が自分のは大丈夫と遠慮したりしていたが、毎回却下していると最後の方は何も言わずに受け取ってくれた。
なんだかんだ雑貨と服で結構な大荷物になってしまったので、このまま宿に直行することにする。
どう考えても無理だと言ったのに、全部自分で運ぼうとしたオリヴィエが視界を荷物で塞がれてオロオロしているのが可愛かった。
笑わせてもらった後に半分請け負う。少しむくれていたのも可愛かったね。
まだ日暮れではないが、太陽は結構傾いているのであと数時間もすれば夜になるだろう。今日はもうゆっくりしてもいいな。色々あったし。
「今日も1泊食事付きでよろしく」
オリヴィエのせいで俺の中の判定がギリギリボール球になった女将に伝えると、オリヴィエをチラリと見て
「ダブルなら800ルクだよ。食事はどうするんだい?」
「に、荷物を置いてきたらすぐに食べるよ。2人分頼む」
ダブルの言葉になるべく動揺しないよう平静を装って答える。
後ろからの反論に少し怯えたが、幸い異議は飛んでこなかった。・・・しゃっ!
案内された部屋へ入り、横目で確認した寝台に今日2度目の心中ガッツポーズを決めた。
「とりあえずそのボロボロの服は着替えようか。その後に食事に行こう」
「ご主人様」
あれ?この世界の奴隷ってそういうことはNGだった?
「普通、主人と奴隷は一緒に食事をとりません。次からはその旨を伝えて別々の方がよろしいかと」
ああ、びびったぁ・・・思わず呼ばれたときに体が少しはねちゃったよ。
「・・・別で食べる必要性を特に感じないな。一緒でいいよ。よそはよそ、うちはうちだ」
昭和の一般家庭常套句がこの世界で通じるかどうかはさておき、折角オリヴィエを手に入れたのに一緒にいる時間を減らしてどうするってことだよな。
却下だ。却下。
「・・・わかりました」
一瞬の沈黙を挟まれたので嫌がられたかと思っていたが、顔を見るとうつむき気味に頬を染めて上がりたがっている口角を必死にこらえているのが見てとれた。可愛すぎ。
今すぐに抱きしめたくなる気持ちを必死に抑える。
そしてオリヴィエは奴隷服に手をかけ、着替えはじめる・・・のをじっくりと見させてもらった。
うーん、素晴らしい。けど、この世界の下着はどうも色気がないなぁ・・・。
上は可愛らしい装飾の一つもなくて、ただ覆ってるって感じだ。下はかぼちゃパンツだし・・・。
いつか金に余裕が出来たらオーダーメイドして作らせるってのもアリだな。
そんなくだらないことをやりたいことリストに加えていたらオリヴィエはさっさと着替えを済ませてしまった。もっと焦らしてくれてもいいのに。
恥ずかしそうにしてはいたけどね。
「それじゃ行こうか」
「はい」
白鯨亭の薄々味の食事を一緒に食べたが、意外なことにオリヴィエは美味しそうに食べていた。
聞いたところ、ここの料理は標準的な味らしい。むしろ少し美味しいとまで言っていた。舌の構造が俺のいた世界と違うのだろうか・・・。
まぁ普通に考えて調味料が高いとかだろうけどね。
「ご主人様、具もありパンまで頂いてありがとうございます。とても美味しかったです」
足首程度のハードルを飛んで褒められた気分で少しもやもやした、彼女からは皮肉などの感情は微塵も感じなかったのでこれは本音なのだろう。
「俺としてはもうちょっと濃い味付けが好きだけどな」
「なるほど・・・調味料はとても高価なので、中々難しいかもしれません・・・」
やっぱりそうなのか。
ご主人様は濃い味が好き・・・と小声で可愛く呟くオリヴィエを眺めながら食事を済ませる。
食事が終わって席を立つと、オリヴィエが先に部屋へ戻るよう言ってきたのでそれに従って部屋でくつろいでいると、桶を抱えたオリヴィエがすぐに戻ってきた。
「ご主人様、湯を頂いてきました。お体をお拭きしますね」
お湯ってもらえたんだな。
そういえばここに来てから一回もお風呂に入ってないや。
オリヴィエが気が利くのか俺が相当臭かったのか・・・。
前者であることを切に願うが、後者だった場合でも俺の体は17歳に若返っているので、前の肉体の時のような加齢による臭いはしないはず。カレースメルが発生するまでまだ10年以上の猶予はある。
今のうちに何か対策した方がいいか・・・。
俺は上着を脱がされ、促されるまま部屋に備え付けてあった背もたれのない簡素な椅子に座った。
「失礼します」
お湯に浸した布を絞り、それで背中を優しく擦り始めた。
「しばらく体洗うの忘れていたから助かる」
気持ちいいな・・・あ、そうだ。
「そういえば、村人達のレベルって結構高いけど、やっぱり外のモンスターとは戦えないのか?」
システムサポートに聞いてもよかったが、折角二人きりになっているのでコミュニケーションの一環として少し気になったことを聞いてみることにした。
沈黙が耐えられないコミュ障が発動したわけじゃないんだからねっ!
「もんすたーというのは魔物のことでしょうか?」
あ、そっちの言い方なのね。
「そうそう、魔物」
「・・・村人のレベルというのが何を指すのかよくわかりませんが、村人達が職業を変えずにいくら訓練しても複数人でゴブリンを討伐するのがやっとだと聞いています」
なるほど・・・レベルの概念もないのか。
たしかにクイルでの鑑定ではレベルの表示はなかった。
あれは簡易的な鑑定が出来る道具だと思っていたのだが、そうではないらしい。
そもそもスキルで鑑定を持つもの自体がいない可能性もあるか。
しかしそうだとしたら村人はどうやってレベルを上げているのだろう。
まぁレベルを知らない状態だからそれを上げるという目的を持てるはずもないが・・・。なにか魔物を倒す以外にも経験値を取得する方法があるのだろうか。
「・・・俺は田舎から出てきて世情に疎いところがある。この国にくるのも初めてだからこれからも色々と質問させてもらうと思うが、変に思わずに答えてくれるとありがたい」
村人が戦えないようなことも知らないほどの田舎がどこにあるのか、というツッコミを自分に入れるが、何の言い訳もしないよりはいいだろう。
「はい。わかっております」
えぇ・・・俺ってそんなに田舎臭かった?
もしかして加齢臭じゃなくて田舎スメルをぬぐうために体を拭いてくれているのだろうか・・・。田舎スメルってなんだよ。
落ち込んでいてもしょうがないので、この際もっと色々聞いてみる。
「村人から職業を変えるのってどうしたらいいんだ?」
「職業は教会にあるクイルで適性を見てもらい、多少のお布施をすれば望みの職業に変更してもらうことが出来ます」
へぇー、結構簡単に変更できるんだな。
「あれ?だったらなんで村人のままの人が多いんだ?村人のままでいてなんか得することがあったりするのか?」
「それは・・・適性のあるものしか変更できませんので・・・」
背中を拭く手の力が少し緩んだ。顔を見ていなくてもそこから落ち込んだような感情が容易に読み取れる。
「オリヴィエも見てもらったのか?」
「適性のある村人はどんなに遅くとも14歳で変更が出来ると言われております。・・・でも私にはその適性はありませんでした・・・」
俺はシステムサポートに戦士の取得条件を聞いてみた。
適性がなかった、それを調べて職業変更をしようとしたということだ。
であればそれを叶えてあげたい。
戦士は村人Lv10以上で
自身の攻撃により魔物のHPを半分以上減らして
討伐することで取得することが出来ます
なるほど。
「オリヴィエは魔物を倒したことがあるか?」
「はい。村の住人と複数人で討伐しました」
「その中に適性があるものはいたのか?」
「いえ・・・私が居た村では適性のあった村人はおりませんでした・・・」
村人は戦闘が苦手な職業だということは容易に想像ができる。
そしてその職業しか持たないものが、魔物のHPを半分以上削って倒すなんてことはかなり難しいことなのだろう。
「私は戦闘職への適性がなく、戦いでご主人様の力になることは難しいかもしれません・・・ですが、精いっぱいお世話させていただきますので、どうか・・・」
悲しい声を出して落ち込むオリヴィエも可愛い。可愛いが、やはり彼女には暗い顔などしてほしくないな。
「んじゃ、明日にでも戦士に変更しようか」
「え?」
疑問符一つでここまで可愛いのだから凄い。
「しかし、私に適性は・・・」
振り返って見たオリヴィエの顔は可愛い・・・驚いていた。
「大丈夫だ。俺に任せなさい」
そういうと、
「はい」
ふわふわの尻尾を大きく揺らして可愛い笑顔を見せてくれた。
さて、今日俺はオリヴィエを何回可愛いと思ったのだろうね。
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