第20話 センス
「ふむ・・・」
オリヴィエからの提案を受けてマーキンへの報告をどういう形にするかを街に向かいながら考えてみるか。
オリヴィエの言う通り、あの奴隷商人が死ぬ前に譲り受けたっていうことにする方がいいのかな?
問題点があるとすれば、オリヴィエを譲るっていうことを信じてくれるか、かな?
どんなに気前がいい奴隷商人が居たとしても、知り合ったばかりのやつに運んでいる途中の奴隷を譲るなんてのはこの世界初心者である俺だっておかしいと思う。
しかもオリヴィエの見た目はかなりいい。日本で見かけたら耳と尻尾が無くても3度くらいは振り返る自信がある。
そんな彼女を譲り受けたなんてのは無理があるってもんだ。
それに、俺は2日前にマーキンとあった時、金がない旨を伝えてしまっている。
だからたまたまあった奴隷商人から金で買い取ったというのも不自然すぎる。
購入したってのもないな・・・。
「オリヴィエをタダで貰ったってのはとおらなそうか・・・」
そう呟くと後ろから聞こえていた足音が一瞬鈍ったように聞こえたが、すぐに元のテンポに戻った。
なにかに躓いたかな?
「まだ傷が痛むか?」
「あ、いえ・・・傷はもう大丈夫です」
痛みが原因かと思って少し心配になったが違ったか。
「とりあえず俺の奴隷っていうことは隠しておくっていうのはどうだろう?」
「所有者は鑑定でわかりますので街へ入るときにわかってしまうと思います」
あの鑑定、俺のと違ってレベルが表示されてなかったり複数の職業が見えなかったりして微妙なのにそこは分かるのね・・・。
「それに、例え調べを回避して街へ入ったとしても私の身柄はあの奴隷商の系列店へと渡され、結局そこで所有者が判明してしまいます。そうなると疑問に思った奴隷商が騎士へ通報がいき、ご主人様に事情聴取にくるかもしれません」
なるほど。
どちらにしても奴隷商人でもない俺がオリヴィエを所有していることに疑問が生じてしまうわけだ。
実際は奴隷商人なんだけどね。
一旦オリヴィエを手放して所有者でなくそうかという考えも一瞬頭をよぎったが、それは0.1秒で霧散した。
オリヴィエは手放さんぞ。
手放すくらいだったら、ファストに帰らない方がいいくらいだ。
「ふむ・・・奴隷商人とはフォレストハウンドに襲われる前に出会ったことにして、そこでたまたま出会った俺がオリヴィエを見初めて交渉し、購入したことにしよう」
少し無理がある気がするけど、なんとかするしかないか。
「見初め・・・」
「最悪、入ることが難しそうなら調べられる前に中に入ることは諦めよう」
「いえ、この付近の街はファスト以外だとかなり離れた場所になります。ご主人様に野宿などさせるわけにはいきません。その場合は私のことはお気になさらず・・・」
いい子やなぁ・・・どういう育ち方をしたらさっき出会ったばっかの俺なんかのためにそこまで献身的になれるのだろうか。
「いや、その選択肢だけはないな」
だが断る・・・ってやつだよね。
その後も2度ほど食い下がってきたが、俺がまったく聞く耳を持たずに即答していたら引き下がってくれた。
そんなことをしていると、ファストの大きな外壁が見えてきた。
「ん?その奴隷はどうしたんだ?」
オリヴィエをみたマーキンは挨拶もなく開口一番に疑問をぶつけてきた。
「ここへと向かう奴隷商人の馬車に途中で出会ったんだが、そこでこの子を買い取った。だが、その後にフォレストハウンドの群れに突然襲われてな・・・。なんとか撃退したが、この子以外はやられてしまった」
俺がここに来るまでに考えていた言い訳をする。
大丈夫だとは思うが、泳ぎまわりそうな目をなんとか止めようと、いつもより顔に力が入ってしまう。
「お前・・・こないだまで金がないって言ってなかったか・・・?」
「いや、現金を持っていなかっただけで、かさばらない宝石を持っていたんだ、彼女はそのすべてを使ってなんとか譲ってもらった」
想定内の質問に答える。
何も考えてなかったらどもりまくりの慌てまくりだっただろうな・・・。
「・・・ふむ、まぁいいだろう。俺はその現場に行ってみる。とりあえず鑑定で確認だけさせてくれ」
「了解」
そういうと俺、オリヴィエの順番でクイルによる鑑定をうける。
「確認した。襲撃場所は街道沿いであってるか?」
その問いに頷くと、マーキンは詰所の奥にある扉へ入って行くと、すぐに出てきて外へと走って行った。
「ふむ。案外あっさりだったな」
オリヴィエのステータスに俺の名前がある以上、多少の疑問はあっても今はそこに時間を使うよりも、いち早く現場に向かうことの方が大切ということなのだろう。
「それじゃ街へ行ったら、オリヴィエの服やらなにやら色々と必要なものを買いに行こうか」
「私の服は破れた部分を多少繕えば問題ないので気にしていただかなくても大丈夫です」
「いや、そうもいかんだろう。服を買うくらいの金はあるから遠慮しなくていい」
元々素材の悪い服がフォレストハウンドに襲われてもうボロボロなのだ。
それによく見たら裸足じゃないか。全然気が付かなかった。
俺はオリヴィエを連れ、そのまま街の服屋へと向かった。
場所はその辺の人に聞いたらすぐに教えてくれた
店の中に入ると色々な服はあったが、ハンガーのようなものにかけてあるというようなことはなく、すべてが棚の中に畳んでしまってある状態なので、見づらいことこの上ない。もっと商品陳列に工夫した方がいいんじゃないだろうか。
「気に入ったものを適当に4、5着くらい選ぶといい。靴も好きなのを選んでくれ。あ、俺も着替え分がほしいから数着見繕ってくれるか?」
「わかりました。ありがとうございます」
服の値札を見る限り、今オーダーした分以上に買ったとしても予算を超えることはないと思う。
俺には服のセンスなんてもんは皆無だ。きっと前々世くらいに置いてきたんだと思う。出来ないことは出来る人にやってもらえばいいのだ。
オリヴィエはしばらくは棚の服を出したりしまったりしていたが、服のチョイスが終わったのか、4着を手に・・・ん?
「オリヴィエ・・・手にしたそれは自分の分だよな?」
「はい。ご主人様の分はこれから選びたいと思います」
「おおぅ」
オリヴィエよ。君が手にしているのは何用の服なの?
手にしたすべてが緑と黒の縞模様って・・・。君はどこぞの国の特殊部隊かなにかかい?
さらに俺の分といって楽しそうに選んで手にしたのは、ピンクに黄色の水玉模様。そして鮮やかな赤な生地にどす黒い赤のストライプという斬新なものを手にしようとしたところでそれを静止した。
「すまんオリヴィエ。なんか突然服を選びたくなってきたわ。俺が選んでもいいかな?」
「え?そうですか・・・わかりました」
俺の言葉に凄く残念そうな顔をするオリヴィエ。なんか申し訳ない・・・。
けど、ちょっと君が選んだ服を着る勇気がまだ俺にはない。未熟な俺を許しておくれ。
ちなみに言うと、決してこの服屋がそんなデザインばかりということではなく、数少ない奇抜なデザインを的確且つ迅速にオリヴィエがチョイスしていった。
いるんだな、世の中には。天才ってやつがさ。
俺は誰もが選びそうな無難なデザインの服を選んだ。
だけど狐人族のオリヴィエには白地に髪色と同じような淡い狐色の模様が入っている服が似合いそうだと思い、選んだ。
ほんとは俺のアニメ知識が疼き、巫女服みたいなの着てほしかったけど、そんなものがここにあるわけがない。
というわけでオリヴィエには淡い色の服をメインに5着、俺のはなんの特徴もない白地のものを3着買った。
あとは靴だが、これに関しては選ぶもくそもなく、1種類しかなかったのでサイズの合うものを1つ購入した。
「よし、こんなもんかな。他に何か必要なものはあるか?」
「いえ、服をいただけただけで光栄です」
「欲しいものがあったら遠慮なく言ってくれ。俺はここでの生活にあまり慣れていないから、むしろ色々教えてくれると助かる」
「あ・・・そうですよね。わかりました。では、少し雑貨屋の方に寄っていただいてもよろしいでしょうか?」
なんか妙に納得された感じがするのは俺が田舎者っぽいってことだろうか。
おじさんちょっとショック。まぁ肉体的には17歳らしいけど。
服屋を出た俺達は、オリヴィエリクエストの雑貨屋へと向かう。
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