第12話 安堵
マーキンに連れられて詰所に入り、クイルによる鑑定チェックを経て無事、街へと入ることが出来た。
「あ、身分証はなんかあったときに必ず必要になるから冒険者ギルドにでも行ってとっておけよ」
「ありがとう。銀貨は必ず返しに来るよ」
ゲームと全く同じセリフで見送ってくるマーキンにお礼をいい、冒険者ギルドへ向かう。
「宿屋代を確保しないとな」
街の中に入るとその光景に少し驚いたが、考えてみれば当たり前だとその思いはすぐに鎮静化した。
あんなにすべての建物が同じなわけないよな。
どれも似たような三角屋根の建物だが、それぞれ少しずつ違う。
それだけでも街並みってのはかなり違うものなんだな。
そんなことを思いつつ、冒険者ギルドのある場所にたどり着いた。
「あれ?」
と思ったら、ゲームであった場所に冒険者ギルドはなかった。
街の構造・・・もしかして変わってる?
前は門からほど近い5~6軒ほど先にあったはず・・・。
建物の形自体が変わっているから隣が元の建物かどうかもわからない。
もしかしたら森や草原の時のように街自体の規模も大きくなっているのだろうか・・・。
もしそうなら規模は変わっても位置関係は変わらないはず。
それならばこのまま直進すれば右手に見える・・・はず。
そう思い続けて直進し続けたら20軒目を過ぎたくらいでやっと見えてきた。
あるとは思っていたが、自分でも思ったよりも不安だったようで結構深いため息がでた。
「ようこそファストの冒険者ギルドへ」
両開きの扉を入ると、前と同じ可愛い声と笑顔で話しかけてきた。
「ギルドカードの発行をお願いしたいんですが、ちょっと今手持ちがなくて・・・費用をこのククレ草で払えないでしょうか?」
採取中からずっと考えていた台詞だったからすらすら言えた。
「了解しました。それで大丈夫ですよ。それと・・・冒険者になられるなら、敬語はあまり使わない方がいいですよ」
可愛い笑顔に可愛い声で唇に人差し指をつけてウインクしながら注意しないでくれ・・・。
ホレテマウヤロォーーーー!!
実際リアルで見るとすっっごい可愛い・・・。
「わ、わかった。じゃあこのククレ草すべてを発行料と過剰分は換金でお願いしたい」
ニヤケそうになる顔をなんとか抑えながら手持ちすべてのククレ草を机の上のトレーに乗せる。
「わぁー。凄い数ですね。確認してまいりますので少々お待ちください」
トレーを持って裏手に回る受付嬢は去り際までいい笑顔を向けてくる。
もう無理。頬の緩みが止まらねぇよ・・・。
酒盛りをしているムサイ男達がこちらを見ながらウンウン頷いているのがなんかムカつく。
「ククレ草68個で10200ルクになります。ここからギルドカードの発行手数料を引いて、残りが5200ルクですね」
ククレ草がなくなったトレーに銀貨5枚と銅貨がいっぱい乗せられ戻ってきた。
よかった・・・これで今日の宿代に飯代と門番に立て替えていた銀貨1枚を払ってもまだ余裕がある。
ゲームの時はご飯の心配などいらなかったが、今は俺の腹の虫が暴れまわっている。今すぐよこせと轟叫んでいる。
「では冒険者登録とギルドカードの発行をしますので、こちらのクイルに手をおいてください」
もう見慣れたクイルに手を置くと、いつものステータス画面が出て
「はい、職業落ちの方ではないので問題ありません。こちらがギルドカードになります。今後、ギルドの報酬はこのカードに入れるか現金で受け取るかの選択ができます。この街はもちろん、ギルドの存在するところであればクイルを通し、ギルドカードで買い物等をすることができます。ギルドカードは登録した本人にしか使用できませんが、紛失した場合には発行手数料の銀貨5枚と同額かかりますので気を付けてくださいね」
ゲームの時と違って現金にもできるのね。
「了解した。あ・・・買い物できるって言ってたけど、宿屋なんかでも使えるのかな?」
ゲームの時は全部電子マネー的清算だったから考えなかったけど、もしできない場所があるのであれば現金もいくらか持ち歩かなくてはならないだろう。
「ギルドのある街で商売する場合、大抵はギルドに所属しているので正規の店舗であれば問題ないはずです・・・逆にギルドカードで精算できないような場所での買い物は危ないのであまりオススメできません」
ギルドを通さない商売はギルドを通せない理由があるものだから危ないと・・・。
なるほどな。
ギルドへの所属のハードルが物凄い高ければ別だけど、さっきの料金を見ればそんなことはなかったからまっとうな商売をしている人はギルドに所属しない理由はないように思える。
現金を持ち歩かなくていいし、ギルドカードは他人には使えないので盗難の心配も少ない。それにカードを奪われるよりも売り上げた現金を奪われる方が何倍も痛いはずだ。
だから普通の商売人はギルドに所属する。反対に所属していない商売人は「普通」ではない可能性が高い・・・ということなのだろう。
「わかった。それじゃあこの硬貨もギルドカードに入れておいてくれないか?」
カード一つで買い物が出来るならば現金を持ち歩くのは面倒だ。
今後なにかしら必要なことがあるかもしれないが、今は特に必要性を感じない。
「かしこまりました」
そういった後に俺のギルドカードを少しクイルにかざすとそれを渡してきた。
「ありがとう」
これ以上この笑顔を見ていると意味もないのにここに通ってしまいそうなのでギルドカードを受け取りすぐに退散することにする。
この下腹部から響く悲鳴もそろそろ止めたいし、さっさと宿屋へ行こう。
白鯨亭への道程もやはりギルドの時と同じくゲームよりも距離があったが、ここに至るまでの道はまっすぐだったので迷うことなく白い鯨の看板を発見することができた。
もしどこか一か所でも道を曲がらなければならなかったとしたら、距離が伸びた道は十字路などの交差点や無数のT字路も相対的に増えていたので、どこの道を曲がれば正解なのかがわからなくてもうちょっと見つけるのに苦戦したかもしれない。
「いらっしゃい。食事かい?それとも部屋の利用かい?」
扉を開けると少しぽっちゃりめの白いエプロンを付けたおばちゃんが話しかけてきた。
「両方で。食事をとった後に部屋も利用したい」
「1泊450ルクで食事は1回につきプラス50ルクだよ」
もうここにきて半日なにも口にしていなかった俺はとにかく腹が減っていたのでギルドカードを提出した。
おばちゃんはそれを受け取り小さな受付の机の下にギルドカードを持っていったと思ったらすぐに返却してきた。
「食事はすぐに用意するからあそこのテーブルで待っていておくれ」
今ので会計が済んだのか・・・。
マジで電子マネー並かそれ以上の便利さだな。
テーブルに着くとすぐに食事が出てきた。
ゴロゴロと大きめに切ってある野菜の中におまけ程度に混ざった肉のスープに二の腕サイズのパン1個というとてもシンプルなメニューだ。
「明日の朝もここで食事をとるようなら声をかけておくれ。料金は今回分しかとってないから必要ならその時にまた50ルクいただくよ」
了解の旨をおばちゃんに伝え、出された食事をさっそく口にする。
スープはよくも悪くも見た目通りの味だったが、今の空腹というスパイスが付与された俺には十分美味しく頂けた。
しかしパンは硬く、日本の柔らかいそれに慣れていた俺にはそのまま食べるのはちょっときつかったから、スープに浸してふやかしながら食べる。
スープの味付けも濃いめだったからパンは元々こうして食べるのが正解だったのだろう。
その後、食事をすべて一気に食べ終わった俺は案内された2階の部屋へ行き、倒れるようにベッドに沈むと急激な睡魔に襲われた。
「疲れた・・・」
異世界に来て一気にここまで駆け抜けてきた気がする。
野宿の危険性から日暮れがタイムリミットとなってしまったためにゆっくりすることもできなかった異世界生活初日だったが、なんとか時間内にこの目的地へと来ることが出来た。
俺にとってここは念願の異世界だ。
明日からはもっとのんびり過ごして、異世界生活をじっくり楽しもう・・・。
そう決意した俺は、そのすぐ後に眠りへと落ちた。
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