第11話 急げ

「あのエフェクトはこれを表現したかったのか・・・」


ゲームの時は違和感でしかなかった表現は、目の前の光景には見事にマッチしていた。


中に入ってみると外から見た印象よりも若干木と木の間に空間はあったものの、ゲームの時とは比べ物にならない。

あの時連想したのは完璧な間伐で整備された雑木林だったからな・・・。


「そうだ。ククレ草の採取もしていこう」


決して効率厨的な思考からの行動じゃないぞ。


街に入るにはお金が必要なはずだし、俺はお金を持っていない。

だから中に入る際に物々交換での交渉を試みるつもりなのだ。


ゲームの時は木の傍にたまにある草のオブジェクトが何らかの採取対象アイテムだったのだが、その時とは違って見た目上での判別難易度がもはや別次元なため、採取に際しては鑑定が必須な状態だ。


草の知識を持っていたり熟練の見極め方を持っている人ならいけるのかもしれないが、どちらも皆無の俺には鑑定がないと何の価値もない雑草だけで両手が埋まること間違いなしだ。


ゲームと違ってここでの採取はできないかもと思ったが、最初の鑑定で「ククレ草」を確認できた。

傍に生えている草を見比べても、全然区別がつかない・・・。

ちなみにククレ草以外の草の鑑定結果はすべて「雑草」であった。


鑑定の対象ではあるのでアイテムだけに鑑定が使えるといったことではなく、おそらくはこの世界で認知された名称が出るんじゃないかな。

雑草とでた草は人々に名付けられることなく雑草とだけ認知されているのだろう。


つまりこの考察が正しければ、もし凄い効果のある薬の材料であるにもかかわらず人々に発見されその効果が認知されて名前がつけられるまで、鑑定結果は「雑草」ということになる。


鑑定も便利だけど、完璧ではないということかな。


俺の考えが違うだけかもしれないけどね。



とりあえず、ストレージのスキルもないのに無駄かもしれないものを採取するわけにはいかないのでククレ草だけを手に取り、ズボンの紐を物干し竿に干す洗濯物のようにかけていく。


手に持ったまま魔法を撃って燃えたりしたら嫌だからね。


ククレ草の価値と街に入る金額がゲームの時と同じなのかはわからないが、同じだとしたらククレ草を10個も持っていけば十分なはずだ。

銀貨1枚分で難色を示されたら多く渡してもいい・・・が、できれば余り分を冒険者ギルドの登録と宿代の費用にあてたい。


そうなると門番に払う分が銀貨1枚でギルドカード発行手数料が銀貨5枚、白鯨亭の宿泊料が銅貨45枚だったっけ・・・。


合計銀貨6枚と銅貨45枚で6450ルク。


ゲームでは30個で4500ルクだったから43束でピッタリだけど、そもそもの買取価格が違ったり、交渉が難航した場合に備えてもうちょっと多めに採っておかないとだめか。・・・持てるかな?

ストレージほしい・・・。



鑑定で発見したククレ草を採取しつつ道なき道を進んでいると・・・



   ギャッ!



「ぎゃあ!」


突然木の裏からゴブリンが顔を覗かせ、バッチリ目が合った。


あまりの驚きにゴブリンのような悲鳴をあげてしまったが虚を突かれたのは向こうも同じだったようで、鏡合わせのようなリアクションになってしまった。


俺の方が一瞬はやく攻撃を仕掛けられたため、ゴブリンのこん棒は空を切った。


「あぶねぇ・・・」


そういえばここにもゴブリンが出るんだった。


ゲームでは街に入るまで1匹も遭遇しなかったとはいえ、ククレ草採取に集中しすぎてちょっと油断してたな・・・。


空振りしたこん棒に振り回されて体勢を崩していたゴブリンに魔法を放ち、再び剣で切りかかる。


すぐに反撃への備えをとったが、その必要はないことをシステムサポートの表示に教えてもらった。


倒したときにすぐ表示してくれるのは無駄な心構えが減って結構便利だ。



その後は採取と同時にゴブリンにも警戒し、森を直進していく。


時々遭遇するゴブリンを3匹程倒したとき、街道へとたどり着いた。


左右に伸びる様子は同じだったがやはりゲームとは森の規模が違うようで、左を見ても右を見ても森を抜けた光景は見えなかった。

まぁそんなことはここに至るまでにかかった時間で容易に想像できたので驚きはない。


ゲームでは硬めのカップラーメンが出来上がるほどの時間だったのに、今は体感4時間くらいはかかったはず。


ゴブリンに出くわしてからは結構な緊張感をもって移動を続けていたので、もう少し短いかもしれないが、そんなに大きくは違わないはずだ。


俺はすぐに左方向へと駆け足で進みだす。


森の中では気が付かなかったが、すでに日が暮れかけていたからだ。


あの森の中で走るわけにはいかなかったが、この街道は見晴らしという点で草原には劣るものの、森の中とは比較にならない。

道の真ん中を走れば横からの警戒だけでいいし、ククレ草はもう十分すぎるほど採取してある。


ちょっと採取しすぎて腰回りがすべて草でおおわれてしまい、草の腹巻みたいになっているほどだ。

保温効果もバッチリだぜ。むしろ暑い。



10分程走っていて思ったがこの体、全然疲れない。


17歳に若返っているのを鑑みても、俺の高校時代はバイトしかしてなかったしこんなに体力はなかったはずだ。

全力ではないとはいえ、10分も駆け足をしたら普通は息切れの一つもするはずだ。

なのに今はびっくりするくらい快調だ。マラソンよりもはやいペースなのに。


まだまだいける。あの太陽に向かっても走れるぜ。

ちょうど目の前で沈みかかっているしね。



そしてさらに10分ほど走りさすがに疲れ始めてきたころ、地平に消えそうな太陽の下に見たことのある壁と門が見えてきた。


しかし、いつも開きっぱなしだった門が閉まって・・・いや、今まさに閉まろうとしていた。


「ちょ、ちょっと待ってくれーーーー!!」


ここまで来て野宿はいやだ!


俺は閉じかけの門に向かって大声で叫び、慌てて駆け寄った。全力で。


「お?他から流れてきた駆け出しの冒険者かい?門は日暮れで閉まるが、通用門から呼び出してくれればちゃんと対応するからそんなに慌てなくても大丈夫だぞ」


たしかに大きな門を閉じても普通サイズの扉が詰所側についている。

さすがに馬車などは通れないだろうが、夕暮れ以降は人の出入りのみが可能なのだろう。

日が暮れた状態で馬や馬車が通れるのは街のセキュリティ面で問題が出るということか。


「はぁ・・・はぁ・・・よかった。これで野宿せずに済む」


20分以上走ったあとにするダッシュはこの体でもやっぱりきついか・・・。


なかなか呼吸がおさまらん・・・。


「ここに来るのは初めてだよな?」


ゲーム中ではあれだけ重厚な鎧を着ていたマーキンだったが、ここではだいぶ軽装になっている。

思えばこのくらいの規模の街であんなフルプレート着ているなんておかしいよな。


「ああ・・・ただ今手持ちがなくてな。その分をこのククレ草で払いたいんだが、大丈夫か?」


そういって腹に括り付けていたククレ草を一つとってマーキンへ差し出す。


するとマーキンは少し困った顔をして


「いや、俺にはそれがククレ草だとわからないからそれは出来んぞ」


あ・・・たしかにそりゃそうだ。

俺だって鑑定が使えなきゃこれが雑草なのかククレ草なのかまったくわからんからな。


採取になれている冒険者ならともかく、街の門番がそんな知識を持っているわけないか・・・。


「まぁ職業落ちじゃないなら銀貨1枚は立て替えといてやるよ」


俺が落胆の表情を浮かべていたのを気の毒に思ってくれたのか、マーキンは譲歩案を出してくれた。


「ありがとう」


「ははは。いいってことよ、これで盗賊だったりしたら遠慮なくたたき出すだけだ。鑑定するからこっちへこい」




ゲームの中で散々無視してごめんよ。マーキン。

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