第9話 システムサポート
うお、ゲームと同じ動きだけどあの荒かったグラフィックじゃない現実の今はめちゃくちゃリアルだな。
腰程にしかない身長を大きく左右に揺さぶりながら近づいてくるソイツを迎え撃つために右手に持った剣に力を込め、腰を落として構える。
いよいよもう少しで剣の間合いに入ろうか入らないかというところまで迫ってくると、そいつは跳ねた。
ぴょーんと俺の頭位まで。
「うおっ!?」
少し不意を突かれた俺は変な声を口から漏らしながらも、事前に色々覚悟を決めていたためにそれへの対処は冷静に行えた。左足で地面をけり、右方向へ跳ねかわす。
二の手を警戒して素早くゴブリンの着地点に視線を移すが、そこにそいつはいなかった。
焦った俺は、首を左右に振って行方を追うがどこにもいない・・・と思ったがそいつは消えたと思った着地点の草むらからひょこっと顔を出し、不思議な顔をしてキョロキョロと周りを見渡していた。
・・・ん?これ・・・。
ゲームの時と同じじゃないか?
最初に遭遇したゴブリンも全く同じ動きをしていたはず。
ゴブリンはたくさん倒したが、最初の1匹はよく覚えている。
前にも体験したなんとも間抜けな様子のゴブリン目掛け、右手の剣を振り下ろすと
グギッ!
という苦しげな声をあげながらも、体の割に少し大きめの頭をこちらに向けてギロリとこちらを睨みつけた。
「あ、あれ・・・?」
剣はゴブリンの左首筋に刺さってはいるものの、どう見ても致命傷には見えない。
その証拠にコイツは俺のことを睨み、こん棒で殴りつけてきた。
「痛てぇ!!」
とっさに左手でガードを試みたが、とんでもない衝撃が左半身全体を襲った。
振り切られたこん棒の勢いは俺の体を弾き飛ばし、草原をゴロゴロと転がす。
これはまずいぞ・・・こんなのをあと数回くらったら動けなくなる。
おかしい・・・ゲームではゴブリンは剣でも魔法でも一撃だったはず・・・。
「くそっ!あのゲームは所詮チュートリアルだったってことか!?」
悪態をつきつつも痛みをこらえてゴブリンに体を向きなおす。
かなりの痛みを与えられたがこん棒で体を飛ばされたことでゴブリンとの距離が取れたことは不幸中の幸いといえよう。
ゴブリンは紫の血を左の肩口からダラダラと流しながらも、その闘志は失われた様子もなくまだこちらを睨みつけていた。
「ファイヤーボール!」
今の状況で近距離戦を挑むのは危険だと警告してきた俺の体の痛みに従い、狙いを定めて魔法を発動させた。
ギャッ!
見事に顔面に命中し苦しそうな声をあげたゴブリンだったが魔法でのけぞらされた体を元に戻し、こちらに突進してきた。
「くっ!・・・この!!」
クールタイムがあるから今はもう魔法は使えない。
俺は片手で持っていた剣を両手で持ち、目一杯の力を込めて突進してくるゴブリンにタイミングを合わせて袈裟斬りを仕掛ける。
剣はゴブリンの胸に斜めの傷口をつけそこから数瞬遅れで紫色の液体がふきだし
、倒れた。
やっと倒れた・・・。
今まで一撃で倒せてた上に攻撃を受けても画面が少し赤くなるだけだったのが、痛覚でそれを伝えてきて剣でも魔法でも一撃で倒せなかった。
事前に慎重にいこうとか思ってはいたが、やっぱり実体験を伴うと全然違うな・・・。こん棒で殴られるのはもう御免こうむりたい・・・。
ゴブリンを倒しました
ポーションをドロップしました
「んお?」
不意を突かれてしまって変な声が出た。
・・・もしかしてこれがシステムサポートか?
この世界にきてすぐ目の前に「有効化された」とか表示されていたけど、それが気にならないくらいの衝撃があったのですっかり忘れていた。
「ポーションのドロップってどれだ?」
倒れているゴブリンのもとへ歩み寄ると、その傍らにガラス瓶でゲーム内の万屋でポーションとして売っていたものと同じ見た目のものが転がっていた。
「ゲームで最初に倒したゴブリンが落としたのはこれだったのか」
あの時は踏みつぶしちゃったんだよな。
とりあえずポーションを使おう。
さっきからめっちゃ痛いんだよね・・・脇腹・・・。
でもこれってどうやって使うんだろう?
ポーションを使用したいときは瓶の栓を抜き、
内容物を飲み干してください
効果は半減しますが、患部に振りかけても効果はあります
「あ、これはご丁寧に・・・普通に飲めばよかったのね」
サポートってこんなことまで教えてくれるんだな・・・。
さすがボーナススキル。
手厚いサポートに従いポーションの栓を抜き、中身を飲み干す。
「ん?これって・・・」
うまいな。というか味がまんまスポーツドリンクじゃないか。
アクアの方じゃなくスウェット寄り。
「おお、痛みがスッカリ消えた」
さっきまでジンジンと絶え間なく襲ってきていた痛みがポーションを飲んだ瞬間、嘘のようになくなった。
ポーションが凄いのか、俺の体力がしょぼいのか・・・。
どっちにしてもこれは街にいったらストックしておこう。
あ、そういえばボーナススキルにはストレージとかアイテムボックスのような異世界転生ものに必須のスキルはなかったけど、この世界にはないのかな?
スキル「ストレージ」は大商人のスキルです
大商人のジョブを得ることで使用可能になります
大商人・・・ってどうやってとるんだ?
大商人の取得条件は商人、武器商人、防具商人、奴隷商人を
それぞれLv20以上にすることで取得できます
職業ってレベルをあげると新しく取得できるのか。
これは色々楽しみだな。
「システムサポートさん、ちなみに武器商人と防具商人の取得条件も教えてもらっていいでしょうか?」
武器商人、防具商人は共に村人Lv5以上に
することで取得できます
村人Lv5か。村人ってレベル上げる意味があったんだな。
設定しとくか。
PT設定変更で今のところ使わなそうな商人を村人に変更しておく。
やっぱりストレージはほしい。
異世界転生ものでほしいスキル上位なはずだ。
しばらくはこれを目標にレベルを上げていこう。
「あ、システムサポートさん。俺って職業に僧侶がついてると思うんだけど、僧侶って回復魔法とか使えるのかな?」
僧侶のジョブは「ヒール」を使用できます
おお!
定番中の定番なのに今の今まで気が付かなかった。
ダメージを実感したのがさっきが初めてだったからしょうがないか。
というかヒール使えるんだったらポーションとっとけばよかったな・・・。
後悔先に立たず。後の祭り。覆水盆に返らずってね。
そしたら体力も解決したし、街を目指すか。
ゲームだったら別にいいけど、このままここで夜を過ごすことになんてなって暗闇でモンスターに襲われでもしたら何回でも死ねる自信がある。
ゲームで見た景色と少しスケール感の違いはあるし、もしかしたらこの世界とあのゲームでは地形が違うかもしれないが、どちらにしてもここにとどまるという選択肢だけはない。
ゲームの時と同じ道筋をたどってもファストの街に着かないようであれば、その時はその時だ。
歩き回って街でも村でもそれがなかったら最悪洞窟でもいいからとにかく安全に睡眠がとれるスペースの確保をしなければならないだろう。
とりあえず行動に移すか。
目指すはファスト。
そして2泊したのに横たわった経験がない白鯨亭のベッドだ。
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