第8話 リスタート
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気が付くと草原に立っていた。
目の前にはウィンドウが開いている。
見渡す限り左を見ても右を見ても草原。
だいぶ遠くの方にうすーく森のようなものが見えたりはするものの、大体膝丈位の草たちがゆっくり風になびいていた。
いや、後ろに一本だけ木が生えているか。
この木なんの木と広告で延々問われそうな感じの一本木と同じ印象が頭に浮かぶ。
暗転後に突然広がった目の前の光景が俺の思考力を鈍らせている。
しばらく何も考えられずにぼーっと立ち尽くしていたが、その時間が徐々に思考力を取り戻させていく。
「ここは・・・」
俺はこの光景を知っていた。
ほんの3~4時間前に見た光景だからだ。
俺のPCに届いたメールのURLをクリックしただけではじまり、最小限の設定だけで突然はじまった名前もしらないVRゲームで最初に見たその景色だ。
ただこれは・・・ゲームなんかじゃない。
全身の感覚がそれを告げてくるし、今まではゲームのグラフィックだったのに目の前にあるのはどう見ても現実の草や木だ。
それにさっきまで手だけ表示されていて、体は透明だった。
コントローラーなんてものも持っていないければヘッドセットもかぶっていない。
下を見ればちゃんと体もあるし、ちゃんと触れる・・・ん?
自分の腹や太ももを撫でまわしていたら視界の端にゲーム内で見慣れたものを発見する。
剣だ。
あのトリガーを押すと出て来たやつと同じ剣だ。
拾い上げるとしっかりとした重みも感じる。
銅の剣
剣に重なるように小さなウィンドウが開いてそれが銅の剣と教えてくれた。
鑑定も使えるのか。
つまりこれは・・・。
「異世界転生だーーーーーーーー!!!」
これが実は夢だったオチは明晰夢の経験も持つ俺には通用しない。
あれは意識を保った夢であってその感覚は現実とはかけ離れたものだった。
今感じているこの経験は絶対に現実だ。
肌に感じる流れる空気、草原の匂い、揺れる草に後ろの木が落とす影。
まわりに存在するすべてが現実と叫んでくる。
口に出したり表層の意識に思ったりすることはなかったが、異世界転生ものを読むたびに俺の深層ではそれへの憧れがどんどん膨らんでいたことは認知していた。
やったぜ!
念願の「異世界転生」をしたんだ!!
俺はしばらくの間自分の身に起きた奇跡に歓喜し、興奮していた。
「待て待て、まずは確認だ」
そんな自分を無理矢理落ち着かせる。
「異世界ものは色々だ。ここがチートで俺TUEEEできる世界だったらいいが、そうじゃない作品もある。転生者がいっぱいいてほとんどが死ぬようなやつもあったはずだ」
まずはステータスを確認しよう。
名前
アマノ サトル
性別
男
年齢
17
種族
人族
職業
戦士 Lv1
魔法使い Lv1
僧侶 Lv1
盗賊 Lv1
商人 Lv1
奴隷商人 Lv1
ボーナススキル
MP回復倍増(20倍)
PT取得経験値倍増(20倍)
マルチジョブ(6th)
PT設定変更
鑑定
詠唱破棄
システムサポート
よっし!
ちゃんとボーナススキルもあるぞ!
このスキル群は無敵とはいいづらいけれど、この世界ではかなりのアドバンテージになるはずだ。
むしろこれからずっとここで暮らしていくのであれば、成長を感じられるこれらは俺好みだ。
しかもなんか若返ってる!
17か、どうりで体が軽いはずだ。
人生において最も動けていた高校生に戻った感じがする。
両腕はしっかり両耳につくように直角以上に上がるし、ぴょんぴょんと跳ねても両膝は痛まない。
若いやつにはわからないかもしれないが、運動も特にしてない40過ぎの男には伝わるはずだ。
若返ったのはかなりでかい、もし元の年齢のままここにきていたらあの生活習慣病や忌まわしいあの体質も引き継いでいた可能性もある。
そんなんじゃ新しい人生も楽しめないかもしれない。
せっかくの第2の人生・・・しかも異世界だ。思いっきり謳歌したいじゃないか。
そりゃもう色んな意味で。
しかし今はゲームと違って、死んだら生き返れない・・・はず。
生き返れるスキルや魔法があるかもしれないが、少なくとも今の俺は持っていないし、そんな希望的観測に駆けるほどのギャンブラーでもない。
人並みにパチンコなんかはたしなんでいたが、掛け金は自分の命なのだ。
ここは慎重にいきたい。
まずはレベルをあげて早々に退場することがないようにしたいな。
経験値倍増が20倍ってことは他人よりも20倍はやく成長できるってことだ。
しかも俺にはマルチジョブもある。
他にもマルチジョブ持ちがいるかどうかはわからないが、こういうボーナススキルって転生者特有のものだったりするはずだ。
もしそうじゃなかったとしてもかなり特殊な部類のものだろう。
20倍が職業の数分で分配だった場合は3倍ちょっとだが、もし6つすべての職業が20倍の恩恵を受けるとしたら、
120倍もはやく成長できることになる。
PTメンバーも対象になりそうなのも大きい。
何人までPTを組めるのかもまだわかってはいないが、メンバーは慎重に選んだ方がいいな。
ボーナススキルはなるべくバレたくない。
この世界がどんな設定なのかはまだわからないが、せっかくの異世界人生なんだからなるべく自由に動きたい。
よくある国や貴族に利用されるような展開にはしたくないし、自身の身分を上げて自らの自由を縛り付けることもなるべくしたくない。
一緒にPTを組んで活動すればスキル自体はバレなくても成長速度に必ず違和感を持つだろうし、その経験を積み重ねればスキルの存在にたどり着く可能性もある。
なにしろ2倍や3倍などではなく、20倍だ。
1年も一緒に行動すれば20年分の経験値を得られることになるのだから。
信頼できないやつをPTにして俺の能力に気が付いたそいつが誰かに俺を売ることすら考えられる。それは避けたい。しょうもないBAD ENDは嫌だ。
信用できる人物に出会えるまではPTを組まずに一人で行動することも考えておこう。
とりあえずは雑魚モンスターやその辺のチンピラにさくっとやられないようなレベルになりたいな。
次に俺は左手を前に出し唱える。
「ファイアーボール」
ゲームの時と同じく手のひらの先から火の玉が発射されるが、ゲーム時とは違ってそれは熱を伴っていて左半身に伝えてきた。
「すげぇ・・・」
ゲームでやるのとは全然違う。
魔法を使ったというなんともいえない感動が押し寄せる。
そして沸き上がった感動とは逆に体の中から少しだけ、何かが抜けたような感覚があった。
その正体はわからないが、おそらくこれはMPが減ったということだと思う。
ステータスにはHPとMPの数値がない。
なにかのスキルで確認できるのかもしれないが、今のところは自分の感覚に頼るしかないだろう。
数値で確認できないからには感覚を過信することなくなるべく慎重にいきたい。
命あっての物種だし、せっかく得たこの機会をくだらない過信で失うことはしたくない。
そんな自分への浮かれた気持ちに対し、自身で釘をさしていたとき
ギャア!ギャアァァ!!
ゲーム中で聞き飽きた声がした方向に目を向けると・・・
ゴブリンが右手に持ったこん棒を上下に振りながら奇声を上げてこちらに走ってきた。
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