第7話 暗転
横たわった馬車にたどり着いて初めて気が付いたが、馬車の進行方向の少し手前に男が横たわっていた。
この馬車の御者なのかな?
あそこで襲われて暴走した馬がここまで走って横転したっていう設定なのかな
荷台の幌の中に入り、中の様子を探ってみると、同じ服を着た無表情の男が一体、女のキャラクターが5体横たわっていた。
街の中のキャラもそうだが、今のところこのゲームのNPCって顔はみんな違うのに服装はみんな一緒なんだよな・・・門番以外。
門番もあの鎧の下は同じ服装なのかもしれないけど。
横たわっていたキャラクターはピクリとも動かないので、「ただのしかばねのようだ」状態だ。
子供のころは何も思わなかったけど、屍に対して「ただの」っていうはかなり酷いよな。
しかもその感想を持ってたのって勇者だし。
馬車の中には倒れているNPC以外には特に何もないようだった。
「なんらかのイベントなんだから何もないってことはないよな・・・」
次のイベントへのヒント的なものだったり、報酬アイテムがあったりするはずだ。
「こっちじゃないとしたら向こうか?」
俺はそう言って御者の方へと向かう。
御者も同じ服装ってことは、特別重要なキャラじゃないってことだよな。
と思いつつ御者のところまでたどり着くと、その傍らに紐で口を縛った小さな巾着袋のようなものが落ちていた。
それを拾って中を確認してみると、金貨が数枚と銀貨がいっぱい入っていた。
「なるほど、このイベントの報酬はまんまお金なわけね」
俺が持ってるのは銅貨と銀貨だけだから金貨は初めてだな。
価値がまだよくわからんが、貰えるものは貰っておこう。
巾着袋のほかには特になにもないようだ。
あの横転した馬車はなんだったんだろう、荷台に人が乗ってたから乗合馬車か何かかな?
こういうRPGってNPCは街の外にはいない印象がある。
だからこれはたぶん特殊なイベントなのだろう。
「新しいイベントも起こったし、街にいけばまた何か起こるかもしれないな」
街へと向かい、東門まで戻ってくる。
「お、今日ははやめに切り上げたのか?」
「ああ、イベントが発生したからな」
「イベント?毎回無視されてたのにやっと返事が返ってきたと思ったら、意味わからんことを言うやつだな・・・」
そういえば、ここを通るたびになんか話し声が聞こえてきてた気がする。
あれって俺に話しかけてたんだ。
NPCが話すことって毎回同じイメージだったから特に気にすることなくスルーしてたわ。
今回もするんだけど。
特別なイベントだったら移動に制限がかかるかなんかして強制的に話を聞かされるはずだ。
だったらこの会話はスルーしてもいいはず。
さよならマーキン。
大事な話があったら是非とも俺の足を止めてくれ。
止まらなかった場合は無視するので。
街に入った俺は、このファストの街を色々回ってみることにした。
考えてみたらここの街にきてから、冒険者ギルドと宿屋しか行ったことがないんだよね。
通りには結構色んな店もあったし、屋台のようなものが並んでいる場所もあった。
イベントやギルドの報酬で多少のお金は稼いだし今のところ必要ないかもしれないけど、これから強い敵とかも出てくるはずだから武器や防具といったものがどのくらいの値段で売っているのかとかも見ておきたいし、道具屋のようなところがあれば今は必要ないけど回復アイテムとかもいずれは持っておきたい。
目的は持ったがその目的地がわからないので、とりあえずは適当に歩いてみる。
今まで歩いたことのない道を行こうとしてとりあえず見かけた十字路を曲がってみたら、すぐに武器屋があった。
運がいいなぁ、と思って隣の建物を見たらそこは防具屋だったし、その向かいの店の看板には「万屋 アドーレ」と書かれていた。
最初の街はわかりやすくて助かるぅ。
「攻撃面も防御面も特に困ってないから、万屋に入ってみるか」
片開きの扉を押し込むと、手前の扉側以外の三辺すべてが棚になっていて、色々なものが並んでいた。
薬のようなものから生活雑貨まで万屋の名前に恥じない様々なものが並んでいた。
ポーションや毒消しといった王道なものはもちろん、洗濯で使えそうなタライやまな板っぽいものや食器なんてものも置いてある。
店の奥側にあるカウンターには店主と思われるキャラクターが立っている。
他のNPCのように近づいたら話しかけてくるのだろうが、ここの会話はスキップがないからな。
めんどくさいから近寄らない。
「ポーションはちょっと高いけど、雑貨なんかは安いな」
ポーションなどの薬品系は1個1000ルク以上のものがほとんどなのに対して、木製で出来ている食器なんかは20~30ルクで売られている。
雑貨は大きさや種類がばらばらなので一概にはいえないけど、大体20から高くても70ルクくらいのようだ。
「なんか値段設定がやたらリアルだなぁ」
ゲームのこういうものって食器や雑貨が剣と同じ値段とかひどいとハウジング要素は中盤の装備よりも高いみたいなものがあったりする。
まぁゲーム内の食器や家具なんてコレクション要素以外の用途なんてないから一回買ったら終わりだし、やりこみ要素として置いているなら安くしたら意味ないから当たり前なのか。
さっきから鑑定を使ってるけど、スプーンだなと思ったものはそのまま「木製のスプーン」でタライなんかも「木製のタライ」としか出てこないからやっぱりこれらはゲームの進行上の意味はないコレクションなのだろう。
「とりあえず今は必要ないかな」
これが欲しくなるのはラスボスを倒してなおこのゲームをやりたいと思った時だけだな。
ふぅ・・・なんだかんだで3時間以上はやったか?
いつもはVRゲームは1時間もやれば疲れてやめちゃうからなんだかんだで楽しかったんだな。
でもそろそろ今日はログアウトしようかな。
ここでしてもいいけど、次やった時はこの街をでてすぐ他の場所に冒険してみたいから一回体力を回復させとこう。
回復と言えば宿屋。
宿屋と言ったら白鯨亭ということでやってきた。
そして案内された部屋の扉を開け、とりあえず今日の総括の確認にとステータスを開いてみる。
名前
天野 聡
性別
男
年齢
42
種族
人族
職業
戦士 Lv5
魔法使い Lv5
僧侶 Lv5
盗賊 Lv5
商人 Lv5
奴隷商人 Lv5
ボーナススキル
MP回復倍増(20倍)
PT取得経験値倍増(20倍)
マルチジョブ(6th)
PT設定変更
鑑定
詠唱破棄
システムサポート
レベルがさらに1上がってるな。
フォレストハウンドはゴブリンより強いのかな?
ゴブリンを結構な数を倒してやっとレベル3だったのにフォレストハウンドを倒したら1上がったしゴブリンより経験値が多いのかもしれない。
まぁ常にレベルを確認していたわけじゃないから、ゴブリンでレベル4にあがるぎりぎりの経験値まで稼いでいただけかもしれないが・・・。
ここで、今まで職業やボーナススキルばかりに注目していた俺はあることに気が付く。
むしろなんで今まで気が付かなかったのか不思議なくらいだ。
「そういや俺の名前とか性別とか年齢ってどっかで設定したっけ・・・?」
・・・いや・・・してない・・・。
最初の設定みたいのはキャラクリエイトと職業、ボーナススキルの選択しかなかったはずだ・・・。
このゲームにおいて「文字」や「数字」を入力した経験がないから間違いないはず・・・。
奇妙な出来事に変な冷や汗が出て来た俺は、ログアウトもせずにゲームをやめようとコントローラーを床に落としてヘッドセットを取ろうと頭に手をやろうとした・・・瞬間。
目の前が真っ暗になった。
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