第6話 フォレストハウンド

東門を抜けてすぐの雑木林・・・もとい森へと再びやってきたが、入ってすぐにゴブリンと出会った。


魔法で倒したけど、ここのエンカウントってフォレストハウンドだけじゃなかったんだな。

まぁ1マップに1種類しかモンスターがいないんじゃゲームとして欠陥か。


とりあえず薬草を探そうと思ったが、薬草ってこの木のそばに生えてたり生えてなかったりするオブジェクトのことかな?


手を伸ばしてとってみる・・・と、膝丈まであった草の束が消えて手のひらで握って少しはみ出るくらいの草が手の中に残った。


採取できたはいいが、これって薬草なんだろうか?

なんの草だろう?





    ククレ草





お、これってもしかしなくてもボーナススキルにあった「鑑定」の効果かな?


確認のためにそばにあった木に鑑定と念じてみると・・・






    ヌグの木





という表示が出た。


どうやら、鑑定と念じても発動するし、これは何だろう?といったように疑問をもって見つめるだけでも同じく発動するようだ。


できればククレ草がどういう草なのかの詳細も知りたかったがそれはしょうがないか。


鑑定を使いつつ周りを見渡すと、ぽつぽつとククレ草が点在していたのでグリム童話みたいにククレ草に導かれるように前へと拾いながら進んでいく。


途中に何度もゴブリンに遭遇し、魔法で対処していたら魔法が発動しなくなった。

どうやらMPが切れたようだ。


剣でも魔法でも一撃だから剣で戦ってもいいが、魔法を使う方が楽しかったので一旦街に戻って回復することにする。


RPGでMP回復といったらやっぱり宿屋だろう。

ゲームではアイテムでの回復は宿屋を利用するよりも割高な印象があるからな。



冒険者ギルドで採取したククレ草を納品すると、受け取った受付嬢は何故か少し驚いた様子だったが「確認する」と言ってククレ草の乗ったトレーを奥の部屋へと持っていき、すぐに硬貨が乗ったトレーを持って帰ってきた。


「ククレ草30個、確認できました。こちらが報酬の4500ルクです」


トレーの上には銀貨が4枚と銅貨がいっぱい乗っていた。


お金の単位がルクで銀貨1枚1000ルク、銅貨は数えるのめんどくさいけど100枚はないから1枚10ルクだな、たぶん。


お金に手をやるとスッと消えたので、入手したのだろう。


「宿屋ってどこにあるかわかる?」


「宿屋でしたらここを出て右手に進むとある「白鯨亭」が料理も美味しくオススメですよ」



さっそくその宿屋へと向かうと、すぐに白い鯨が描かれた看板が右手に見えた。

わかりやすくて助かる。


「いらっしゃい。食事かい?それとも部屋の利用かい?」


扉を開けると少しぽっちゃりめのおばちゃんが話しかけてきた。


扉のすぐ右側がちょっとした受付のようになっていて、左側の開けた空間にギルドにあったような食事処があった。


受付をさらに進んだところに階段があって、一階部分には他に厨房スペースがあるだけなので、宿屋の部屋は2階にあるのだろう。


「部屋の利用で」


「素泊まりなら1泊450ルク。食事付きなら1回につきプラス50ルクだよ」


ゲーム内の食事は視覚に訴えかけられるだけで空腹を満たすどころか余計にお腹がすくので素泊まりを選ぶ。


モンスターをハントするゲームとかで出てくる食事なんかはグラフィックに凄い力が入っているから、独身貴族な俺は自身の現実世界での食事とのギャップを感じてしまう前に毎回そのシーンはスキップするのだ。


このゲームも変なところに力をいれてくるから、急にめっちゃ美味しそうなものを出されてもリアルでハラヘリを加速させるだけなのだ。


「それじゃ2階にあがってすぐの部屋を使っておくれ。鍵はここを出るときに必ず返しておくれよ」


カウンターの上に置かれた鍵を受け取って2階へあがって目の前にあった部屋を鍵であけ、中に入る。


部屋の中はベッド一つと窓一つ、それに簡素なクローゼットがあるだけなシンプルなビジネスホテルのような部屋だった。


「トイレや風呂はさすがにないか」


部屋の中を見回しながら歩き、ベッドに近づいたとき・・・目の前がゆっくりと暗転して数瞬後に元に戻る。


「今のが一泊したって演出かな?」


ためしに一階へ降りてみると


「おはよう。もう出かけるのかい?随分と朝が早いんだね」


と言われたのでやはり一泊したということで間違いないようだ。

おそらくこれでMPも回復しただろう。


今はまだ特にイベントも進展していないようだし、レベル上げついでにお金を貯められる常設依頼をまたこなしに行くことにする。


東門を出て昨日と同じ作業を繰り返していると、またMPが切れる。


でも感覚的に昨日よりちょっと長続きがしたような気がしたので、ステータスを確認してみると、6つすべての職業がLv4になっていた。


薬草採取の合間に相変わらず現れるゴブリンを倒したが、上がったレベルは1だけか。

でもこういう単純作業は意外に嫌いではない。


俺は子供の時に他のゲーム勇者になったときは、学び舎を仮病で休んでまで序盤のスライムによるレベルを必要以上に繰り返す作業を延々しすぎ、怒った母親の掃除機アタックで全てを無に帰された経験を持つ男なのだ。


レベル上げはそれほど苦痛ではない。

昔ほどじゃないけど。


手持ちのお金でまだ宿屋代は捻出できるので、今回はギルドに寄らずに直接白鯨亭へと向かう。


「もう一回くらい行くか」


少しずつでも上がっていくレベルとお金の実績に気をよくした俺は再度森へと向かうことにした。


もう見慣れてきたマーキンの横を通って森へ進み、鑑定を使ってククレ草をとってゴブリンを魔法で貫く簡単なお仕事をこなしていると



  カシャーン



という微妙な音量の破壊音らしき効果音が後方から聞こえてきた。

前触れもなく聞こえてきたものの、それは緊急性を感じない微妙なものだったから特に驚くこともなくゆっくり音の発生源へと視線を向けたが


「へ?」


その目の前の光景に予想を裏切られたため、つい素っ頓狂な声をあげてしまう。



少し先に転がっていたのは横倒しの大きな白い布製の幌を持った荷馬車とそれを囲む3匹のグレー毛のオオカミだった。


あれがギルドで言っていたフォレストハウンドかな?


馬車の先では無表情でピクリともしない馬が同じ向きに倒れていて、その傍らにいた1匹のオオカミは、貼り付けたように動かない険しい表情というゲームをやりなれたものには見慣れた顔を少しリズムがはやい、ししおどしのような動きで馬のことをついばんでいた。


横転した荷馬車の両脇にいた2匹も同じ表情をしていて、こっちは尻を突き上げ頭を下げるペットの犬がテンション上がった時によくやる遊んで遊んでポーズに似たモーションをやったりやめたりと、よくわからない行動を繰り返していた。


「なんかゴブリンの時と違ってやたらゲームっぽい動きしてんなぁ。あれ」


馬を食べてるあいつのずっと上下に繰り返しているモーションなんてどうみてもオオカミじゃねーよな・・・。鳥系のモンスターと動きの設定を間違えてるんじゃないか?

なんか都会にいるカラスみたいだし。



そんなことを考えながらぼーっと眺めていたら、馬にひょこひょこしていた先頭のフォレストハウンドがこちらに顔を向けた。



するとそいつは突然、険しくも能面だった表情をさらに険しくさせ、むき出しにした歯の隙間からは涎を垂らしはじめ、顎を少し引いたと思ったら、



  バウッ!!!



と、流し始めた唾を飛ばすほど力強く吠えたと思うと、こちらに向かって駆け出しはじめた。

それに呼応するように他の2匹も表情を変え、こちらに向かって吠え出す。


「なんだいきなり・・・!?」


それまでの挙動が嘘だったかのような躍動感を伴って向かってきたフォレストハウンドに驚きと同時に突かれた虚だったが、逆に敏感に反応した俺の危機感がそれを取り除き自身を守る行動へと移させた。


 

「くっ・・・ファイアーボール!」



右手に剣を用意し、左手を標的に向けて魔法を発動する。


ゴブリンのジタバタ感漂う走りとは違うオオカミの突進はそれ相応の恐怖感を俺に与えたものの、それに値する脅威をこいつは持っていなかった。


火の玉が直撃すると、フォレストハウンドは霧散したのだ。


「ふぅ、なんだ・・・ビビらせやがって」



それをきっかけにしたかはわからないが、荷馬車の横で唸っていた2匹だけでなく、同時に荷台の幌の中からも1匹飛び出してきたが、先ほどあっけなく倒した経験が生きたのだろう。


予想外に増えたモンスターにも冷静さを保つことが出来た。


ゴブリン戦で検証してわかっていたのだが、魔法にはクールタイムがあるようで連発は出来なかった、それはファイアからウォーターといった違う種類の魔法と思われるものに変えても駄目だった。


最初の1匹も魔法を使ったため、素早く向かってくる残りの3匹には時間的にもう使えそうにないから俺は腰を下ろして襲ってくるフォレストハウンドへと備える。


正面と左右の三方向から同時に飛び掛かり牙を向けてきたオオカミの内、右手に持つ剣との位置関係的に一番対処しやすかった右のやつを剣で薙ぎ払い、倒す。


その切りかかった角度がたまたま偶然よく、薙ぎ払いの攻撃範囲が中央のオオカミの左前足に少しかすった。


その程度では倒せないと2方向からのダメージは覚悟したが俺の予想は外れ、ダメージを受けたことを示す視界の赤化は画面の左側にしかおこらなかった。


かすっただけのオオカミも倒せていたようだ。



こういう風に薙ぎ払いだけで2匹同時に攻撃できるのはVRゲームならではだな。


何故かというとVRでの剣の攻撃というものは現実と違って敵の体による抵抗を受けて止まったりはしない。


現実では超高速振動を伴ったナイフでもない限りはどんなに鋭さをもった剣であってもなんの抵抗も受けずに敵を薙ぎ払ったりは普通は出来ないが、VRでそれをコントローラーだけで表現するのはさすがに無理があるというものだ。


自身のキャラの攻撃が敵に当たって止まるという挙動をするものもあったが、あれはあれで現実の自分とゲームのキャラクターとで違う動き・・・つまり自分は剣を振り切っているのにキャラの振る剣は敵で止まる、もしくははじかれているという動きになってしまい、著しい没入感の喪失がおこってしまうためどっちがいいのかは好みによるのだが、俺はどっちにしても違和感が凄いからVRで剣を使うゲームはあまり好きじゃなかった。


だからゴブリンも剣で戦わずに魔法で戦っていたんだよね。


なんか手応えがなくて面白みがないんだよ、VRの剣って。



そんなことを考えつつ、俺の左肩あたりにかじりついたままのオオカミを剣で軽く払って始末する。


このなんというか力を入れないでも同じ攻撃という現実感のなさも好きじゃない要因の一つなんだよな。



フォレストハウンド達の駆け向かってくる躍動感には結構肝を冷やしたが、結果は簡単に排除出来たな。


序盤とはいえ弱すぎな気もするけど。

モンスターの強さに関しては今後に期待ってことなのかな?


こいつらの強さもゴブリンと比べて強いのか弱いのかよくわからないな。

素早い分こいつの方が厄介っちゃ厄介だが、どちらも一撃で倒せてしまうから・・・。



そんなこんなで計4匹のオオカミを難なく倒した俺は、倒れた馬車を確認するために歩き出した。

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