第5話 ファストの街

街に入るとそこは典型的な中世ヨーロッパ風の建物が建ち並んでいた。


こっちも同じモデルの建物が並んでいるけど、木とは違ってそういうのは割とこの時代設定的によくあるから特に違和感はないな。

人が2軒に1人くらいの割合で突っ立っていたり、意味もなく同じところをうろうろしたりはしているが、そんなのはもはやゲームでは常識なのでこれに違和感をもつやつはちょっと没入しすぎなくらいだな。


でも、服装はもうちょっと頑張ってほしい。

みんな同じ服は手抜きしすぎでしょ。


とりあえず、街へ入る初回イベントで言っていた冒険者ギルドに行ってみるか。

身分証がなくてまたあのイベントはじまったら嫌だし、次のイベントもはじまらないかもしれないしな。


場所わかんないけど最初の街だし、まっすぐ行けばたどり着くんじゃないかな。

と思ったら歩いてすぐ、6軒目の民家を過ぎたあたりにほんとにあった。

なんで目的地なのか分かったのかと言うと、看板に「冒険者ギルド」って書いてあったのだ。


焼き印で押したような装飾なのにゴシック体のフォントをそのまま張り付けたような字だから


ってか中世風の街並みなのに普通に日本語で書いちゃうんだね。


両開きの扉を入ると、そこは左手側にいくつもの張り紙が張られた掲示板で右のちょい奥の方は酒場のような食堂のような雰囲気で丸テーブルがいくつもならんでいて、そこでは冒険者なのか盗賊なのか判断がつきにくい人相と髪型をしたキャラが酒を飲んだり食事をしたり・・・しているのかな?あれは。


グラスも皿もつまんで口に運んでるからたぶん食事の表現なのだろう。



そして入口の正面には受付のような場所があって、そこに女の人が立っていた。



「ようこそファストの冒険者ギルドへ」


近づくと、門番の時のようにイベントがはじまったようで、急に表情が豊かになって話しかけてきた。


「はじめてお越しの方ですよね?依頼ですか?それともギルドへの登録ですか?」


結構可愛い声してるなぁ。まだβなのにちゃんとした声優で収録してるなんて凄いじゃないか。

すっごい笑顔でずっとこちらを見つめてる。


ん?動かなくなったけど、これもしかしてこっちの返事待ち?



「んー・・・でも門番の時と同じで選択肢が出てこないなぁ」


どうやって会話を進めりゃいいんだ?これ。


「選択肢?マーキンさんとどんな会話をしたのかは存じませんが、はじめてここに来る用事なんて依頼か登録かしかないのでは?」


あの門番、マーキンって名前だったんだ。

名前設定がしてあるのなら頭の上にでも表示させてあげればいいのに。


「って、俺の問いに答えてる?」


そういや、今思えば門番の時にもそんな片鱗あったかも。


「・・・目の前にいらっしゃったので、冒険者ギルドへご用事の方と思いましたが、違いましたか?」


そんなジト目で見ないで。興奮しちゃう。

ってか会話も音声認識なの?

最近のAIって凄いって聞いたけど、じゃあこの音声も合成音声とかなのかな?


録音した音声を複数学習させたりしてその人の声で自由に文章を読ませることができるとかなんとか聞いたことあるな。


「・・・あのぅ、できればここにくるのはご用件内容が固まってからお越しいただきたいのですが・・・」


「あ、あぁすいません。ギルドカードが欲しいんですけど・・・」


やばい、長期にわたる下っ端社会人人生がAIに対してまで俺に敬語を使わせてきた。


「では冒険者登録とギルドカードの発行をしますので、こちらのクイルに手をおいてください」


ここにもあるのか、クイル。


言われるままに手を置くと、またステータス画面が出てきた。





   名前

    天野 聡


   性別

    男


   種族

    人族


   職業

    戦士





やっぱり職業が一つになってるな。

そういえばボーナススキルにPT設定変更ってのがあったから、そこで設定できるのか?

後でやってみよう。


「はい、職業落ちの方ではないので問題ありません」


職業落ちってなんだろう。

会話の流れ的に犯罪歴みたいなものなのかな?


などと思っていたら受付嬢がクイルから出てきたクレジットカードみたいなものを机の上に置いた。


「こちらがギルドカードになります。ギルドの報酬はこのカードに入れられ、この街はもちろん、ギルドの存在するところであればクイルを通し、ギルドカードで買い物をすることができます。ギルドカードは登録した本人にしか使用できませんが、紛失した場合には発行手数料の銀貨5枚と同額かかりますので気を付けてくださいね」


クレカみたいだと思ったらほんとに同じような使い方ができるのか。

電子マネーみたいで便利だな。


って硬貨だったとしてもゲームにおいてのお金なんで実体がないただの数値だから別に硬貨でもよくね?

VRゲームにおいてお金いっぱい持ってるのに重さも何も変わらないのが嫌だった製作者による設定なのかな。


なんか手抜きの部分とこだわりの部分の差が激しいなぁこのゲーム。


「それでは銀貨5枚になります」


笑顔の素敵なキャラやなぁ・・・って。


「あ、俺お金持ってないんだけど」


うわ、一瞬で失われたわ、笑顔。


受付嬢は額に手をやって大きな溜息をついた。

キミはいつもを察してくれる刑事さんかな?


「・・・はぁ~。今回はギルドカードを発行する前に請求しなかった私にも責任はあります」


ですよねぇ。俺は指示に従ってただけだし。


「ですので、ご提案なのですが・・・銀貨5枚は結構ですので、常設依頼をこなしていただいて、その成功報酬で発行料金を支払うというのはいかがでしょう?」


「なるほどここでクエストなのか」


「はい。どちらにしろ、無一文では宿も食事も取れないでしょう?どうせクエストで稼ぐのなら、お代はその時で大丈夫です」


「わかった。それで、常設依頼っていうのは?」


「常に街に必要な素材や食料はいつ持ち込んでいただいても、常設依頼として報酬が出ます。この近辺では主な需要は薬草ですね」


次は薬草採取クエか。


チュートリアルはこの辺までなのかな。


「薬草はどの辺にいけば採れるんだ?」


「薬草ならば東門・・・マーキンさんのいた東門から出た方角の森へ行けば自生しているものが割とすぐに見つかるはずですが、あの森にはフォレストハウンドがたまに群れで出現しますので注意してください」


あそこってモンスターのエンカウントもするんだな。

で、やっぱりあの小さな雑木林は森判定なのね。


それじゃ、行ってくるか。


必要な情報を得た俺はギルドを出て森へ向かうことにする・・・前にPT設定変更

で職業を付けておくか。せっかくのマルチジョブだし。


「PT設定変更」


小さく呟くと半透明のウィンドウが目の前に現れる。


・・・いや、でも今ちょっと・・・。

少し違和感を感じた。





    職業

     戦士 Lv3

     僧侶 Lv3

     魔法使い Lv3

     盗賊 Lv3

     商人 Lv3

     奴隷商人 Lv3


    PTメンバーなし





あれ?職業6つついてるじゃん。


しかも適当に付けたやつに盗賊も入ってるし・・・。あぶねぇー。

ってことはあのクイルっていう道具は職業欄の一番上の一つだけを表示するのか。


戦士しかないと思ったけど、よくよく考えてみたら魔法を使えたんだから戦士だけなわけないか。


んーと、表示はされたわけだけど・・・これはどうやって操作するんだろう。


試しにタブレット操作の要領で指でフリックしてみるも、指が文字を貫通して横に揺れるだけだった。


とりあえず別に困ってないからこのままでいいか・・・。


と思った瞬間にウィンドウが消滅した。


・・・。


最初に感じた違和感はもしかして・・・。


俺はその疑問を実行してみる。


すると・・・またさっきのウィンドウが目の前に現れた。


「思っただけで、反応するって・・・凄いな」


口に出さずにPT設定変更と念じてみただけで、それが出現したのだ。


俺が最初に感じた違和感は、PT設定変更と言い終わる前にウィンドウが出現したように見えたからだった。


言葉にしないで念じただけで出現するならこりゃ言葉に出そうと思った時にでるはずだからそのタイムラグに違和感がでるはずだ。


ってことは、変更もできるのかな?


試しに戦闘に関係なさそうな商人を変更しようとしてみると、一回り小さなウィンドウが最初のウィンドウの右側に重なるようにポップアップしてきた。


そこには「村人 Lv1」の表示が一つあって、それを選ぶように念じると商人が村人に変更されてポップアップウィンドウが消滅した。


どういう仕組みなのかはわからないけど、これは便利だなぁ。


せっかく変更したけど、村人よりは商人の方が便利そうな気がしたので再設定しておいた。

ってか村人のレベルってなんだろう・・・。

村人レベルがあがったら村内カーストがあがったりするんだろうか。



そんなくだらないことを考えながら冒険者ギルドを出て、来た道を戻り始めた。

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