第4話 森

あれから魔法の検証を終えた俺はだいぶ横道にそれたものの、数分の時間移動時間を経て当初の目標であった森へと来た。


ここへ来るまでも数匹ゴブリンが襲ってきたので、ついでに魔法を使って攻撃してみたが、どいつも剣と同じく一撃でバタバタ倒れていった。


そしてステータスを確認してみたら、6つある職業も全部Lv3になっていた。

同時に上がってるってことはやっぱり分割されてないのかな?でも20倍が適用されてるなら分割されてようが6つがいっぺんにあがるなんて普通にあるか・・・。


「いや、いかんいかん」


この辺の検証はしないって決めたばっかだったんだ。


改めて目の前に広がる森をみるが、境界がはっきりとしていて実にRPGっぽかった。

今立っている場所は草原だが、数歩近づけばもううっそうとした薄暗い森の中だし、ちょっと戻れば眩しいくらいの太陽が降り注ぎ、視界が数舜白んだ後に後方180℃の視界すべてがすべてが緑の絨毯で埋まる。


MAPとかあったら森に入ったら切り替わりそうな感じだな。


ステータスには見当たらなかったから無いのか、もしくは特殊なスキルとかが必要とかなのか・・・まぁ今考えても栓のない話だな。先へ進もう。



森へ入ると似通った・・・というより全く同じ木が等間隔に立ち並んでいた。

どう考えても日を遮らない超絶綺麗に間伐された感じなのに、草原にいた時とはうってかわって薄暗い。


状況は整備された森なのにそこへ余計なエフェクトを無理矢理かけたちぐはぐな雰囲気が違和感を加速させているのに、クローンコピペ配置の木と違って微妙にデザインが違う草がランダムに数種類生えている草がこのマップを少し良く見せようと抵抗している感じが逆にムカつく。

 


歩を進めても草の配置だけが若干違うだけの景色がしばらく続いたが、2分程歩くと遠くの景色に変化があった。


ここからだと若干の変化ではあったが、それまでが昔のお殿様コントで永遠と殿を呼びながら襖を開けていくような景色だったので、ほんの少しの変化でも脳がそれを大きな違和感として伝えてきたのですぐに気が付いた。


その正体が判明したのはそのすぐ後で、それは左右に伸びる街道の様なものだった。

森では地面が緑だったが、左右に伸びた気がない部分のそれは土色だったのでそれが道だったのはすぐにわかる。


「ゲームでは定番の表現だな」


道に出て左を見ると100m程先で森がなくなっている場所が確認でき、その更に少し先で壁に囲まれた街のようなものが視認できる。

壁は奥から覗く建物から推測するに、それほど高くはなく、おそらくは2m~3mほどだろう。


反対側は右と違って直線ではなく、左に緩くカーブしていたので先は確認できない。と思ったが、少し背を反らしてカーブの先を覗くようにしたら森の出口が普通に見えた。

距離にしたら4~500mほどだろうか・・・現実の感覚と照らし合わせて距離を測ろうとするも、グラフィックも荒いしなんか等間隔の木が少しカーブしてるのをじっと見ていると、なんかトリックアートを見ている気分になってきて、それが錯覚なのかそうじゃないのかはっきりとはわからなくなってきたものの、そう大きくは外れてないはずだ。


感覚的で正確ではないものの、左が100mで右に言っても500mで森を抜けるし、草原から森に入っても2分半ほどだったから、大体150m~200m程だろうか・・・?。


「道よりさらに奥の広さはわからないが、この大きさって・・・森っていうよりも雑木林なんじゃねーの?」


オブジェクト配置のセンスのなさをエフェクトをかけることでで森感をだそうとしてたのに、まさか規模感でそれを台無しにするとは思わなかった。


いや、ここは元々雑木林でエフェクトのほうが余計な事だったのだろうか?


まぁ、どっちだとしてもセンスがないってことは確定してしまったが、戦闘に多くのリソースを割いてしまった結果がこれなのだろうと自分の中で納得した。



右に行った先の景色は確認できなかったものの明らかな街という目標物が左にあったので、次の目的地はやはり左に見える街一択だろうな。

とりあえず行ってみっか。


森を抜けて視界が開けるとともに、一部しか見えなかった壁がどんどん左右に広がっていくが、それほど長くは続かず途切れた。


広さから見てそれほど大きな街ではないようだ。


村ってほどでもない街って感じだ。


街と村の大きさの定義なんて知らんけど。まぁ俺の主観で。



壁のちょうど中心にあった門に近づくと、傍らにはごつい鎧兜姿に槍を携えた男が微動だにせず正面を見つめたまま立っていた。


「お?他から流れてきた駆け出しの冒険者かい?ここに来るのは初めてだよな?」


5m位でこいつのアクティブ範囲に入ったのか、それまでまるで興味をしめさなかったのに急に笑顔を向けて話しかけてきた。


というかこのグラでフルボイスなのか・・・。違和感半端ないな。

初めてですか?とか言われてこちらをずっと凝視したままなんだけど、「はい」「いいえ」の選択肢とかも出てこないし・・・。なんかコマンドとかなんか入力するんだろうか?とか思ったが、そもそも入力するものがないし・・・このまま無視して入ってもいいのだろうか?


「なんだ?まさかその装備で盗賊っていうんわけじゃないだろう?」


「え?いや・・・」


「だよな。一応鑑定だけはしなきゃいけないからこっちへきてくれ」


「あ、ああ・・・」


そうして門番の男が移動を始めたのでついていくと、壁の内側に作られた詰所のような小さめの部屋に入った。


・・・おい、現在の技術・・・凄すぎじゃねぇか?


こいつアクティブになるまでNPC丸出しだったのに、近づいたら人間味凄いんですけど。


あ、でもこれは初回の用意されたイベントで返答に関わらずにそれっぽい会話を用意されたものなのかもな。

そうじゃないとこれは・・・。


「それじゃ、ここの鑑定のクイルはこれだから」


いや、「これだから」とか言われて壁際の上にある20cm四方の黒い箱みたいなのを指さされても・・・。

チュートリアルならもっとちゃんと教えてほしいんだけど。


「・・・この箱をどうすりゃいいんだ?」


ゲームしながら思ったことを呟いちゃうなんて、我ながら結構没入してるなぁ。


「なんだお前、クイルもない田舎から出てきたのか?」


おお、説明までの会話同線もちゃんと用意してあんじゃん。

とりあえず説明がはじまるまでこの箱に鑑定を使ってみようか。


と思ったけどそういや鑑定ってどうやって使うんだろ。

魔法と同じで音声認識なのかな?


「鑑定」


うーん、特になにも起きないな。


「そうそう鑑定。最近じゃ田舎の方でもクイルがないなんて場所そうそうないんだが、お前は山奥にでも住んでたのか?」


そんな俺の裏設定の説明はいいからはやくそのクイルってやつの使い方を教えてくれんかね。

俺はこういう導入の説明部分のメッセージはどんどんスキップしていくタイプなんだ。こういうときフルボイスの時でも大体セリフの半分もいかずにテキストを読み終わってしまうので、最後まで聞くことなんてほぼない。


「・・・無口なやつだな。まぁいいか、とりあえずさっさと鑑定のクイルの上に右手を置いてくれ。あんまり番を離れると俺が怒られるんだ」


(右手ね)


手を置くと、右手の上に透過度が高いウィンドウのようなものが出た。





   名前

    天野 聡


   性別

    男


   種族

    人族


   職業

    戦士





あれ?職業が戦士だけになってるな、なんかのタイミングで外しちゃったのかな?

そんな操作した覚えもないけど、なんかこのゲームのUIって意味不明だからな。

腕の動きとかなんかでショートカット的なものがあるのかな?


「あれ、戦士・・・?クイルの使い方もわからないのに・・・ってやっぱりお前、俺の事からかいやがっただろ。無口な振りまでしやがって・・・。」


えぇー・・・。

スキップできないフルボイスイベントなのに気持ちよく街に入れてくれないなんてこのゲームの脚本家はプレイヤーにもうちょいおもいやりをもったほうがいいと思う。

ゲームは脚本家じゃなくてシナリオライターっていうんだっけ?

その二つの同じなのか別物なのかも知らんけど。


「そしたら身分証の提示をしろ」


「え?そんなん持ってないけど・・・」


「なんだ。戦士のくせにギルドカードの一つも持ってないのか?なら銀貨1枚だ」


街に入るのに金が必要なのか・・・ってか持ってねーぞそんなん。

持ってたとしてもどうやって出すのかわからないけどね(笑)


「・・・・・・。はぁ、もういいや・・・なんか疲れた・・・もう行け。気が向いたら銀貨握って返しに来い」


お、なんだかんだ悪態突きながらも結局やさしいおじさん設定だったか。俺的にはこんなイベントなしにフリーパスで街へ入れてほしかったけどね。


たぶん初回限定のイベントだろうから次からはたぶん大丈夫だろうけど。


「あ、身分証はなんかあったとき必ず必要になるから冒険者ギルドにでも行ってとっておけよ」




ほー、冒険者ギルドか。なんかラノベ好きにとってワクワクするワードが出てきたな。早速行ってみよう。




門番の言葉に振り返りもしないで中に向かった俺の後ろで、大きな溜息が聞こえた気がした。

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