第27話 姉です。一年が経っていました。

 目覚めるとそこは、なんだか広いくて綺麗で豪華な部屋だった。


「……ふああ、よく寝たぁ」


 私は大きなあくびをしてゆっくりと体を起こした。


「り、リズさん!?」

「ああ、マリアレーサちゃんおはよう」


 私が寝ていたベッドの横にはマリアレーサちゃんがいた。どうやら私を見守っていてくれたらしい。


「いやあ、ごめんね。寝ちゃったみたいで」


 さて、どれぐらい寝ていたのか。


「……というか、マリアレーサちゃんなんか変わってない? 大きくなった?」

「はい、少し背がのび……。って、そうじゃありません!」


 マリアレーサちゃんは大慌てで部屋を出て行った。


「あー、だいぶ心配かけちゃったみたいだ。いかんいかん」


 もっと体調には気をつけなければ。みんなに迷惑かけちゃいけないね。反省反省。


「ん……。しかし、なんだか体が、固くなってる?」


 だいぶ長い間寝ていたようだ。そのせいで体がなまっているのだろう。


「リズ!」

「あ、サロウさん。おはようございます!」

「おはようじゃねぇ!!」


 サロウさんが部屋に飛び込んで来た。まったく、私だって女の子なんですよ、そんなずかずかと無遠慮に。


「無事なのか!? 生きてるのか!?」

「え? はい、たぶん」

「……よかった」


 サロウさん、なんだか慌ててるというか、焦っているというか、驚いているというか、いつもとなんだか違う。


「よかった、本当に……」

「なんですか、サロウさん。大げさに」

「大げさ、だと?」


 そう、大げさだよ。ただちょっと倒れてただけじゃないですか。


「リズ様!」

「お目覚めになったのですね!」

「あ、おはようございます」


 なんだか大慌てでニーナさんやラニちゃんも集まって来た。


 ……そんなに心配をかけてしまったのか。悪いことをした。


「え? ちょ、泣いてるの?」

「お姉ちゃん、よかった、ホントに……」

「うう、ううう」

「本当に、本当に」

「はは、みんなも大げさですよ。ね、サロウさん?」

「馬鹿野郎!」


 ちょっ!?


「びっくりした。なんですかいきなり」

「何が大げさだ! 一年も寝ていやがって!」

「……へ?」

 

 一年?


「えっと、何の話で?」

「リズさんが寝ていた期間です」

「え? うそ? 一日とか一週間とかじゃなくて?」

「はい、一年です」


 うわぁ、マジかぁ。


「そんなに限界だったのか、私は」


 一年。一年間眠り続けるほど疲れていたのか。


 いや、こりゃマジで気をつけないと。


「いや、ホント、今度から気をつけますんで」

「当たり前です! 私たちがどれだけ、どれだけ心配したことか」


 ああ、マリアレーサちゃんが泣いている。なんと罪深い、なんと私は罪深いんだ。


 ここは死んで詫びるしか。


 いや、せっかく目覚めたんだし死ぬわけには。


 それにしても、泣いてるマリアレーサちゃんは、なんとも可憐で美しいのか。


 なんて、馬鹿なことを考えてるんじゃない私。


 やはりこんな私は一度死んだほうが。


 いや、馬鹿は死んでも治らないのか?


「リズ様、私も怒っております」

「ニーナさんも?」

「はい。一時は心臓も止まり、もうダメかと思ったのですよ」

「……おーう、マジかぁ」


 マジで死んでたのか、私。


 ……いや、なんか、それは知ってたような気がする。


 なんか、夢で、誰かと。


 ……誰だっけ?


「ま、いっか」

「よくないです!」

「あ、はい。ごめんなさい……」


 私は一度完全に死んだようだ。そこからどうやってか生き返り目が覚めた。


「いいですか、リズさん! 今後はこのようなことがないようにちゃんとしていただかないと」

「はい、はい、すいません。ホントすいません」


 目覚めてすぐに説教とは……。


 もう、それは後でもいいでしょうに。死の淵から舞い戻って来たんだから、そう言うのは後回しでさ。


「は、話しは後から聞くからさ。それよりも、その、なんか食べたいな」

「……わかりました。その前に着替えを」

「そうですね。一度体を清めてからお食事にいたしましょう」


 やった、説教回避だ。


「まだまだ言いたいことがありますので、お食事の後で」


 ……回避失敗。


「ニーナ、湯あみの準備を」

「はい」

「リズさん、立てますか?」

「はい、大丈夫、だと思います」


 一年。一年間私は眠り続けていた。それにしては体は思っているよりも動く。普通、一年も寝ていたら体が硬くなって筋力も衰えて立てるはずがないのに。


「足元に気を付けてくださいね」

「大丈夫だよ。ちょっと固くなってるけど、ちゃんと動く……。か、ら?」


 ……なんだ?


「……誰? これ」 


 全身鏡。着替えなどをするときに使う鏡。部屋に備え付けのものだろう。


 その鏡に誰かが映っている。マリアレーサちゃんに支えられて歩く。


 これは……。


「……私?」


 いや、いやいやいや。


 どうなってんの!?


「か、髪が、髪が青い!?」


 髪も青い目も青い、なんだか爪も青いし鼻毛まで青くない!?


「ちょ、え、は?」

 

 な、な、な……。


「なんじゃこりゃあああああああああああああ!?!?」


 

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