第26話 姉です。過労死しました。
……あー、なにやってんだろ、私。
「まったく、いつだってそうだよね。自分一人で無理してねぇ」
……誰だお前。
ああ、私か。
泉のほうか。
「小学校の時もそう。当番押し付けられたり面倒くさい係になっても文句言わずがんばってたよね。心の中で文句言ってたけど」
そうだったそうだった。
「中学の時も、高校の時も、大学の時も、みんなにいいように使われてても頼られてるんだって勘違いして」
ははは、ホント馬鹿だよねぇ。人助けだとでも思ってたのかな。
「大学の時に出会ったあいつもさ、ビックになるだのなんだの言って定職に就かないし、それでも信じて何年も何年も何年も」
で、浮気されて、そして死んだ。
情けない、なんて情けない人生なんだろう。
「で、今回もそれ? 一人で頑張ってどうにかしようと思ったの?」
そんなつもりは、なかったよ。任せられることはみんなに任せてたつもり。組織の運営なんてやったことないし、できるとも思えなかったし。
「でもこれでしょ? まったく、こりないねぇ」
ホント、こりないねぇ。私は。
気でどうにかなるから無茶してたんだ。今更それに気づいても遅いけれど。
まあ、そうだよなぁ。食べなきゃ死ぬし寝なくても死ぬのに、気でそれを紛らわせて朝も昼も晩も働き続けて、そんでもってこのざまだ。
滑稽滑稽。まったくお笑いだよ。
「笑ってる場合じゃない!」
な、なんだよ急に。怒るなよ、私。
「そりゃあ怒るさ。あんたはあんたのせいで大勢の人を泣かせてるんだよ」
大勢の、人?
私のために泣いてくれる人なんて。
「いるでしょ? マリアレーサちゃんにニーナさんにラニちゃんにラニちゃんのお父さんにお母さんに護衛の三人に、それとサロウさんも」
サロウさん? あの人は泣かんでしょうよ。そういうタイプじゃないしさ。
「さて、どうだかねぇ。起きて確かめてみるかい?」
……起きれたらね。
「そうだね。起きれないね」
だって、死んだんだもんね。
「そう、死んだんだよ。私は」
まさか異世界で過労死するとは思わなかったよ。前世でも過労だったけど死ぬことはなかったのに。
「本当にまさかだよね。しかも自分のせいで」
そうです、自分のせいです。私が、誰かに頼ることをしなかったから。自分で抱え込み過ぎたからこうなってしまったんです。
「他人に任せるの、嫌?」
そうじゃないよ。ただ、迷惑をかけたくないだけさ。自分でできることを他人に任せるのが、なんだか申し訳ないだけ。
「それと期待し過ぎる自分が嫌なだけ」
……そうですね。失望したく、ないんだよね。だったら自分でやって失敗したほうがいいなんて、そう思ってしまうんだよ。
そう、失望したくないんだ。ガッカリしたくないんだ。迷惑をかけたくもないし、嫌われたくもない。
「もっと頼れよ、仲間でしょ? 違う?」
……違わない。
「人間、案外頼られるのが好きだったりするんだよ」
私みたいに?
「そう、私みたいに」
そういうもんかねぇ。
「そういうもんだよ」
そうか。まあ、次に何かに生まれ変われたら、もう少し人に頼ってみる事にするよ。
「さて、次があるかしら」
なかったら、それはそれで。
「……諦めるの?」
仕方ないじゃん。死んだんだし。
死んだら、生き返ることはできないし。
「まだ間に合うって言ったら、どうする?」
……本当に?
「うん。ただし、人間じゃなくなるけど」
……いいさ。今更と言えば今更だし。
「そうだね。大蛇を絞め殺して、悪の組織をひとりで壊滅させて、熊を一撃で気絶させるような奴はもう人間とは言えないもんね」
ま、そう言こと。
「じゃあ、いいんだね?」
うん、いいよ。
「覚悟は?」
できてる。
「よし。それじゃあ、行こうか」
行こう。
まだやり残したことが、たくさんあるんだ。
…………。
……。
…。
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