第25話 姉です。世界が白いです。

 さて、思ったよりも組織の運営は順調だった。私たちの噂が広まったのか、悪いことをする人たちは減り続け、魔物を倒しまくったことで運営資金も着々と増え魔物の被害も少しは減ってきていた。


 黄金の聖女団の人も増えた。その中から厳選して勧誘を続け、イズミナティの方も総勢50名ほどに増員することができた。


 そして、初期メンバーも強くなった。もう私がいなくても危険度Aクラスの魔物なら楽に討伐できるぐらいには強くなっている。


 ただ、目立つと言うことは敵が増えると言うことでもある。


 黄金の聖女団。最初は本当に小さな集団だった。けれど時間が経つうちに集団は大きくなり、リリアレス王国政府も無視できない存在になっていった。


 そうなるといろいろと面倒なことになってくる。あいつらは何者なのか、何を企んでいるのか、自分たちの敵なのか味方なのか。


 警戒する人間もいれば利用しようとする人間も出てくる。特に聖女と崇められているマリアレーサちゃんに取り入ろうとする野郎どもがわんさといる。


 まったく、いくらマリアレーサちゃんがかわいいからって変なことをしないでもらいたい。


 さらにはマリアレーサちゃんのお父さん、プリムローズ伯爵にもいろいろと怪しまれてしまった。まあ、これはちゃんと事情を説明したおかげで理解してもらえた。


 ただ、伯爵様もやはり貴族。有名になり支持者も増えたマリアレーサちゃんを政治的に利用しようと考えたようだ。


 なのでこちらも伯爵を利用することにした。伯爵令嬢であるマリアレーサちゃんは伯爵の伝手を使い他の貴族と顔合わせをし、彼らの協力を仰いだのだ。


 味方は多いほうがいい。そして敵が誰なのかも知っているほうが有利だ。まあしかし、そう簡単にはいかないのが貴族社会。百戦錬磨のタヌキたちの相手は想像以上に手強いようだ。


 という面倒くさいことはお任せして、私はひたすらに戦力の強化を図った。つまりは修行である。


 イズミナティの戦力強化。その方針は少数絵精鋭、個の力を最大限にまで強化することを目的に訓練を行っている。


 そして黄金の聖女団の方も戦力強化を行っている。こちらの方針は集団の力の最大化が目的だ。しかし、こちらのほうは少々てこずっている。


 というのも聖女団のほうの戦力は農民だったり元冒険者だったりとその経歴は様々。しかも自然発生的に出現した小規模自警団が元になっているため能力もまちまちだった。


 最初の頃は聖女をお守りしようという志を同じくした者たちがそれぞれ小さな集団を作っていた。それが『聖女騎士隊』やら『親衛隊』やら『近衛隊』やらを名乗りだし始めた。


 こうしていくつも生まれた自警団。それらが衝突し問題を起こすのは時間の問題だった。


 なので小競り合いが小規模なうちにマリアレーサちゃんの名のもとに正式な武装集団が組織された。ただしあくまでも聖女団の代表であるマリアレーサちゃんを護衛するための組織としてだ。


 現在、正式に組織された『聖女護衛隊』の総勢は約200名。彼らは厳しい選抜試験に合格した優秀な者たちばかりだ。


 もちろん試験を行ったのは私だ。当然、生半可なことはしていない。


 だってそうじゃない? マリアレーサちゃんを守るんだよ? 中途半端な人を選べるわけないじゃない。


 というわけで脱落者が続出。それでも食らいついて来た200名を私とその他のイズミナティの面々は鍛えに鍛えぬいた。


 ただしこちらには気の操作を伝授していない。あくまでも訓練と鍛錬による強化だ。差別化をはかる意味もあるが、もし仙術を使える200名もの集団が反乱でも起こしたら対処できないという懸念もあったから気の操作を教えなかった。


 それでもかなり強い集団が出来上がった。どうやらこちらの人間は私の前世の世界よりも頑丈らしく、だいぶ無茶をしても大した怪我をすることはなかった。


 いや、むしろワザと怪我をしようとする者もいた。なにせ怪我をすればマリアレーサちゃんに治療してもらえるのだ。聖女様をお守りしようと集まった彼らにとって聖女であるマリアレーサちゃんの治療はご褒美でしかないわけだ。


 ……うらやましい。私はもうあんまり怪我なんてしないから。修行を積んで強くて頑丈になった弊害が出てきてしまっているのだ。


 いいなぁ。私もマリアレーサちゃんに癒されたいよ……。


 なんてことを言っている場合じゃなかった。武装集団を持ったおかげでその周辺の貴族やらなにやらに目をつけられてしまったのだ。


 ただ、それもわかる。彼らにしたら自分の治めている地域の近くに突然軍隊が現れたのだ。警戒して当たり前、そうでなかったら怠慢も甚だしい。つまりは正常な反応と言うことである。


 そんな周辺の人たちやこちらを警戒している人たちとも交渉していかなければならない。黄金の聖女団が運営する孤児院や救貧院、病院などの建設計画も立ち上がっている。


 ひとつ終わったらふたつやることが増える。そんな状態だ。それでもどうにかこなしていくしかない。


 みんな頑張ってる。私もやらなきゃ。


 もっとやらなきゃ。やらなきゃ、やらなきゃ、やらなきゃならない。


 頑張って、頑張って、頑張る。それしかないから、それしか……。


 それ、し……。


「……あれ、目が、変」


 目がかすむ。視界がはっきりしない。頭も、なんだかもやもやする。


「呼吸、こきゅうで……」


 気を練り上げる。そうすれば疲労を感じなくなるし、空腹も治まる。眠気も消えるし、頭だって冴えてくる。


 さあ、頑張るぞ。私が、頑張らないと。みんな頑張ってるんだ。


「がんばら、ない、と」


 ……そう言えば、いつ休んだっけ。


「ちょっと疲れてるのかな。まあでも、やらないと」


 大丈夫、大丈夫。私は大丈夫。疲労は感じていないし、お腹もすいていない。眠気もないし、頭だって冴えてるじゃないか。


 ちょっと、ちょっと疲れてるだけだ。大丈夫。そう、大丈夫なんだ。


 だからもっと、もっと、もっと、もっとみんなのために、困っている人のために。


「私、が……」


 ……あれ? おかしいな。おかしい。


 気を練っているはずなのに、全然……。


「リズ!」


 なんだろう。とても、とっても、眠い。


「サロウ、さん。変、なんです。急に、景色が、白、く」

「おい! しっかりしろ!」


 あれ、なんだろう? サロウさんの声が、すごく遠い。遠く、遠くて、よく、わ。


「か、ら」


 な。


「しっかりしろ! リズ! リズ!」


 い……。


 ……。


 …。


 

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