第22話 姉です。活動開始です。
さて密かに人知れず小さな組織が誕生したわけで。
「さあ! 『イズミナティ』の活動開始ですわ!」
秘密結社イズミナティ。ものすごく恥ずかしい名前に決まってしまった。
名前の由来は私の不用意な呟きだった。なぁんであんなこと言っちゃったかなぁ、と後悔してもどうしようもない。
「寂しかったのかなぁ、私……」
イズミ。それは前世の私の名前だ。
秘密組織の名前を考えようとなったとき、私の頭の中には前世のいろいろな組織の名前が浮かんできた。そのとき本当になんとなくボソッと呟いてしまったのだ。
その呟きをニーナさんに聞かれてしまった。獣人になったことで五感が鋭くなったのだろう。私のふいの呟きをニーナさんは聞き逃さなかった。
それからあれよあれよという間にイズミナティに決まってしまった。
恥ずかしい。組織に自分の名前をつけるなんてどんだけ自己顕示欲が強いんだ。
……いや、そうじゃない。たぶん忘れられるのが嫌だったんだ。
姉崎泉。この世界には姉崎泉だった私が生きていたことを知る人間は私しかいない。私が忘れてしまったら永遠に消えてしまうだろう。
そんなの寂しいじゃないか。少しでもリズではない私が生きていた証拠を残しておきたかったんだ。きっと。
まあでも恥ずかしいものは恥ずかしい。ああ、恥ずかしい。
誰か否定してくれよ。なんでみんな大賛成なんだよ。
……仕方ないか、決まっちゃったし。なら覚悟を決めて堂々と名乗るしかない。
秘密結社イズミナティ。この国を影から支える闇の組織。
やる。やってやる。やるぞ、私は。
「うおおおおおお! やる気出てきた!」
さて、やる気も出てきたところで。
「……何から手をつけよっかなぁ」
そう、やることが山積みだ。組織の運営方針は決まったが、運営資金もなけれは拠点もないし人もいない。拠点の確保については、これから組織が大きくなったときのためにちゃんとした場所に拠点を持ったほうがいい、というサロウさんのアドバイスを受けたからだ。
なので拠点の確保は言いだしっぺのサロウさんとマリアレーサちゃんニーナさんに任せた。ラニちゃんとお母さんは一旦家に帰ってもらって、私たちは悪い奴らの退治に回ることにした。
まずは影の治安維持部隊として活動することになっている。メンバーはラニちゃんのお父さんであるガリックさん、そしてマリアレーサちゃんの護衛であるガイアンさん、ルガテオさん、シューマさんの私を含めて五人。私は彼らと一緒に盗賊やゴリンガリンの残党、その他もろもろを全部叩きのめして更地にし、そこに私たちの組織を根付かせる。
ゴリンガリンの組織を利用すればいい、というサロウさんの提案もった。でも、なんだかそれは嫌だった。
もちろん利点もわかっている。この国に張り巡らされたゴリンガリンの情報網、これを利用しない手はない。私たちがゴリンガリンの後釜に座るというわけだ。
でも、それじゃあなにも変わらない気がする。頭がすげ変わっただけで、中身は反社会的外道組織のままだ。
だから新しく作り直す。どんなに大変でも、この国の未来のために。
なんでこの国の生まれでもないのにここまでするのかって?
そんなの簡単さ。かわいい女の子が困ってるんだ。助けないなんてそんなのお姉ちゃんとして有り得ないでしょう?
まあ、それに何度も言うけどこの事態を招いたのは私だ。ゴリンガリンを潰してこの国を余計に混乱させてしまった責任が私にはある。
その責任を果たす。それが大人というものだよ。
「……そんな大人ばっかりならいいんだけどねぇ」
さて愚痴ってても始まらん。とにかく私たちは治安維持と活動資金稼ぎだ。
この世界にはいろいろな『組合』が存在している。商人の組合、職人の組合、漁師や婦人やいろいろだ。
その組合の中に冒険者組合と言うものがある。この組合は冒険者と言われる、まあ簡単に言うと実力のある流れ者、定住地を持たず各地を転々としながら依頼をこなす者たちが所属する組合がある。
その冒険者組合では魔物の討伐依頼や魔物の解体や素材の買取をしている。この世界には魔物が跋扈しており、いつでも誰かが魔物に困っているので大繁盛だ。
だが、どうやら人手不足でもあるらしい。それだけ魔物が多く被害も多いのだろう。
「魔物の解体と買い取りオナシャス!」
私たちは各地の悪党どもを成敗しながら魔物狩りを行い、それを冒険者組合に持ち込んでお金に換え、それを組織の運営資金にすることにした。
「は、はい。承り、ました……」
とりあえず私たちは冒険者グループ『白頭巾』という名前で登録している。全員、顔を隠すために白い頭巾を被っているからそういう名前にした。リーダーは私ではなくてガリックさんにお願いしている。
私はなるべく目立たないように、というのがサロウさんの忠告だ。私はあくまでも影の組織のリーダーであってあまり表に出るべきではないとのことだ。
お前は強すぎるし目立つし余計なことばかりするから大人しくしてろ、とサロウさんは言っていた。
別に目立ちたいわけじゃないし。私は私のやりたいようにやってるだけだし。なんか迷惑かけたみたいですっごい嫌な気分なんですけど。
まったく、まるで私が空気読めない人みたいじゃないか。失礼なこったね。
それに私が出なくても目立っている。どうも私たちの実力はなんだかすごいらしいのだ。
「こ、こちら、冒険者証になります。ご、ご確認を……」
また冒険者証が更新された。この前更新されたばかりの気がするが、こういうもんなんだろうか。
「Aランクかぁ。、これってすごいの?」
「すごいに決まっていますよ」
「我々は上級冒険者チームになったわけですからね」
「はぁ、そうなんだねぇ」
……興味ねえな。うん。ランクなんてどうだっていい。お金が稼げて魔物肉が確保できればそれでいい。
「それじゃあ、今日はエメラルドサーペントのお肉でパーティーしよっか」
「うおおおおおおおおおおおお!」
「リズ様のメシだ!」
「ありがてぇ、ありがてぇ」
「そんなに喜んでもらえると、なんか照れるなぁ」
このチームの料理当番は交代制だ。けれども男連中は料理なんかできやしない。できたとしても焼くか煮るかぐらいで、味付けも塩を振っただけの様なものがほとんどである。
だがしかし私は違う。なにせ私は前世では日本人だった。自炊をしていたし彼氏にも料理を振舞ったこともある。彼氏もうまいうまいと喜んで食べていた。
……あいつ、なにしてんだろ。
ぶち殺しに行こうかな……。
「……ま、戻れるかわかんないし、今は呪うだけにしとこ!」
不幸になれ、くたばれ、足の裏にできものができて苦しめ。ふひひひ。
「さあ! 今日のメニューは塩から揚げにトマト煮込み、茹でたサーペント肉とは野菜のサラダです!」
「うおおおおおおおおおおおお!」
「ありがてぇ、ありがてぇ」
「うめ、うめ」
うんうん、たんと食べて強くおなり。
そう、強くなるんだ、みんな。力さえあれば、この世界で生きていける。
この世界は過酷だ。弱い人間は簡単に死ぬ。
死んでほしくない。いや、死なせない。この人たちは、私が変えてしまった人たちは、私が責任をもって強くする。生き抜けるように、その手助けをする。
特にニーナさんとラニちゃんだ。獣人の存在しない世界で猫耳猫尻尾の人間はきっと生きにくいだろう。ラニちゃんもまだ10歳なのに身長が180センチを超えてまだ成長しているのだ。
二人は特に目立つ。もしかしたら嫌な思いをして傷つくかもしれない。そうなったらそれは私の責任だ。
責任は果たす。どんなことをしても何があっても。私が絶対に強く、何があっても吹き飛ばして生きて行けるように、笑って生きられるようにしなくては。
「さあ、明日も悪い奴らをジャンジャン倒して、ガンガン魔物を狩っていきましょう!」
やるんだ、私。みんなのために。
……あれ? なんだかこれは、前世と同じ。
「……社畜?」
いや、秘密結社畜か。
……ま、いいか。
とにかくがんばろう。
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