第21話 姉です。組織を作ることになりました。

 さて、会議を始めましょう。


「……なんかすげぇな」


 屋敷が燃えてしまったのでマリアレーサちゃんたちは仮住まいだ。フィヨンの町の外れある空き家を借りて、そこを掃除して暮らしているのだが。


「あの、ホントすいません」

「何を謝るのですか?」

「いや、私のせいで窮屈そうで……」


 私が集めたのは八人。マリアレーサちゃんとニーナさん、ラニちゃんとラニちゃんのお父さんとお母さん、そして生き残った護衛の三人を合わせた合計八人。その中の六人が私の気の影響で姿が変わってしまっている。


 ラニちゃんのお父さんと護衛の四人は身長が二メートルを超えている。ラニちゃんも身長が180センチを若干超えている。ニーナさんに至っては身長が伸びて猫耳に長い猫の尻尾が生えていて種族自体が変わってしまった。


 申し訳ない。本当に申し訳ない。きっとみんな、こんな風にはなりたくなかったはずだ。


「ホントすんません」

「ですから、何を謝る必要が?」

「だってほら、不便だしいろいろと変わって大変じゃない?」


 明らかに見た目が変わってしまった。普通の人間とは思えないし、そのせいで何か嫌な思いをしているかもしれない。そう考えるとなんだか本当に申し訳なくて、私は心が痛いのだ。


 が、どうやらそうでもないらしい。


「何を言っているのですか! 多少の不便など!」

「そうだよお姉ちゃん! 私元気いっぱいで嬉しいよ!」

「お父さん、ラニちゃん……」


 ……優しい人たちだなぁ。不可抗力とはいえ体が変わってしまったのに。


「ごめんね、ありがとう」


 本当にみんな、優しいなぁ。


「リズ様、このような話をするために我々はここに?」

「ああ、そうだった」


 そうだ。ニーナさんの言う通り。謝ったりお礼を言ったりするために集めたわけじゃない。


「あの、皆さんに紹介したい人がいます。出てきてください」


 まずはサロウさんの紹介だ。


「なっ!?」

「どこから!?」

「ああ、みんな落ち着いて! 怪しいけど怪しい人じゃないです!」

「怪しいが余計だ、まったく」


 じゃあ、普通に現れてくれよ。幽霊みたいにスーッと現れるんじゃないよ。


「えーっと、こちらはサロウさん。私の命の恩人で暗殺者さんでとてもいい人です」

「……暗殺者?」

「はい。暗殺者です」


 ……何を警戒しているんだろう?


「暗殺者でもいい人ですよ?」

「ですが、暗殺者なのでしょう?」

「はい、暗殺者です」


 ……ああ、なるほど。そういやそうか。


 暗殺者じゃん。警戒しても当たり前じゃん。


「だ、大丈夫です。暗殺者は休業中、ですよね?」

「ああ。それに俺は標的以外に手を出さない。快楽殺人者じゃないんでね」


 そうだそうだ。暗殺者だけど人殺しが大好きなわけじゃない。


 暗殺者だけど。


「ま、まあ、とにかく私の知り合いでいろいろと裏社会に詳しい人なんです。なので、アドバイスをいただこうかと」

「裏社会、ですか……」


 マリアレーサちゃんが深刻な顔をしている。他の人たちもみんな険しい顔だ。


「リズさんは何をしようとしているのですか?」

「何をしようとっていうか、もうやっちゃんたんだけど」

「やっちゃった?」

「あ、いや、その。あは、あはははは……」


 そう言えば伝えていなかった。私がゴリンガリンを壊滅させたことを。


「さ、サロウさん」

「はあ、考えなしもいい加減にしろよ」


 と言いながらもサロウさんは助け舟を出してくれた。本当に助かるありがたい大好き。


「――というわけでどこかの誰かがゴリンガリンを壊滅させおかげで大混乱。で、こいつはゴリンガリンに代わる組織を立ち上げて裏社会を牛耳ろうと考えてるわけだ」

「いや、そんなことは考えてませんよ。ただ、この国で暴れてる人たちをどうにかしたいと思っただけで」


 そう、どうにかしたいだけだ。ゴリンガリンの後釜に座って利益を得ようとかそんなことは考えていない。ただ、どうにかこの国を安定させたいのだ。

 

 私がやってしまったことの後始末。もうちょっと緩やかにゴリンガリンを壊滅させていれば……。


 いや、やめておこう。やってしまったことは仕方がない。後悔するより改善策を考える方が建設的だ。


「それで、私たちは何をすればよろしいのですか?」

「それがわからないから困ってるんだ。だからみんなで相談しようと思って」


 そう、何をどうすればいいのかさっぱりわからない。それを考えるために会議を開いたのだ。


「リズ様。リズ様は組織を立ち上げて何をするおつもりですか?」

「そうだなぁ。とりあえず悪いことはしないよ。この国を裏から支える、平和と安定と平穏と、とにかく良い闇の組織を作りたい」

「良い闇の組織……」


 なんだか矛盾しているような気がする。でも、私が作りたいのはそういう組織だ。

 

 裏があれば表がある。それは悲しいけれど当たり前だ。前世でもそれは同じで、どんなに平和な国にも裏社会は存在している。


「貧しい人、苦しんでる人、そういう人たちを助けたり、悪いことをしようとしてる人たちと戦ったり。全部は救えなくてもできるだけたくさんの人がこの国で平和に暮らせるように、それをどうにかするための組織が作りたいんだ」


 ……難しいだろうな。不可能だと、私も思う。


 人間てのは汚いもんだ。私の前世の彼氏だって私がいるのに浮気してたぐらいだ。信じてたのに裏切られて、そんな奴らがきっとこの世界にもいる。


 というか確実にいる。そういや私も愛人の子だ。


 あー、あー、男ってのはまったくどうしようもねぇなぁ……。


「……素晴らしいですわ!」

「そう、難しいとは……。ん?」


 あれ? なんだろう?


「マリアレーサちゃん?」

「私、感激いたしました! リズさんの志に!」

「え、あ、うん。ありがとう」

 

 なんだろう。否定されると思ってたのに絶賛されてる。


「ほ、他の皆さんは」

「素晴らしい、さすがリズ様だ!」

「リズ様ならきっと実現することができる!」

「おお! リズ様! 我らが救世主!」

「リズお姉ちゃんすごい!」

「えええ……」


 なんで大絶賛されてるんだ? 状況的に「それは難しいのでは……」と否定される流れじゃないのか?


「ありがとう、ありがとう。でもね、こういうのは勢いで決めるんじゃなくて」

「何を言うのですか、善は急げ。こういうことは早いほうがよいのです」


 おいおいおい、ニーナさんまでノリノリかよ。止めてくれよ頼むから。


「あ、あのね。私はその、代わりになる何かがあればいいわけで」

「リズ様がこの国のためにお立ちになる!」

「おお! 我らの救い主よ!」

「リズ様! 我々をお導きください!」

「あ、あの、あのね……」

「覚悟を決めるんだな、リズ」


 肩を叩くんじゃないよサロウさん! あんたも止めてくれよできないって引き留めてくれよ!


「で、名前は何にするんだ?」

「サロウさん! 止めてくださいよ!」

「なぜ?」

「なぜって……」


 明らかに無茶だ。それに雰囲気的に私がその組織のトップになりそうな感じじゃないか。


 冗談じゃない。勘弁してくれ。助けてくれ。お願いだよ。


「俺を巻き込んだ報いだ。お前にはせいぜい苦しんでもらうぞ」

「この、性悪暗殺者……!」


 こうして、私は流れ的にリリアレス王国の裏社会を支配する組織のボスになることとなった。


 ……はあ、なんでこんなことに。


 誰か、助けておくれよ……。

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