第20話 姉です。一件落着、とはいかないようで……。
マリアレーサちゃんの国を影から牛耳ろうとしていた組織ゴリンガリンを壊滅させた。これでめでたしハッピーエンドと思っていたのだが、問題はまだまだたくさんあった。
まず、食料問題。これは国の問題じゃなくて私たちの問題だ。
おそらく、いや、確実に私のせいで体が変わってしまった人たち。ニーナさんやラニちゃんとラニちゃんのお父さん、そして護衛の三人。この人たちがものすごく食べるのだ。
なのでどうにかして食料を確保しなくてはならない。なにせ今はちょっとお金に困ってている。放火のせいで。
燃えた屋敷はラニちゃんの家の別邸だが、それでもやはり影響がある。それに今はラニちゃんのお父さんも忙しく、ラニちゃんが危険な目にあっても駆け付けられない状態だ。こちらの問題はこちらで解決しなくてはならない状況なのだ。
そこで私は考えた。町の外には食料もお金になりそうな物もたくさんあるじゃないかと。
そう魔物だ。魔物を狩ってそれを食べて素材はお金にすればいい。
私たちはさっそく魔物の狩猟を始めた。そのおかげで食料は確保できたし、お金も稼ぐことができるようになった。
しかし、これで終わりではない。なにせこの世界は魔物であふれ、その中にはとんでもなく危険な奴もいるかもしれないからだ。
そこで私はニーナさんやラニちゃんたちに仙術を教えることにした。そうすることでみんなをさらに強くしてどんな奴が来ても大丈夫なようにしようと考えたのだ。
そしてそれも以外と順調にいった。ただ問題がなかったわけじゃない。
「私にも教えてください!」
とマリアレーサちゃんが言い出したのだ。どうやら誘拐されたことで自分の弱さを痛感したらしい。
これには困った。なにせ仙術の修業はそれなりに過酷だからだ。マリアレーサちゃんに耐えられるとは思えない。
けれどマリアレーサちゃんの思いを無下にするのも可哀想だ。なのでマリアレーサちゃんにはまず仙術の呼吸を教えることにした。呼吸だけなら無理なく修得できるかな? と考えたからだ。
そうやってマリアレーサちゃんには仙術の呼吸法を、それ以外の人たちには仙術闘法を教えた。
みんな順調に強くなっていった。マリアレーサちゃんも呼吸法を少しずつ修得し、気を操れるようになっていった。
そうやって食料やお金、戦力の問題を少しずつ解決していった。
そうしていると更に別の問題が起きた。これは私たちのことではなくて国の問題だ。
それは治安悪化の問題た。
ゴリンガリン。この組織はマリアレーサちゃんの国であるリリアレス王国の裏社会を牛耳る巨大組織だった。それを私が壊滅させたことで抑え込むものがなくなり、地方で悪い奴らが好き勝手し始めたのである。
……やっぱり勢いで動くのはダメだな。よく考えてやらないと影響がでかすぎる。
責任をとらなくちゃ。私のせいなのだから。
「といってもどうすりゃいいんだ? 具体的に」
……さっぱりわからない。わからないがどうにかしなくてはならない。
思いつくことといえば、治安を維持する部隊を用意するかゴリンガリンに代わる組織を用意するかだ。
ただどちらもどうやって用意すればいいのやらだ。そんなもの作ったこともないし、運営したこともない。
「誰かー! 助けてくれー!」
なんて叫んだところで助けなんて現れるわけもなく。
と、思っていた。
「よう、元気にやっているみたいだな」
「サロウさん!」
いろいろとああだこうだと悩んでい他ある日、突然サロウさんが現れたのだ。
「ゴリンガリンを壊滅させたおかしな女がいるって聞いたんでな。まさかと思ったが、案の定のようだ」
「サロウさん! ありがとうサロウさん!」
「……嫌な予感がするな、おい」
嫌な予感? そんなものあるわけがないじゃあないですか。ひひひ。
「あのですねサロウさん」
「嫌だ」
「実は困ってることがありまして」
「だから嫌だと」
「そうですか! ありがとうございます!」
「話を聞け!」
話を聞けだぁ? 人の話を聞こうとしないのはそっちも同じじゃないですか?
「サロウさんはいい人です。ありがとうございます」
「あのなぁ……。ったく、話だけなら聞いてやる」
いやっほい! やっぱりサロウさんはいい人だ!
「――ということでして」
「なるほど。つまりお前はこの国の裏社会のボスになりたいわけだな?」
「いや、あの、話きいてました?」
「そのほうが手っ取り早いだろう。力がある奴がトップに立ったほうがやりやすい」
まあ、確かにその通りだ。
この世界、特にこの転生した世界は力がものを言う世界だ。前世でも財力、権力、知力などいろいろな力が複雑に絡み合っていたが、この世界は意外と単純だ。
暴力。この世界のすべてではないけれど前世の私のいた日本よりは暴力が重要になってくる。つまりは強い奴が偉いわけだ。
ということは私は偉いということになる。
……いいのか、それで。
「私って、強いんですかね?」
「はあ? 巨大組織を一人で壊滅させた人間が弱いと思うのか?」
「……確かに」
「考えるようなことか?」
確かにその通り。前世でも組織を一人で壊滅させられるのはフィクションに出てくるスーパーヒーローか映画の主人公くらいなものだろう。
つまり私はスーパーヒーローで主人公ということになる。
……んなわけないか。
私は役目を終えた不遇な扱いのお姉ちゃんなのだから。
「とにかくだ。何をするにもリーダーが必要だ。それには上に立つだけの力が必要になる。今のお前には十分それがあるってことだ」
そんなに褒められると照れますなぁ。いやいや、ぬふふ。
「ぬひひひ」
「……褒めないほうがよかったか」
とにかくサロウさんがきてくれた。裏社会に詳しい暗殺者のサロウさんが来てくれたのだから、これでちょっとは、いやかなり安心できる。
「さっそくどうするか考えましょう!」
「ああ、そうだな。お前ひとりで考えるとどうせロクなもんにならんからな」
「なんですか? 信用無いですね」
「信用してるさ。お前の馬鹿さ加減をな」
ひどい。ひどい言いようじゃないか。
まあ、確かに馬鹿ではあるさ。考えなしの無鉄砲でもあるさ。
「でも、サロウさんがいるから大丈夫です」
「……ったく、お前を殺そうとした暗殺者を信用するヤツがあるか。馬鹿」
サロウさんはいい人だ。たぶん、いろいろ人に言えないことをしてきたと思うけれど、私にとってはいい人だ。
「サロウさん」
「なんだ?」
「来てくれて、ありがとうございます」
さあ、頼もしい仲間が来てくれた。
気合十分。モチベーションアップ。
ここからだ。ここから。
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