第19話 姉です。ダイジェストでお送りします。

 私は激怒した。必ずマリアレーサちゃんたちをひどい目に合わせた鬼畜外道共を根絶やしにしてやると誓った。


「みんな、マリアレーサちゃんのことを頼みます」


 マリアレーサちゃんを無事に救出し、盗賊たちに捕まっていた人たちも助け出すことができた。


 許さない。こんなひどいことをする奴らを許しちゃいけない。私はそう心に誓い、行動を始めた。


「お任せください、リズ様。この身にかけてもお嬢様をお守りいたします」


 ニーナさんは無事に回復した。いや、うん、本当に無事でよかった。


 ……無事、なのかな。


「どうかなさいましたか?」

「あ、いえ。本当になんともありません?」

「はい。何も」


 盗賊たちを退治して町に戻るとニーナさんは元気になっていた。そして、私が恐れていたことが現実になってしまった。


 まずニーナさんの身長が伸びていた。けれどこれは許容範囲内。160センチが170センチになったぐらいだ。まあ、許容範囲としておこう。


 問題は他にある。簡単に言うと猫耳メイドになっていたのだ。

 

 そう、ニーナさんは人種が変わっていた。人間から猫の獣人に変化していたのだ。


 ちなみにこの世界に獣人は存在していない。かつては存在していたという話なのだが、神話か伝承の中の話で実際にいたかどうかは定かではない。


 ただ、もしいたとしたら、まあ、うん……。


「何も問題ありません、リズ様。むしろ力があふれてくるようです。今なら世界を敵に回しても勝てる気がします」

「……やめてくださいね、ホント」


 一体、何が起こっているのだろう。絶対に私のせいだよな。


 それを確かめるために私は盗賊を倒して帰って来てから少しだけ試してみた。ラニちゃんのお母さんやマリアレーサちゃんで、ちょっとだけ。


 でも結局、ラニちゃんのお母さんやマリアレーサちゃんに変化はなかった。私の気を送り込むと何か変化が起きるのではと考えたのだが、どうやら違ったようだ。


 となると状況的に、重傷を負って死の淵をさ迷っている相手に私の気を送り込むと変化が起こる、と考えられる。それなら私の気で多少の傷を治すくらいなら問題な気もするが。


 いや、やめておこう。これからは無闇に気を使って怪我を治したりしないほうがいい。今以上にもっとヤバいことが起きたらそれこそ取り返しがつかない。


「と、とにかく皆さん、お願いしますね」


 私は成長、というか進化した皆さんにマリアレーサちゃんを預けてフィヨンの町を飛び出した。行先は告げず、目的も話さないままだ。きっと私が何をしようとしているか知ればマリアレーサちゃんたちに止められると思ったからだ。


 私の目的。それはこの国の闇に巣くう悪人共をやっつける事。


 リリアレス王国を裏で牛耳る犯罪組織『ゴリンガリン』。どうやら捕まえた盗賊たちの話によると、彼らはゴリンガリンの指示を受けて行動していたようだ。私はそのゴリンガリンを壊滅させるために行動を起こした。


 すべての元凶はそのゴリンガリンという悪い奴ら。五厘刈りだか五分刈りだか知らないが、徹底的にわからせてやらにゃならん。


 というわけで私は関係がありそうな組織を片っ端から叩き潰していった。人身売買、麻薬密売、密造酒やら武器の密輸に密売やらの、とにかくゴリンガリンに関わりの有りそうなところを見つけると全部ぶちのめして再起不能にしていった。


 そして、ついに辿り着いた。


 ゴリンガリンの三巨頭と呼ばれる三人の頭目。つまりはゴリンガリンの三人の最高幹部の居場所を突き止め、そいつらを全員ひっ捕らえて縛り上げることに成功したのだ。


 その過程で三巨頭を守るなんだか変な人たちもいた。よくわからない名前で、なんとかかんとか言っていたが、大したことなかったので適当にぶん殴って黙らせておいた。


 そして、私はゴリンガリンを支配する三人の外道共と対面したわけだ。


「なんだお前は!」

「私たちを誰だと思っているの!」

「貴様! こんなことをしてタダで済むと思っているのか!」

「いや、うん。とっても悪役らしいセリフ」


 とりあえず一人ずつぶん殴って縛り上げ、一か所に集めた私はそいつらにお仕置きすることにした。


 殺してしまおうか、という考えが頭をよぎった。けれど、やめた。こんな外道共の血で手を汚すのは嫌だった。臭そうだし。


「とりあえず、反省してもらいましょうかね」


 さて、どうしようかと考えた。そこで思いついた。


「とりあえず痛覚を1000倍に」

「んぎゃああああああああああああああああ!!?!?」

「いぎいいいいいいいいいいいいいいいいい!?!!?」

「お、ぼ……!?!?」


 痛みを感じやすくするツボを気で刺激して痛覚を1000倍にしてみた。これで座ってるだけで気を失うぐらいの激痛を感じるだろう。


「んで、不眠のツボを押してっと」

 

 次に不眠のツボだ。寝たくても眠れなくなるツボを気で刺激した。思った通り、気を失いそうなほどの激痛を感じていてもツボを刺激したことで気絶できなくなったみたいだ。


「じゃ、しばらくそれで反省してね」


 上手くいった。もし死んだら心臓マッサージでもすれば生き返るだろう。

 

 うん。我ながら上出来上出来。この状態でしばらく放置しておけばきっと反省してくれるだろう。


「さて、あとはこいつらと手を組んでた奴らね」


 いろいろと調べていくうちにわかったことがある。ゴリンガリンは武器の密売を行っており、それを反乱組織と国や貴族の両方に売りさばいて利益を得ていたらしい。


 そして国内の混乱に乗じて人をさらって売りさばき、人々の不安に付け込んで麻薬を蔓延させようとしていた。


 で、そんな奴らに加担する貴族がいた。もちろん反乱組織の幹部なんかもゴリンガリンと深くかかわっていたようだ。


 そんな奴らの名簿を手に入れた。あとは、全員潰すだけ。


「待っててね、マリアレーサちゃん。私、がんばる」

 

 ……正義の味方を気取るつもりはない。そんな大層なもんじゃない。

 

 ただ、許せないだけだ。かわいい女の子を苦しめるクソ外道の鬼畜共が。


「さーて、やっちゃいますかね」


 ゴリンガリンのアジトで手に入れた名簿。それを頼りに私はひとりひとりお仕置きしていった。


 で、そんなことをしている間に一カ月以上が経過してしまった。


「ただいま! みんな元気してた?」

「おかえりなさい、リズさん!」


 一カ月後、私は無事にフィヨンの町に戻ることができた。マリアレーサちゃんたちも元気、というか元気過ぎるぐらいで、なんだかまた成長している人もいた。


「あの、リズさんは一体なにをしていたのですか?」

「んー? 秘密。それよりおなかすいちゃった。何か食べる物ないかな?」


 こうして私の悪の組織壊滅作戦は終わったのだった。


 よかったよかった。うんうん。


 

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