第15話 姉です。人助けは気分がいいです。
痛みを感じやすくさせるツボを気で刺激すると痛みをいつもより感じやすくすることができる。
「お、ご、あ……」
「あちゃぁ、気絶しちゃった」
生き残った4人の護衛の中にいた怪しい奴。私とニーナさんたちでそいつから話を聞こうとしていた。
もちろん逃げ出さないように縄で椅子に縛り付けて地下室に放り込んである。そんでもって素直に話してくれるように、フィーロンさんから学んだ効果的な尋問方法を使って話を聞こうとしたのだが……。
「ハッ!」
「ゴハッ!?」
とりあえず気を失った怪しい男を気を流し込んで無理矢理目覚めさせる。目覚めさせたのだが。
「んぎいいいいいいいっ!?」
と珍妙な悲鳴を上げてまた気を失ってしまった。
「おかしいなぁ、調整はしてるはずなんだけど?」
背骨に沿って存在する痛覚を鋭敏にするツボ。そこに気を流し込むと痛みを感じやすくなる。その調整方法をフィーロンさんからちゃんと教えてもらったし、実際に私もフィーロンさんから受けたことがある。
でも、おかしいなぁ。ちゃんとやってるはずなんだけど。
「ま、いいか」
なんだかよくわからないけど効果があるようだし、もし気を失うほど痛いなら素直に話してくれるだろう。
「でも、このままじゃ話を聞けないし……。そうだ!」
痛みを感じ過ぎているなら逆に感じなくすればいい。痛覚を遮断するツボも教えてもらっているから、そっちを使えばいいのだ。
私って天才じゃね?
「よっと……。これでよし」
痛みを感じなくさせてから目覚めさせる。これでちゃんと話してくれるだろう。
「……痛く、ない?」
「うん、成功成功」
怪しい男は驚いた顔で自分の体を見ている。それにしてもなんだか顔が真っ青だ。
「な、ない。何も感じない。あ、あんた、一体俺に」
「だいじょぶだいじょぶ。それよりもあなたの知ってることぜーんぶ話してよ」
「は、話す! 話すから、元に、元に戻して」
「え? 痛いほうがいいの?」
「や、やめてくれ! それだけは! それだけは!」
怪しい男が泣いてる。そんなに痛かったのか。
「なら、ちゃんと話してくれるよね?」
男は無言で激しくうなずいている。よし、これなら話してくれそうだ。
「お、俺は、金で雇われただけで、詳しいことは何も」
「ウソついたら大変なことになるけど?」
「ほ、本当だ! 俺は何も知らないんだ! お嬢様の居場所を伝えろと言われただけなんだ!」
「うーん、これはもう一度」
「本当なんだ信じてくれええええええええええ!!」
……おいおい、そんな泣き叫ばなくてもいいだろう。なんか私が悪いみたいじゃん。
「どうします、ニーナさん?」
「こ、これぐらいでよろしいのでは?」
ん? ニーナさんが若干引いてる気がする。なんでだろう?
「でも、本当のことを言ってるとは」
「本当だ! 本当なんだ! 俺には病気の娘がいて! その治療のために金が必要だったんだ!」
「だからって人の命を危険に晒すなんて許されないですよ」
「わかってる! すまないと思ってる! でも、娘が、娘の命が!」
「そんなに重病なんですか?」
「そうじゃない! 俺が、俺が裏切れば、妻と娘の命が」
「……あなたの家、どこですか?」
「……へ?」
……世の中にはひどい奴がいるもんだ。ホント、外道なんてものはどこにでもいる。
「あなたの言葉は信用できません。なので事実を確認しようかと」
「やめてくれ! 頼む! 妻と娘だけは! それだけは!」
「大丈夫大丈夫。何もしませんよ」
「本当に、本当に何もしないのか?」
「はい。様子を見に行くだけ、なんなら助けてあげてもいいですよ」
「本当か!?」
疑り深い人だなぁ。でも、こっちを信用してきているみたいだし。
「家族を人質にとって言うことを聞かせようとするド外道なんて許せませんからね。滅ぶべしです」
そう、クズは滅べばいい。前世のあいつみたいな。浮気野郎と寝取り女みたいなクズは絶滅すればいい。
……っといかんいかん。私怨があふれ出てきてしまった。
「で、家はどこなんですか?」
「あ、アダラだ」
「アダラ? ニーナさんわかりますか?」
「ここから北に行ったところです」
「そうですか。じゃあ、行ってきます」
「今からですか?」
「はい。はやいほうがいいでしょう?」
「それはそうですが。ここからだと馬車で3日は」
「馬車で3日。なら半日でどうにかできますね」
「はい?」
さて、やることも決まった。行先もわかった。
ならば行動するのみ。
「んじゃ、行ってきます!」
というわけで私は怪しい男から家の詳しい場所を聞き出し、フィヨンの町の北にあるアダラという町へ向かったのだった。
「こんにちはー」
「……どちら様でしょうか?」
「お宅の旦那さんの知り合いです」
アダラの町について怪しい男の言った場所に行くと確かにそこには人が住んでいた。そして、その家を監視している怪しい輩が二人ほどいた。
なのでその怪しい輩を気を失わない程度にボコして井戸の中に捨てておいた。そのうち仲間が助けに来るだろうから問題ないだろう。
「あ、あの」
「もう大丈夫です。怪しい奴は全員倒しておきました」
家の中から怯えた様子の女性がドアを少し開けてそこから顔を出した。この人が奥さんだろう。
奥さんは顔だけ出して外を確認して何もないことを確認するとドアを開けた。
「中に入っても?」
「ど、どうぞ」
私は家の中に入った。
「旦那さんから話は聞いています。信用できないかもしれないですが、信用してください」
「え? あ、え?」
「とりあえず娘さんに会わせていただけますか?」
「そ、それは」
「大丈夫です。もしかしたら治せるかもしれません」
治せる。その言葉を聞いた女性は驚いた顔をしていた。そのすきに私は気配を探って娘さんがいる場所を探し当てた。
「こっちですね」
「あ、ちょっと」
私は強引に家の中を進んで娘さんの部屋の扉を開けた。
「空気が、悪い。まずはこれからだね」
とりあえず窓を開ける。それだけで空気が少し良くなるが、根本的な解決にはなっていない。
「まずはこの空気を浄化しますね」
空気。つまりは空の気だ。私の得意とする気の種類だ。
私は深く呼吸を整えて体内で気を練り上げる。そして、それを全身から一気に放出する。
「……よし。これで空気は良くなった」
悪い空気は消え去った。あとは娘さんの病気をどうにかしなくては。
「ん……」
「ラニ!」
奥さんが娘さん、ラニちゃんが臥せっているベッドに駆け寄って膝をついてラニちゃんの手を取る。
「おかあ、さん」
「よかった、目を覚ましたのね」
目を覚ましたことを喜んでいる。ということは今までずっと眠っていたと言うことか。
「お母さん、娘さんはどれぐらい眠っていたんですか?」
「もう5日前からです。それまでも何日も目を覚まさないことがあって」
……さて、これは困った。治せないかもしれない。
私の気はフィーロンさんのような活気じゃない。それでも気を使えば免疫力を高めて風邪などの感染症を治療することはできる。
でも、それ以外は難しい。
けど。
「やってみますか」
そうだ。やってみなくちゃわからない。やる前から諦めてちゃなんにもならない。
「お母さん、できるかどうかはわかりませんが。やってみます」
私は賭けに出た。
で、賭けに勝ったわけだ。
「お母さん!」
「ラニ!」
どうやらウィルスや病原菌が関係していた病気だったようだ。ラニちゃんに気を流し込んで免疫を活性化して体力を回復したらあっという間に良くなった。
良くなりすぎるぐらいに。
「お母さん! なんだか私、力がみなぎってくる気がするの!」
「そうなの? でも無理はしちゃだめよ?」
「大丈夫!」
……よかったよかった。これでいいのだ。
「お姉ちゃん! ありがとう!」
喜んでくれてお礼まで言われたのだからこれでいいのだ。うん。
「それよりもここは危険です。すぐに離れないと」
私は二人に事情を説明した。そして、この町から今すぐ離れるようにと伝えた。
「でも」
「大丈夫! 私は元気だから!」
「でも、元気になったばかりだし」
「大丈夫! 私は元気だから!」
「……ラニ?」
「大丈夫! 私は元気だから!」
……なんだか重大な不具合が出ているような気がするけれど。
まあ、いいだろう。うん。
「……人助けはいいもんだね」
……そう言うことにしておこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます