第14話 姉です。知らない町です。

 さてさて辿り着いたはフィヨンの町。そこそこ大きな町らしく、たくさんの人が道を往来している。


「いやあ、こんなにたくさんの人を見るのは久しぶりですな」


 無事に到着。お嬢様たちはなんだか気分が悪そうだけど。


「あ、ありがとうござ、います。た、助かりました」

「いえいえ。それにしても顔色が悪いみたいですが」

「も、問題ありません。大丈夫です……」

「他の人たちも体調が悪そうですけど」

「お、おきになさらず。うぷ……」


 早く家に帰って休んだ方がいい。とは思うのだが……。


「あの、お送りしますよ?」

「結構です!」

「大丈夫! 体力には自信が」

「そういうことではありません! 大丈夫ですから!」


 なんというか、かたくなだ。私が馬車を引いてお嬢様の屋敷に向かうのが一番早いと思うのだが、町に入ってすぐのところで迎えを待つて非効率過ぎる。


 まあ、確かにいろいろとあるのだろう。町の入り口でいろいろと話をしていたし、手続きとかがあるのだろう。


「そう言えば、亡くなった方のご遺体とかは」

「町の兵士が運んで来てくださるそうです。盗賊のこともありますので」

「そうですか、よかった……」


 それなら安心だ。遺体をあのまま放置というのは可哀そうだし、暴漢たちのことも調べなくてはならない。


 ……ああ、しまった。一人ぐらい連れてくればよかった。生き残った人たちを急いで安全な場所に運ばなきゃと思って慌ててしまってこのざまだ。

 

 今から戻る……。わけにもいかないか。お嬢様たちの方が気になるし。


「お、お嬢様、迎えの馬車が」

「ああ、助かりました。よかった……」


 道の向こうから馬車がこちらに来るのが見えた。それを見てお嬢様もメイドさんも生き残った護衛の人と怪しい人も泣いて喜んでいた。


 そうだな。そうだろう。命が無事だったのだ。泣いて喜ぶのも無理はないさ。


「それじゃあ、私はここで」

「あ、あの!」

「ああ、お礼とかはいいので」

「そうではなくて」


 はて、なんだろう? もしかして、なにか失礼なことでもしたか私?


「え、えっと、打ち首とかは勘弁していただいて」

「なぜそういう話になるのですか?」

「え? じゃあ、なんで呼び止めたんですか?」


 お礼でもなく処刑されるわけでもない。だとしたらなんなのだろう。


「お話は屋敷についてからで」

「あー、はい。わかりました」


 なんだかわからんがとりあえずわかったことにしておこう。話は屋敷についてからということだからそこまではついて行くことにしよう。


「では、こちらに」

「いえいえ、私は歩いて行きますので」

「でも」

「お嬢様。彼女なら大丈夫でしょう」

「……ですね。馬車を引いてきたぐらいですから」


 ……なんだろう、この人外を見るような目は。


「では、ついてきてください」


 まあ、いいか。とりあえず馬車について行こう。そうすればわかることだ。


 …………というわけで、お嬢様が乗る馬車について行ったわけだが。


「……でっか!?」


 でっかい! 超でっかい! 豪邸だこれ!


「え? あの、あなたは、もしかしてお金持ち?」

「いいえ、私がではなく、我が家がですわ」


 こいつは、なんだかとんでもない人に関わっちまった気がするぜ。


「お帰りなさいませお嬢様」


 屋敷に入るとメイドたちが勢ぞろいして出迎えてくれるぐらいだ。もしかしてこのお嬢様は貴族か豪商の娘なのかもしれない。


「改めましたて。この度は危ないところを助けていただきありがとうございました」

「あ、いえ。こちらこそ、なんか、はい……」


 ……名乗れよ! とは思うがこれも何かあるのだろう。高貴な人物は自分から名を名乗らないとかなんとか面倒くさいことが。


「こちらはプリムローズ公爵家の次女、マリアレーサ様でございます」


 と、メイドさんが紹介してくれた。まったく、面倒くさいことで。


「え、えっと、り……」

「り?」

「えっと……」


 さて、名乗り返そうとしたはいいのだが、なんて名乗ろうか。リズはなんとなくよくない気がする。というかもし本名を名乗って私が生きていると知れたら一体どうなるか……。


 ……どうにもならんか。めんどくさ。


「リズです。よろしくお願いします」

「リズ様。素敵なお名前ですね」

 

 面倒くさいから本名だ。まあ、バレてもどうってことないだろう。そう簡単に殺されるようなことがないくらいには強くなってるし。


「それで、お話というのは?」

「それは私の部屋で」

「あ、はい。立ち話もあれですし」


 というわけで私はマリアレーサちゃんとそのメイド、確かニーナとマリアレーサちゃんが呼んでいたメイドさんと一緒に彼女の部屋へ向かった。


「はあ、ご立派な部屋で」

「いえ、そんな。大したことはありませんわ」


 部屋は見るからにお金がかかっていそうな内装だった。それなのに全く下品なところがない。優雅というか上品というか、とにかく、金持ちなんだすごいだろ! と威張り散らすような下卑た雰囲気が一切ない。


「で、お話というのは?」

「それはお茶でもゆっくり飲みながら」

「ああ、はい。そうですね」


 ……気になるからさっさとして欲しいんだけど、ここは高貴なお方の流儀に従うことにしておこう。


「……それでお話というのは?」


 メイドさんが運んで来たお茶を飲みながら私とマリアレーサちゃんの話が始まった。


 で、それを要約するとマリアレーサちゃんの護衛をして欲しいということだった。


 誰がって?


 私がだよ。


「今、この国は非常に不安定な状態にあるのです」


 この国、『リリアレス王国』は国内が非常に不安定な状態らしい。政治は『国王派』と『貴族派』に分かれ、国内も農民や貧しい人たちの不満が溜まっており今にも爆発しそうなのだという。


 つまり内乱が近いと言うことだ。そんな中、マリアレーサちゃんのお父様であるプリムローズ公爵様は仲間たちを集めて国をどうにかしようと奔走しているらしい。

 

 ただ、それは上手く行っていない。そして、上手くいかないように仕向けようとしている奴らがいる。


 簡単に言うと内乱で得するヤツがいると言うことだ。内乱が起きることで自分たちの利益を獲得しようとする輩がこの国には存在し、そんな奴らにとってマリアレーサちゃんのお父さんは非常に邪魔なわけである。


 そんな奴らにマリアレーサちゃんは命を狙われている。そんな奴らから守ってほしい、ということだ。


 ……お茶をゆっくり飲んでいる暇などないのでは?


「まあ、乗り掛かった舟です。その依頼、引き受けましょう」

「ありがとうございます!」

「ただ、いいんですか? こんな素性もわからない女を引き入れて」


 警戒心がなさすぎる、と私は思う。だってそうだろう、自分を守るはずの護衛の中にさえ裏切者がいたのだ。そんな状態なのに私のようなついさっき会った得体の知れない奴に助けを求めるなんてどう考えても危ない。


「問題ありません。あなたなら大丈夫な気がしますから」


 と言ってマリアレーサちゃんは満面の笑みを浮かべた。


 ……うんかわいい。ちょーかわいい。


 よし、お姉さんジャンジャン守っちゃうぞ!


 と、冗談はこれぐらいにして。


「わかりました。では、よろしく」

「はい! よろしくお願いします!」


 というわけで私はマリアレーサちゃんの護衛として雇われたわけだ。


 お姫様を守る騎士。

 

 うーん、いいね! やったろうじゃない!

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