第13話 姉です。ここは乙女ゲームの世界のはずです。
森を抜けてモンスターを倒して、サバイバルサバイバルサバイバルの果てに辿り着いた先は知らない場所でございました。
どこだここ? まあ、いいか。取りあえずでっかい湖だ。ここなら飲み水にも困らない。
仙術のおかげで空腹はあまり感じない。食べなくていいわけじゃないけれど、空腹に悩まされないのは助かる。
さて、これからどうするか。行く当てもないし、目的もない。
「……悩んでても仕方ないか。行動あるのみだね」
取りあえず人がいるところへ向かおう。寂しいしね。
「きゃあああああ!?」
……おっと、とりあえず人の声だ。悲鳴は歓迎できないけど。
「行こう。うん」
私は悲鳴がした方へ走った。まあ、そこでは予想通りのことが起こっていたわけだ。
「お嬢様! お嬢様ああああ!」
「ニーナ! ニーナ!」
「うるせえ! 黙って大人しくしてろ!」
暴漢、盗賊か? 襲われてるのは女の子とメイドさん。倒れているのは護衛だろうな。
しかし、テンブレもテンプレだ。マンガやアニメならよくある光景。
でも、実際に見ると胸糞悪いな、チクショウ。
「へへへ……」
「やめて! いやああああ!!」
「お嬢様あああああ!!」
「死ねやロリコンがあああああ!!!」
「ほげぶ!?」
女の子を襲おうとしていた野郎共を蹴り飛ばさした。変態野郎が、くたばりやがれ。
「だ、誰だてめごば!?」
「うるせえ死に晒せ!」
「う、うろたえるんじゃねえ! 相手はまるごぶべ!?」
「おら来いやあああああ!」
「な、なんなんだよテメぼげべ!?」
「シャいいいいいいい!!」
敵は十五人。とにかく殴る、蹴る、ブッ叩いて、ころ……。
「……ふぅ、ふぅ、ふぅ」
殺しちゃいけない。いや、殺したくない。
やっぱり私の中身は平和な世界の日本人なのだ。人を殺すことに対して抵抗があるみたいだ。
けれど、この世界は違う。この世界は前世の日本より命が軽くて、死が近い場所にある。
「うわああああああああああああ!!?」
「まてっ!」
逃げやがった。一人。
「……いや、それよりこっちだね」
追いかけて仕留めるのは簡単だろう。けれど、それより先に怪我人だ。
盗賊に倒された護衛の兵士たち。すでに息を引き取っている人もいるけれど、まだ息がある人もいる。
「師匠みたいにはいかないけど、それでも!」
護衛は八人。息があるのは五人。みんな重症だけれど……。
「シャイっ!」
「ゴハッ!?」
私の気を怪我人に送り込む。こうすることで弱っている人の治癒能力を活性化させ傷を塞ぐのだ。だけど失った血は元に戻らない。出血多量の場合は傷を塞いでも意味がないとフィーロンさんは言っていた。
「次っ!」
いや、ダメでもともとだ。やらないよりはやった方がいい。
私は怪我人全員に気を送り込んだ。それでどうにか傷は塞がったが、やはりダメな人もいた。
結果、四人は何とかすることができた。すでに息をしていない人にも蘇生を施してはみたけれど、どうにもならなかった。
「……ごめん」
私の力が足りないばっかりに。
「あ、あの」
女の子の声だ。そうだ、ここには女の子がいたんだ。
「ど、どこのどなたか存じませんが助けていただきありがとうございます!」
……かわいい。
「いやいやいや、そんなこと考えてる場合じゃない!」
「あ、あのう……」
人が死んでるんだ。救えなかったんだ。
「ごめんね、助けられなかった」
「いえ、問題ありません。死んで当然でございます」
「……はい?」
いやいや、なんというか辛辣なメイドさんだ。黒髪ショートカットのメイドさんらしいメイドさんだが発言が厳しすぎる。
「おそらく死んでいるのはすべて裏切者です」
「裏切者?」
……さて、なにやら不穏な空気になってまいりました。
「申し訳ありません。お話したいのはやまやまなのですが、お嬢様のお召し物を」
「あ、ああ、はい。ごめんなさい。どうぞどうぞ」
あー、しまった。お嬢様は暴漢に襲われて服がボロボロだ。気を使うべきだった。
「私が見張ってますんで、ごゆっくり」
お嬢様は馬車の向こう側に行ってしまた。さて、私はっと、倒した暴漢どもを集めて、怪我人たちを道のわきに運んで、死んでる人も一か所に並べて、それからついでに怪我人ひとりひとりに声をかけて。
「大丈夫ですか?」
「ああ、ありがとう。助かった」
「いえいえ。あなたは?」
「血を流しすぎたみたいだが、問題ない。それよりキミはいったい」
「話は無事に帰ってからにしましょう。そっちのあなたは?」
「ひっ……」
「大丈夫。そんなに脅えないで」
「あ、ああ、だ、大丈夫だ。す、少しまだ、頭が」
「無理もないですよ。死ぬところだったんですから」
「そ、そそ、そうだな。はは、ははは……」
なんだか一人妙に怯えている人がいるが、まあ仕方がないだろう。襲撃された恐怖でまだ落ち着かないだけだろう。
さて、声掛け終了。そんじゃあ、周囲の監視をしますかね。
「敵は……。いないみたいね」
周囲の気配を探っても自分たち以外に人や魔物らしき気配はどこにもない。おそらく安全だろう。
「お待たせしました」
見張りをしていると着替えを済ませたお嬢様が戻って来た。
いやいや、改めてみると本当に可愛らしい。長い金糸のようなブロンドに青い目、いやはやまったく美しいしかわいい。
「うひひ……」
おっといけない。抑えて抑えて。
「では、お話の続きをお願いします」
さて、どういう事情があるのかどういう状況なのかをメイドさんからゆっくり聞かねばなるまい。関わってしまった以上、見捨てるわけにもいけないしね。
「実は、襲撃を受けた際に聞いてしまったのです」
メイドさんが言うには馬車で近くの町に向かっている途中で襲撃に会ったらしい。その際、盗賊と護衛が何やら言い争いをしているのを聞いたという。
「俺たちは助けてくれるってどうのこうの、と」
あー、はい。黒ですね黒。真っ黒だこれは。
「私たちが町へ向かうこともここを通ることも我々以外には知らないはずです」
「偶然、という線は?」
「あるかもしれませんが、あれを聞いた以上は……」
お嬢様たちの通るルートを事前に知らせた奴がいる。そして、そいつが護衛の中に紛れていた。
……さて、そいつは誰だ。
「ねえ、あんた」
「ひっ……」
声をかけたとき妙に怯えていた人。真っ青な顔をしている。出血したせいなのか、それとも。
「し、知らない。俺は何も」
「まだなーんにも言ってないけど?」
「ひぃっ」
怪しい。しかし、ここで話を続けるのは危険だ。
なにせ一人逃がしている。そいつが仲間を連れてきたら。
「移動しましょう」
「ですが、馬が」
馬。護衛の人たちが乗っていたであろう馬も、馬車を引いていた馬もいなくなっている。おそらく襲撃者たちが意図的に逃がしたのだろう。
「大丈夫! 馬車なら私が引きますから」
「はい?」
問題ない問題ない。馬車ぐらいなら一人で引ける。
「とりあえず全員乗ってください。あ、そこの人は一応縛っとくんで大人しく」
怪しい男をロープで縛って、全員馬車に乗ってもらう。大きな馬車ではないから狭くて乗り心地も悪いだろうが、ここは我慢してもらうしかない。
「全員乗りましたね。んじゃ、行きますよ!」
呼吸を整えて全身に気を巡らす。気を使って身体能力を底上げして、馬車を引く。
「んおらあああああああああああああああああ!!!」
「きゃああああああああああああ!?」
悲鳴、が聞こえたような気がするけど気のせいだろう。さっさとこの場から離れて安全な場所へ向かわなくては。
「おらおらおらおらおらおらおらおらあああああああ!!」
走れ、走れ、走るぜやっほい!
テンション上がってきたぜ!
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