第6話 姉です。殺されそうになりました。
さて、やってきましたウィーンベリル伯爵邸。馬車に揺られて出荷され、たどり着いたお屋敷は見るからに金持ち貴族の豪奢な白亜の城でした。
「会いたかったよ、リズ。ああ、サレーナにそっくりだ」
初顔合わせのウィーンベリル伯爵様は銀髪の柔和な紳士でした。私を見て涙ぐんでいました。
その伯爵様の隣には奥様がいました。奥様は涙ぐんでいる伯爵様の横で般若のような恐ろしい顔で私を睨んでいました。
……空気を読めよ伯爵よぉ。なんで自分の妻の横で、愛人にそっくり嬉しいなぁ、って泣いてんだよふざけんな。
「さあ、リズ。今日からここがキミの家だ。遠慮することはないよ」
「は、はい。ありがとう、ございます……」
ああ、最悪だ。ここでの生活が目に浮かぶようだ。
私はこれから伯爵のお屋敷で生活することになる。きっと奥様にイジメられ、使用人たちには陰口をたたかれ肩身の狭い思いをして暮らすんだ。
ちくしょう。なんでこんなことになったんだ。私はただアンヌたちと平和に穏やかに暮らしていきたかっただけなのに。
「……毒殺されたりしないよね?」
奥様、ウィーンベリル伯爵夫人。あの人の目には殺意が篭っていた。私を憎んでいるに違いない。
だってそうだろう。夫人と伯爵の間には子供がいない。それなのに愛人には子供ができて、しかも伯爵家の令嬢として引き取られたのだ。
絶対に怒ってる。殺されるかもしれない。しかし、表立って何かをすることはないだろう。きっと事故死か病死に見せかけて殺されるに決まっている。
とにかく警戒するに越したことはない。何かされないように気をつけなければ。
さて、そんなわけで私の伯爵家での生活が始まった。まあ、それは想定内のものだった。
夫人からの様々な嫌がらせ、使用人たちからの陰口や無視、命の危険はなさそうだが心の弱い人間ならすぐに参ってしまうようなことが続いた。
ホント想定内も想定内。想定内過ぎてなんだか楽しくなってしまうぐらいに想定内だった。思った通りのことばかりで心の余裕さえある。
それにいざとなれば全員ぶっ倒して逃げればいい。落雷に撃たれてからこれまでの一年間、私はアンヌを守るために鍛錬を続けて来た。モンスターを倒してレベルも上げて来た。
まあ、レベルが上がっているかはわからない。ステータスを見る方法がないので、自分が今どうなっているのか確かめる術がない。
……アンヌ。なんでなんだアンヌ。どうしてお姉ちゃんを引き留めてくれなかったんだ。
「元気でねお姉ちゃん!」
なんで何の迷いも躊躇いも未練もなく元気に送り出してくれたんだアンヌ。私はあなたを守るために必死で強くなろうと頑張っていたのに。
……愛とは伝わらないものなんだなとしみじみと思うよ。
しかし、あの戦いの日々は無駄にはなっていない。無駄ではなかった。
「……女の子の部屋に勝手に入ってくるのはどうかと思うな。うん」
私がウィーンベリル家にやってきて数日後の深夜。そいつは突然現れた。
私の部屋に暗殺者が現れた。その暗殺者がちょうど私に毒針を刺そうとして顔を近づけていたところで私は目を開け、暗殺者と目が合った。
「なんで気が付いたんだ、って顔してるね。顔見えないけど」
どうやら私は深夜に寝室に侵入してきた暗殺者に気が付くぐらいには強くなっていたようだ。
「理由を教えてくれるかな、暗殺者さん」
暗殺者は跳び退きベッドから離れて身構える。私はゆっくりとベッドから出て暗殺者を見据える。
さて、この暗殺者は誰の差し金か。というか本当に暗殺者か。
ただの変質者かもしれない。いや、おそらく暗殺者だ。私を殺して自分も死ぬなんて言う変態ストーカーに付きまとわれるような覚えはない。
とりあえず暗殺者と言うことにしておこう。ではそんな物騒な野郎がどこから入って来たのか。
窓は、閉まっている。部屋の入口のドアが少しだけ空いている。状況を見るに、どうやらこの暗殺者は入り口から堂々と入って来たようだ。
ということは暗殺者を屋敷に引き入れた者がいると言うことだ。さてさて、どこのどいつだこの野郎。
「……めんどくさ」
ほんっっっっっっっっっっっとうに面倒くさい。なんで暗殺者に命を狙われなきゃならんのか。
そんでもってさっさとどっかに行けよ暗殺者。暗殺は失敗したんだから撤退しろ撤退。
「お前は、一体」
「リズ・ベール。ああ、今はリズ・ウィーンベリルか」
どっちでもいい。マジでどうでもいい。
「さっさと消えてよ、暗殺者さん。眠いんだけど」
さてさてこのまま寝てもいいが、寝たところで状況は変わらない。先延ばしになるだけだ。
私は誰かに暗殺されようとしている。いったい誰なのかわからないが、そいつの恨みを買っているのだろう。
いや、なんかで読んだ気がする。なんだったか?
……まあ、いいや。なんだったかわからないけど、とにかくあれだ。別に恨まれたり憎まれたりしているわけではないだろう。
ただ邪魔なだけなのかもしれない。いないほうが都合がいいから殺されようとしているのかもしれない。
とにかく誰かにとって私はいないほうがいい人間なのだ。まったく、理不尽なことだよ。クソが。
「いや、待てよ。別に私は、ここにいたいわけじゃないし……」
暗殺者はまだいる。まだ私を殺すチャンスを狙っているのかもしれない。
考えろ、考えろ私。こんなことで死んでたまるか。
「ねぇ、暗殺者さん。少し話をしない? ……私を殺す話」
生き残る。暗殺なんてされてたまるか。
絶対に生き抜いてやる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます