第5話 姉です。知らないことばかりです。

 さて、この世界が魔法学園物語3の世界だとすると、アンヌは十四歳でローベンヌ王立魔法学園に入学することになる。そして、そこで様々な登場人物と親交を深め愛を育むのだ。


 その相手は総勢5人。第二王子のアルベルト、アルベルトの双子の弟で第三王子のジルベルト、従兄のフレデリック。この三人が初期の攻略対象である。


 その三人を攻略、つまりはゲームを最低三周した後に二人攻略対象が増え、その二人を攻略した後に隠しキャラが出現し、そのキャラを攻略すると真のエンディングを迎えることができる。


 つまり真エンディングを迎えるには最低でもゲームを六回クリアしなければならない。ならないのだが、私は二周しかしていない。しかも攻略したのは第二王子のアルベルトだけで、もう一度はバッドエンドだった。


 さて、これでおわかりだろう。そう、私はこのゲームにあまり詳しくない。シリーズのファンであり一応はクリアしてはいるが、真エンディングどころか一人しか攻略に成功していないのだ。


 なのでアンヌが学園に入学してからのことはわからないことだらけだ。アンヌならバッドエンドにはならないと思いたいが、それはわからない。


 ああ、アンヌ。幸せになってほしい。私のことはいいから。


 ……いや、私も幸せになりたい。できればみんな幸せになってほしい。


 そして、幸せを奪った奴らを根絶やしにしたい。


 アンヌは誘拐未遂事件が起きてから屋敷の外に出られなくなってしまった。そして、常に彼女の側には護衛がつくようになり、アンヌの自由と平和で幸せな日常が奪われてしまった。


 許さない。絶対に許さない。誘拐犯許すまじだ。


 根絶やしにしてやる。私の大切な妹に手を出したことを後悔させてやる。


 そのためには力だ。強くならなくてはならない。アンヌを守るためにも、アンヌを怖がらせた阿呆共を絶滅させるためにも力が必要なのだ。


 こうして私は日々強くなるため鍛錬し、魔物を倒し、魔物の素材を売ってお金を稼ぎ、とにかく強くなるために頑張った。


 そんなこんなで一年が経過した。


 そして、私は十五歳になった。


「リズ、あなたに伝えておかなければならないことがあるの」


 私の十五歳の誕生日。私は両親からあることを伝えられた。


「あなたは私たちの本当の子供じゃないの」

 

 ……まあ、そうじゃないかとうすうす感じてはいた。


 私は両親にもアンヌにも似ていない。まったくもって似ていない。


 それでも普通の家族のように暮らしてきた。それが突然、お前は家族じゃない、だ。


「あなたは十五年前、雪の降る寒い冬の日に父さんが拾ってきたの」


 捨て子か。良くある話ではある。


「道端に倒れていたあなたとあなたのお母さんを見つけた父さんは、あなたたちを助けようとしたわ。でも、あなたのお母さんは凍え死んでいた。あなたを守るように抱きかかえながら静かに息を引き取っていた」


 もう母親はいない、と。では父親はいるのか。


「あなたのお母さんは丁重に埋葬して、あなたは私たちの子供として育てられることになった。そのことをあなたが十五歳になった時に伝えようと父さんと決めていたの」


 そして十五歳の誕生日が来たからそれを伝えたと。なるほど。


「それでね、あなたのお父さんがあなたに会いたいって手紙が来たの」

「……ん?」


 そうか、お父さん。父親か。


「あなたのお父さんはウィーンベリル伯爵様よ」

「……んん?」


 ……え? どゆこと?


「あなたは伯爵様とその愛人の間にできた子供なの。その愛人、あなたの母親はあなたを身ごもったことを知ると伯爵様に迷惑をかけないように身を引いて、一人であなたを生んだ。けれど、それを知った何者かに命を狙われて、その追手からあなたを抱えて逃げる途中に息絶えて、父さんに拾われたの」


 ……そんな設定あったっけ?

 

 いや、ない。無いはずだ。だって私は不遇姉。アンヌの姉であるのに立ち絵もボイスも無い、ただの姉のはずだ。


 それが伯爵様の娘? は? え?


「伯爵様はずっとお前のことを探していたらしい。それでつい最近、ここにいることを突き止めて会いたいと旦那様に手紙をよこしたらしい」

「それでね、リズ。伯爵様はあなたを伯爵家に迎え入れたいと」

「ちょ、ちょっと待って! 理解が追いついてないから少し待って」


 えーと、つまり私は伯爵様の愛人の子で、産みの母親はすでに死んでいて、その伯爵様が私を見つけて、連れ戻そうとしてる?


「できればあなたを娘として伯爵家に引き取りたいと」

「伯爵様には子供がいない。だからお前を」

「え? 行かないよ?」


 いろいろと衝撃の事実が発覚したが、私の意思は変わらない。


「私はリズ。リズ・ベール。お父さんとお母さんの娘でアンヌのお姉ちゃん。今までもこれからもずっとそのつもりだよ」


 そうだ。私はどこにも行かない。どこかにいくつもりもない。


 私は私だ。伯爵様だろうがなんだろうが知ったことか。


「お父さん、お母さん、アンヌ。これからも私は」

「申し訳ないんだが、リズ。これは断ることができないんだ」

「……は?」


 いやいや待て待て。ここは家族の絆を確かめあって皆で涙する感動のシーンじゃないのか? え? なに? もしかして私が出て行くのは決定事項なの?


「お、お母さん。私、ここにいても」

「残念だけど、これは貴族同士の話で平民の私達は口を挟めないの」

「それになお前を伯爵家に引き渡せば伯爵様がアンヌの資金援助をしてくれると言う話なんだ」


 金かああああ! 結局金なんかああああ!


「お、お金は私がなんとかするから」

「ワガママを言わないで」

「もしこの話を断って侯爵様と伯爵様の関係が悪くなったら」

「私たちの立場も悪くなってしまうわ」

「わかってくれ、リズ」


 なんで、なんで、私たちは親子で。


「あ、アンヌ。アンヌは私と一緒が」

「お姉ちゃん」


 そうだ、アンヌは、アンヌならきっと、天使のようなアンヌなら私を見捨てたりしないはず。


「幸せになってね」


 クソがああああ!! 何が家族の絆じゃあああああ!!


 ふざけんなちくしょーーーーーー!!!


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