第4話 姉です。なんだか妙に強いです。

 魔法学園物語3は設定やシナリオも破綻しているが、それに加えてバグだらけでもある。進行不可能になるバグがいくつかある。


 まあ、この世界が魔法学園物語3の世界なのかそれに似ている別世界なのかはわからないが、バグって世界が終わると言うことはないだろう。そうであってほしい。


 そして、そんなバグの中には有用なものがある。その一つが『毒針必中バグ』だ。


 魔法学園物語3にはバトルパートがある。それは一般的なターン制バトルを採用しており、キャラクターたちは武器や防具を装備して敵を倒す。


 その中に『毒針』という武器がある。この武器は10パーセントの確率で相手を即死させる効果があり、毒針必中バグはこの即死効果を100パーセントにするバグである。


 そのバクを発動させるのは意外に簡単で、必要な装備を揃えるだけでいい。その必要な装備というのは『毒針』『黄色のバンダナ』『居眠りの護符』『俊足ブーツ』である。この四つを装備して敵と戦うと毒針の即死効果が必中となるのだ。


 このバグはとても有用なバグである。というかこのバグを利用してバトルパートを攻略するのが普通のプレイになっている。それほどに3のバトルパートは苦行なのだ。


 ただしこのバグにもデメリットがある。それが『居眠りの護符』だ。この護符は獲得経験値を1.1倍にするかわりにランダムでねむり状態になるというものだ。もちろん不人気装備である。


 だってそうだろう。獲得経験値は増えるがランダムで行動不能になるのだ。そんな物を装備するヤツは苦行でしかないバトルパートをさらに苦行にして楽しむドMぐらいしかいない。


 もちろん私はドMではない。必要だから装備していただけだ。


 とりあえず私はお小遣いでそれらを購入し魔物狩りを始めた。お供にライネルを連れてだ。


 ライネルを連れて行くのは私を叩き起こしてもらうためだ。居眠りの護符の効果で突然寝てしまうことがあるので、その時に起こしてもらうためである。


 しかし、必要なかった。どうやらこの世界にバグは無いらしい。装備を揃えたはずなのに毒針の即死効果は必中ではなかったのだ。


 なので毒針などの装備はすべて売った。お金は半分も戻ってこなかった。クソが。


 それにしてもこの世界は本当に危険だ。私が「アンヌを守るために強くなりたいんです!」 と土下座して何度も頼んでもなかなか町の外に出ることを許してはくれなかった。


 魔法学園物語3の世界はかなりヤバい。森などには魔物が跋扈し、町の外に出る時は護衛を雇わないと命はないと言われるほどに厳しい世界観なのだ。


 そしてこの魔法各園物語3の世界に似ている今の世界も実際にヤバい。町は魔物が侵入してこないように周囲を高い城壁に囲まれており、街道には魔物除けの対策が施されている。そして、その外に出ると冗談ではなく命の保証はない。


 ……なんでそんな世界観にしたんだろう。もう少し優しい世界でもよかったのでは。


 だが、そんな世界だからこそいい面もある。魔物があふれていると言うことはレベルが上げ放題ということだ。


「しかし、レベルは本当に上がってるのかな? ステータス画面は見られないし」

「ステータス? 一体何を言ってるんだ?」


 私はライネルと一緒に魔物退治に森に行くことが多かった。町の周囲の魔物を掃除しないとあっという間にあふれかえってしまうので、町の警備兵たちが定期的に魔物退治を行っている。そこに私とライネルも加えてもらってレベル上げを行っていた。


 もちろん報酬は出る。危険な仕事なので額も良い。このお金を貯金してアンヌの入学資金に充てるつもりだ。


「あー、能力を見ることができるんだよ、ゲームだと」

「何を言ってるんだお前は?」

「ん? わからなくてもいいよ。こっちの話だから」


 本来なら私のような女が魔物退治に加わることはない。危険だからだ。なので私は実力を示した。警備兵たちを倒し、実際に魔物を倒し、自分の実力を周囲に理解させ、晴れて魔物討伐部隊に参加することが許されたのだ。


 私は魔物をたくさん倒した。レベルは、上がっているのかわからない。確認しようがないので仕方ないのだが、ものすごく不安だ。


 ただ懐は潤った。魔物退治の報酬もそうだが魔物の素材もそれなりに高く売れた。自分の倒した魔物の何匹かは持ち帰ることができるので、たくさん魔物を倒してその中で高く売れそうな物を選んで売り払うのだ。


 お金は面白いように溜まっていった。お金が溜まれば貴族に売られることもなくなるし、魔物を倒せばレベルも上がる。良いことだらけである。


 ただ、アンヌに心配をかけるのは心が痛む。


「お姉ちゃん、危ないことはしないでね。私、お姉ちゃんが死んじゃったら、私」

「アンヌぅ、大丈夫だよぉ。私は絶対に死なないから、約束するからぁ」


 本当にアンヌはいい子だ。マジで天使だ。


 さらには大好きな声優さんと同じ声で「お姉ちゃん」「おはよう」「大好き」などなどのセリフを間近で聞くことができる。しかも私に向けてだ。


 最高だ。幸せ過ぎる。もう死んでもいい。


「ああ、まりたんのロリ声最高……」


 花本真理恵。通称『まりたん』。私の大好きな女性声優さんだ。そして彼女がアンヌのCVを担当している。


「アンヌぅ、大好きだよぉ」

「うん、私もお姉ちゃん大好き」

「んアンヌぅふぅ」


 最初は何で3の世界なのかと絶望したが、これだけは転生してよかったと思う。


 かわいいアンヌ、愛しのアンヌ。お姉ちゃんが絶対に守ってあげるから。


 あと三年と少し。あなたが学園に入学するまで、私が守ってあげるからね。

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