第3話姉です。誘拐犯と間違えて恩人をボコしました。

 アンヌが誘拐された。


「おどれ! 私の大切な妹に何してくれとんじゃクソボケェェ!」


 それは町にアンヌと二人で買い物に出かけ、私が少し目を離した一瞬の出来事だった。本当に少し目を離したスキにアンヌは姿を消した。


 私は必死にアンヌを探し回った。そして、人気のない路地に見知らぬ男と一緒にいるアンヌを見つけた。


 私はその男をボコボコにした。ボコボコにしてしまった。


「やめてお姉ちゃん! その人私を助けてくれた人!」

 

 ……本当に申し訳ないことをしてしまった。もちろんちゃんと土下座して謝ったから許してほしい。


 私がボコボコにしてしまったアンヌの命の恩人はライネルと言う青年だった。旅の途中の剣士で、偶然アンヌが誘拐せれるところを目撃し追いかけて助けてくれたようだ。


「そうふぁ、きみふぁ噂の」


 顔面をボコボコに殴ったのでライネルはしゃべり難そうだった。本当に本当に申し訳ない。


「魔法がつふぁえる子供はへずらふぃいからな。気をつけふぁほうがふぃい」


 魔法が使える平民の子供。どうやらアンヌはいろいろな人間から狙われているようだ。


 私はそこで悟った。自分がやらなくてはならないことを理解した。


 強くならなくてはいけない。アンヌの身を守るため強くならなくてはいけないのだ。


 幸い強くなる方法は知っていた。レベルを上げればいいのだ。


 魔法学園物語3にはRPGパートが存在している。森やダンジョンを探索して魔物を倒したりするアレだ。


 その戦闘はターン制でコマンドを選択して攻撃や防御などの指示をキャラクターに出すよくあるタイプのやつだ。そして魔法学園物語3をクソゲーたらしめている要素のひとつでもある。


 バトルのパーティーメンバーは主人公を含めて四人。主人公以外は攻略対象三人からメンバーを選んでバトルに挑む。


 だがこのバトルがストレスしかない。パーティーに加えられるキャラクターは攻略対象三人なのだが、彼らとの好感度がある程度高くないと彼らに指示を出すことができず勝手なことばかりする。


 勝手に入手困難なアイテムを消費したり、すぐに自爆特攻しようとしたり、即死魔法が効かない相手に即死魔法を放ったりと余計なことばかりする。テメエ余計なことすんじゃねえ! と攻略対象にヘイトが溜まるほど無茶苦茶なことをするのだ。


 しかもこのバトルパート、敵がかなり強い。雑魚敵でさえ少し油断すると全滅するほどのバランスで、それなのに好感度が低いと指示すら出せず勝手な行動を取るのでレベルを上げるのも一苦労。キャラクターの勝手な行動でゲームオーバーということがザラにある。


 このバトルパートのせいでせっかく好きになった推しが大嫌いになった。なんで攻略する相手にヘイトが溜まるような仕様にしたのか。苦行。とこのRPGバトルパートは不評でしかなく、その後のタイトルでは二度と採用されることはなかった。


 そもそもこのRPGバトルは魔法学園物語3にしかない要素。他は謎解きやクイズやパズルなどターン制バトルは存在しない。


 おそらく何か意図があったのだろうとは思うが、その意図が全く伝わってこないし無駄でしかない。しかもこのバトルパートでキャラクターたちの好感度を稼ぐことは出来ず、正直に言ってあってもなくてもいい要素なのだ。


 しかし、もし今いる世界が魔法学園物語3の世界ならこの世界にはレベルの概念があり、レベルを上げれば強くなれる可能性があるということだ。まあ、そう都合よくいくとは思わないが、とにかくやるしかない。


 かわいい妹を守るため魔物だろうが何だろうがぶっ倒してやろうじゃあないの。


「……いや待て、ゲームの魔物はかなり強かったぞ。おい」


 ……とりあえず戦闘の訓練だけは受けておこう。ちょうどいい相手もできたわけだし。


 そう、ちょうどいい相手ができた。ライネルだ。


 ライネルはアンヌを助けた功績により侯爵家の身の回りを警備する『衛士隊』の一員として雇われることとなった。しかもかなりの実力者のようだ。


 そうライネルは実力者らしい。そんなライネルを私はアンヌの誘拐犯と間違えてボコボコにしてしまった。


 ライネルには油断もあっただろう。だが、私は何の訓練も受けていない。


 さて、ライネルが弱いのか私が強いのか。


 とりあえず試してみることにした。


「ま、参った。参りました」


 ……どうやら私が強いらしい。試しにライネルと木剣で模擬戦をしたら普通に勝ってしまった。その後も衛士たちと戦ってみたが普通に勝ってしまった。


 いったいなぜ? なぜに?


 まあ、いいか。強いなら強いにこしたことはない。


「お姉ちゃんすごい! つよいつよい!」


 アンヌも喜んでいる。ならば何も問題などない。


「お姉ちゃんもっと強くなるね!」

「うん! 頑張ってお姉ちゃん!」


 そう、私は強くならねばならない。アンヌを守るために強くなるのだ。


「……十分強いのでは?」


 というツッコミはナシだ。


 私は強くなる。


 アンヌのお姉ちゃんとして。

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