文化祭開催!<前編>

−−文化祭、前日


入宮の頑張りもあり、空き教室の争奪戦は一通り収まった。結果を発表するタイミングは東山にも根回しをしておいたので今現在、空き教室の占有権をDクラスも含めてどこが獲得したか知らされていない。後は情報を解禁するタイミング。早い時間に公開してしまえば今回のような妨害工作が後から出てくる可能性がある以上、開催前日の朝に結果を発表してもらうしかない。この事は相手クラスも同様。どこが勝ったのかは手応えを感じているし、確信がある。朝、結果を聞いた俺は素早くクラス委員の小野に伝えた。そこからが本番だ。


「三階の4、四階の1.2だ!急いで荷物を運ぶぞ!」


待機していたクラスメイト達は確保していた場所に一気に荷物を運び、装飾を始めた。実際空き教室を賭けた戦いはAクラスが三階の4とCクラスが四階の1。試験はそれぞれ別教室で行ったので、誰がどこを占有したのか分からない。もっとも、空きの教室をいくつも押さえるという図々しい発想自体どこのクラスも思い付かなかったのだが。普通は自分の教室だけで完結させるよな、うん。




「はぁ・・・俺のハーレム計画はどこ行ったんだ?」


二学期に入ってから女子とまともに会話していない。チェス部の佐藤元副部長とは合宿以降接点がないし、生徒会長は親戚だったし、入宮とはテスト勉強しかしていない。図書館にも行ってないから岡田とも話していない。武蔵野学園高校なんてなおさら無理。俺にご褒美はないのか。気が付いたら太陽が登っている。他の奴等は一度帰宅か床に段ボールを敷いて雑魚寝。俺は備品の最終チェックをし、客室に不備がないか確認を行った。ゲームで使用される道具は個人の物をかき集めたので消耗品をのぞけば実質タダ。


涼真りょうまっ」


由佳に冷たい缶コーヒーを頬に当てられた。


「お、サンキュ」


「大丈夫?徹夜だったでしょ。目の下にクマ、できてるよ」


「まぁ俺は裏方だしな。表に出る事はないし問題ないだろ」


由佳も自分のコーヒーのふたを開けて白く染まる空を見上げた。


「こんなの初めてだね。小学校の頃なんかじゃ考えられないよ」


「小学校なら学校に泊まる事自体、親が止めにかかるしな。中学でもそうだったのか?」


「そりゃもう。涼真りょうまの学校は?」


「文化祭自体なかった」


「それはかわいそうに」


「だからここの学園生活は大事にしたいんだ」


「頑張れよ、涼真りょうま


このハーレムライフの中にお前も含まれてるんだけどな。




コンセプトはゲーム喫茶で、コスプレは客の目を引く為、もしくはチェキ映えする為の要素だった。全員が着替え終わって教室に集まったところでちょっとしたトラブルが起きた。制服警官に扮した武田がスク水エプロンの宮本に噛みついている。


「きたねーぞ宮本!自分のスタイルを武器にスク水エプロンだとぉ?!指名が集中するじゃねぇか!」


「こんなのやったもん勝ちよ」


確かにスク水エプロンの破壊力に比べたら警察官の制服なんて印象が薄いが、指名がどっちに集中しようがクラスの売上につながればそれでいい話だ。むしろ警察官なら入口に立っていてくれた方が様になる。学校泊まりでテンションがおかしくなったのか?


「そっちがその気なら俺も脱いでやる」


武田はベルトをゆるめてズボンを下ろし始めた。


「やめろ武田ー!誰得なんだー!」


「そうだぞ非力な少年。脱ぐなら俺の様に筋肉をつけてからだな」


腕相撲で待機しているはずの清水がここに乱入してきた。いや、あなたまで脱がなくて結構なので・・・。


「えっと・・・もとくん、私はどうかな?」


入宮は定番のメイド服に+アルファの猫耳尻尾で出てきた。


「よく見たら動いてるんだな」


「分かった?そう、中に機械が入っていて、仕草に合わせて動くようになってるんだよ」


入宮は照れくさそうに笑った。


さて、俺の服装をどうするかという話だが、裏方仕事だし、制服でいっか。指名が入ってチェキ撮られる事もなさそうだし。




客がまばらに入ってきたのだが、給仕をしている面々も慣れない手つきで飲み物を運んでいる。始まったばかりでは練習の成果が発揮できないか。手が震えている。


「きゃっ」


宮本は思わずエプロンにコーヒーをこぼした。


「も・・・申し訳ございません」


と頭を下げるとトレーがテーブルに当たり、バウンドして額に直撃。


「あたっ!」


この様子を見た男性客は一斉にX(旧Twitter)を開いた。


[ドジっ子キターッ! #新都高校文化祭]


この投稿を見た来客達は一目見ようとDクラスに足を運んできた。




一方で入宮は通常運転で客と話をしている。


「あー、私が魔法使いって信じてないなー」


またあのパターンか。入宮は魔法の杖を出した。


「じゃあ見せてあげる!私の!魔法!」


「入宮やめろー!何が起きるか分からないだろー!」


「ティラミス・コンニャク・ミルフィーユ!」


呪文を唱えると、突風が吹き荒れた。


「え?何?」


「台風じゃないよね?」


割れはしなかったものの、その強風で外の出店でみせが混乱した。窓ガラスはガタガタと強く振動を続けた。


「どうよ」


入宮は鼻息荒くふんぞり返った。


「お姉ちゃんすげぇ〜」


「少しは信じる気になった?」


子供相手にムキにならなくてもいいだろうに。いや、あの性格ならムキになるか。今回ばかりは水を得た魚。いきいきしている。しかし、入宮の魔法はこれだけで収まらず、しばらく強い風が吹き荒れる事となった。


本窪田もとくぼた君、小銭が足りなくなってきた。両替行ってくれない?」


会計を担当していた田中 華音たなか かのんから別の仕事が出てきた。


「分かった。職員室行ってくる」


俺は田中から受け取った金庫を持って職員室の方に向かった。その渡り廊下で意外な人物に子をかけられた。佐野だ。あれからしばらく会ってなかったのだが、なぜこのタイミングで?


「頑張ってるね」


「佐野さん、どうしたの?」


「あなたが文化祭の準備で忙しそうにしてるのを見かけて声をかけたくなったの。体育祭以来、会ってなかったから」


「ごめん、急いでるから」


「ごめんなさい、急に声をかけて。でも、あなたが頑張ってる姿を見たらつい」


その時に未だ吹き荒れていた強風が再び襲い掛かる。


「きゃあっ」


佐野は思わずスカートを手で押さえたが、時すでに遅し。そう、俺は見た。見たんだよ、スカートの下に隠れる白い逆三角形を。白い逆三角形のブリーフ。・・・ん、ブリーフ?


ここへ偶然訪れた小林副会長が状況を理解して間に入ってきた。


「佐野貴様ぁ!オカマの分際で俺の後輩に色気で攻めるとは何たる卑劣!正々堂々と勝負せんかぁ!」


何の勝負だ?


「いやぁねぇ。ニューハーフって言ってよ」


「どっちも同じだ!」


この学校ってニューハーフOKだったの?


「私が見付けたんだから邪魔しないでよ!」


「大体こいつはな、生徒会長の親戚なんだぞ!」


「親戚とか隕石とか関係ないでしょ!」


二人の激しい言葉の応酬は続く。えーっと、俺は職員室に行っていいんだろうか?


今までは女子が現れたら男子がセットで付いてきたが、新しいパターンだな。戻ったらコーヒーでも飲んで気を落ち着かせるか。

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