文化祭開催!<後編>

両替から戻った俺にさらなるイベントが待っていた。


「どうも、本窪田もとくぼた君」


私服ではあるが、武蔵野学園高校の中村が立っていた。


「あぁ、中村さん。いらしてたんですね」


「えぇ、Dクラスのゲームにチェスがあると聞いて興味を持ちましたので。本窪田もとくぼた君と対局できないかと思って来たのですが」


「あぁ・・・それ時間がかかりすぎるんで却下になったんですよね」


「そうなの・・・」


中村はガクリと肩を落とした。まぁチェス盤ならなぜか用意されてるし、対局だけならできない事もないのだが。


「話は聞かせてもらったわよ本窪田もとくぼた君」


ここにさらなる人物が登場。


「佐藤先輩。どうしてここに?」


「私もここにチェスがあるって聞いて来てみたの。本当は本窪田もとくぼた君とやりたかったけど、せっかく中村さんがいらしたんです。私がお相手しなければ面白くないでしょう」


二人からラブコールを受けたのは嬉しいが、どちらとも勝てる気がしない。




二人の対局は目立つように喫茶部屋の中に急遽対戦席を設けて行われる事になった。


「では、新都高校最強の佐藤さんの実力、拝見させていただきます」


「そう言えば私達、初対局でしたね」


女の戦いだろうか。二人共目をそらさずに互いをジッと見つめている。目から火花が出てそうだ。


「さあさあ始まりましたチェス対決!当校チェス部元副部長、佐藤 美咲さとう みさきVS武蔵野学園高校チェス部部長中村 千春なかむら ちはるさんとのデスマッチ!どちらが勝つのか賭けた賭けたぁ!」


急に始まった対局なのに、入宮はまるでこの事態が起きる事を予測していたような口ぶりで賭けを言い始めた。まさか裏で糸を引いていたのではないだろうな。廊下で拡声器を使ってアナウンスしたので注目度はバツグン。これにはチェス好きの客達も大興奮。皆がこぞって集まってきた。


「さて新副部長。この試合どう見ますか?」


「え〜前回の交流試合では中村部長は我が校の鈴木元部長を打ち破っていますからね。しかし佐藤元副部長の実力は鈴木元部長より上と聞いています。この一局、目が離せませんね」


突然解説役を振られたが、ここは合わせるしかないか。


「見どころはどこでしょう?」


「佐藤元副部長は大胆な攻撃を仕掛けるスタイルですが、中村部長が得意とする鉄壁の守りと、どうぶつかるのかが楽しみですね」


試合は佐藤の手番で始まり、彼女はe4のポーンを前進させる。中村も同じくe5で応じた。


e4 e5

Nf3 Nc6

d4 exd4

Nxd4 Nf6

Nc3 Bb4


佐藤は中央の支配を確立しようとするが、中村はナイトを展開し、佐藤のポーンにプレッシャーをかける。中盤に佐藤は大胆にポーンを犠牲にして攻撃的なプレーを選んだ。


Nxe4 Nxe4

Bd3 d5

exd5 Qxd5


両者共に防衛網の構築を完了して安全を確保するが、終盤になると佐藤は完全に不利になり、最後の抵抗を試みるも中村の堅実な防御と攻撃に圧倒された。


Nxc6 Bxc3+

bxc3 Qxc6

O-O O-O

Re1 Bf5

Qf3 Bg6


佐藤は攻撃の手を緩めず、クイーンとルークを積極的に展開するが、中村は堅実な防御を続けた。


Bb2 Rae8

Qc3 Rf7

Rd1 Bc6

h3 Re6

Rd8 Re1+

Qxe1 Bd7


中村は堅実な防御を見せ、佐藤の攻撃を受け流した。


Bb2 Rae8

Qc3 Rf7


佐藤は最後の抵抗を試みるも、中村の堅実な防御と攻撃に圧倒された。


Rd1 Bc6

h3 Re6

Rd8 Re1+

Qxe1 Qxd8


「チェックメイト」


中村の巧みな戦術が功を奏し、見事に佐藤をチェックメイトに追い込んだ。その瞬間、チェス盤がボッと煙を吹いた。


「「きゃっ!」」


「どうこの仕掛け。チェックメイトした瞬間に煙を放つの。本当は爆破したかったんだけど、火薬厳禁でしょ」


仕掛けを作った山田が自慢げに話した。


「バラエティ番組か!!」


何が起きたかあっけにとられていた観客だったが、次第に落ち着きを取り戻して二人に拍手した。


「・・・・・・ふぅ、お見事」


「なかなか骨の折れる対局でしたね。さすがです」


「さあさあ賭けに勝った皆さん!対局した佐藤さんと中村さんとのチェキタイムです!」


「え?」


「え?」


「はあ?」


そんな話、誰も聞いてないぞ。次々と出てくる無茶ぶりに二人共困惑した表情を見せた。


さっきの煙に驚いていたばかりの二人はずっとギクシャクしたポーズで応じていた。


「これで一通り終わったかな?じゃあ佐藤さん、中村さん、ご協力ありがとうございました」


「ちょっと待って」


裏に戻ろうとした入宮の腕を佐藤はつかんだ。


「ここまで利用してくれたのよ。チェキくらい使わせてくれてもいいよね?」


「あ、ええ・・・っと」


俺に助けを求めるような顔をしているが、これは佐藤の言い分が正しい。利用するだけ利用してポイ捨てするのは道理に反する。チェキの無料使用くらいならクラスメイト達も目をつぶってくれるに違いない。なんたって二人の活躍のおかげで集客率がぐんと上がったのだから。


「じゃあ私は本窪田もとくぼた君との2ショットで」


中村は腕を引っ張りながら俺と教壇の上に乗った。


「あ、じゃあ3ショットも一緒に撮りましょうよ」


「賛成〜」


なんで俺との撮影の時だけ自然体でいられるんですかね?そして佐藤さん、胸押し付けすぎです。


本窪田もとくぼた君、次はあなたが相手ですよ。佐藤さんの敵討ち、あなたにできるでしょうか?」


挑発されたのか?呆然とした俺を置いたまま中村は教室を後にした。




そうやってあっという間の三日間が幕を閉じた。皆最後の一踏ん張りとして片付けを行う。その後は教室で打ち上げ。ジュースやウーロン茶で乾杯してお互いの写真を撮り合っていた。俺は壁に寄ってその様子を眺めていた。


「ふぅ、疲れた〜」


今回の中心人物として活躍した入宮が俺の所にやって来た。


「お疲れさん」


「でも私、今回の件で自信ついたかも」


「へぇ」


「皆とうまくやっていけそう」


「今回は入宮メインでやってたからな。皆をよくまとめてくれたよ」


「ううん、私は逆だな。もとくんがいてくれたから、教室の確保も、テストも、運営も上手くいったと思う。影の功労者だよ」


入宮は肩にもたれかかってきた。思わずドキッとする。


「す〜〜」


そのまま眠ってしまった。緊張の糸が切れたらしい。外し忘れた猫耳だけがピクピク動いていた。

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