策謀渦巻く文化祭<3>
文化祭の場所取りについて、希望が他クラスと重なった場合は何らかの方法で決着をつける決まりになっている。何クラス対抗かは伏せているが、英語10門と数学10門。そして対局相手が指名してきたのは揃って
「それで了解したのかよ?!」
「明らかに狙い撃ちじゃない!プレッシャーかけにきたのよ!」
クラス全員の反対に俺は手で大丈夫だ、とジェスチャーしてみせた。
「確かにこれは複数クラスによる妨害工作かもしれない。しかし俺が勉強を教えてからの成績を見てほしい。1学期の中間と期末テストの伸びが明らかに違う。中間テストの成績だって悪くなかったし、出題内容は一度教えた範囲の復習だと考えれば不可能ではない。試験当日までにマンツーマンで叩き込めばいい。向こうは入宮の事を変人としか思っていない。そこに付け入る隙がある」
「変人って何よ」
「それはまぁ分かるとして、
俺はスマホで撮影していたテストの成績結果一覧を開いた。
「1学期の期末テストで赤点を取った奴がいるからピックアップしておいた。誰がどっち、どの部屋の対決かは最初の約束通り教えられない」
「だけど校内で勉強会するのは危険じゃない?向こうに対策がバレたら邪魔されそう」
「そうだな・・・カラオケボックスみたいに閉鎖された場所があればいいんだけど、うるさいしな・・・」
「入宮の家じゃダメなのか?」
「三世帯で暮らしてるんだもん。静かじゃないよ」
誰からも邪魔されない場所、というのは案外難しい。対抗するクラスからの妨害を回避できる場所じゃないと意味がない。やはり誰かの家を使うのがベストか。しかも静かな場所・・・。
「条件を満たした場所ならあるよ」
由佳が手を上げた。
「私の部屋」
「他の奴の部屋じゃダメなのか?」
「今両親が旅行中で私以外誰もいないのよ。戻ってくるのは11月。今なら静かだから集中できると思うんだ」
深夜アニメにありがちな、高校生のくせに一人暮らしみたいな展開か。
「じゃあよろしくお願いします」
勉強はいつも通りマンツーマン。由佳さえ入れないで二人きりで行った。
「この文の構造がわからないんだけど・・・」
「これは関係代名詞が使われる。ここが主語で、こっちが動詞だ」
・
・
・
「今日はこの位にしておこうか」
由佳の家で勉強を教えたのは2〜3時間ほどだったろうか。静かで集中しやすい場所だったので、これなら継続して勉強会ができそうだ。
「
「いいけどなんで?」
「ちょっと疲れちゃった。それに雑談って最近してないし」
言われてみればそうか。夏にプールに行って以降関わりがなかったからな。落ち着ける場所として一番近い俺の家にしたのだろう。由佳の家にいつまでも居座り続けるのも気が引けたみだいだ。じゃあ俺の家はいいのかという別の疑問も出てくるわけだが。
「お兄ちゃんおかえり〜。お姉ちゃん来てるよ」
なんでこのタイミングで東山が家に来てるんだ?いや、由佳はこの事を見越して自分の部屋を選んだのか?
キッチンに入ってみると制服の上からエプロンを着た東山の姿が。まさか空き教室対決の件?それ以前になんでうちのキッチンにいるの?
「そちらは入宮さんね。お会いするのは初めてかしら」
「はっはい。
ガチガチに緊張している。
「そんなに固くならないでいいから。
「ひっひえっ・・・お世話になってるのわ・・・わらひのほおで・・・」
話しかけられて余計緊張感が上がったらしい。本人も対決の話が出るのかとドキドキしている。
「で・・・何の用で?」
「冷たいわね。用事がないと来ちゃダメなわけ?親戚でしょ?」
親戚という関係を受け入れ始めているのか?それともいいように利用している?
「タイミングがタイミングだしな」
「あぁ、空き教室対決の事ね。勉強会を学校外でやってるって聞いたから、ここだと思ってきてみたんだけど」
「それなら隣の幼馴染の所でやってるよ」
「私は接点がないから、お邪魔するのは無理そうね」
「邪魔する気だったの?」
「まさか。中立の立場だし、様子を見るだけだったんだけどね。入宮さん、もう遅いからご飯食べてかない?」
「いいんですか?」
「この家に来たのも何かの縁よ」
お前の家じゃないだろ。
「ではお言葉に甘えて」
夕食は東山と入宮が一緒に食べるという不思議な光景が広がっていた。
「生徒会も文化祭が終わったら任期満了、次の世代に交代するわ」
「次はやっぱり副会長が?」
「いえ、一旦解散して1から立候補しなおしよ」
「じゃあ俺もお役御免かな」
「
「メンツにもよるかな」
「そうね、協調性が大事だからね」
女子が何人いるかが問題だったんだけどな。
「ごちそうさまです」
夕食を食べて、しばらく雑談をしてから入宮は帰る事となった。
「ちゃんと駅まで送るのよ」
「分かってる」
東山も一緒に帰るのかと思いきや、今日は泊まる気だ。着替えもちゃっかり用意していた。
「生徒会長からは
「そうだな。盆に会って以来、そう呼ばれたかな」
「高橋さんも
「いいんじゃないか」
「そ・・・それじゃあ、りょう・・・りょうみゃきゅ・・・」
声が上ずっている。無理に呼ばなくてもいいんだが。
「も・・・もとくん!」
「・・・・・・は?」
「えっと、
「まぁ入宮がいいならそれでいいんじゃないか?」
「えへっ。私だけの呼び方っ。(R)マーク付けとくからね」
「好きにしてくれ」
このやりとりの後、入宮はさらに照れながらも少しだけ嬉しそうな顔をしていた。俺もそんな彼女の姿を見て少しだけ微笑んだ。
−−テスト当日
文化祭の準備が進む中、空き教室を賭けた英語と数学のテストが行われることになった。かぶった教室の使用権をかけて競うこのテストは、重要な決戦の場であった。テストの前、入宮は明らかに緊張していた。普段の彼女とは違い、手足が少し震えているのが分かる。
「い・・・行ってきゅりゅっ」
今まで以上に緊張しているな。
「肩の力を抜いて。いつも通りにやればいいんだ」
「よっよし、いつも通りだね」
入宮はポケットから魔法の杖を出した。
「私の本気を見せてやる!ティラミス・コンニャク・ミルフィーユ!」
詠唱した瞬間、上の蛍光灯が切れた。あ〜本当にいつも通りに戻った。
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