1年2学期

カオスな体育祭<前編>

−−2学期


一年を通して一番忙しい学期になる。


通常のテストに加え、体育祭や学園祭に時間を奪われるのだ。まぁ秋だからスポーツの秋である事に変わりはないが、学園祭は芸術の秋という扱いでいいのだろうか?いずれにせよ勉強会を開く時間がなかなか取れなくなるのは入宮や隣席四天王にとっては都合が悪いだろう。




−−体育祭の為の会議


開催の告知からAクラスとCクラスは白組、BクラスとDクラスは赤組に決定した。内容によってクラス別、1〜3年別の競技があるらしい。当然出場競技の話が出てくる。皆できる事できない事が重なって中身が白熱している。


「私は大縄跳びに出たいな。皆で協力するのが楽しいし」


と、石井 麻衣いしい まいが言う。


「俺は玉転がしが得意だから、それに出たいな」


と、もう一人が手を挙げる。


分かる範囲内で立候補しておけば、後は能力がある者をチョイスして採用とする。出たかった競技もあれば、出ざるを得ない競技もある。話し合いの結果、それぞれの得意分野が活かされる形で出場競技が決まっていった。


1年が参加できる競技も指定されていて、玉転がしや大縄跳び。パン食い競争と、中学でもやった競技がある程度混ざっている。分かる範囲内で立候補しておけば、後は能力がある者をチョイスして採用とする。出たかった競技もあれば、出ざるを得ない競技もある。また、Bクラスとの連携も必要だ。


「Bクラスと協議する時間も取りたいな」


「そこは俺と学級委員の小野、女子からもう一人出したいな。放課後に一度向こうと会ってみないか?話し合いだけでも先に進めておく必要はあるだろ」


「そうだな。半々で競技できるものもあれば、精鋭で望んだ方がいいものもあるだろうし」


俺達Dクラスと協力関係となるBクラスとの協議は何度も行われ、希望者が多い競技は能力査定を行ってベストの人員配置で当日を迎える事になった。




−−体育祭、当日


体育祭の朝、グラウンドの周囲には保護者達のカラフルなパラソルが立ち並び、各クラスの応援旗が風になびいている。生徒達はチームカラーのハチマキを身につけ、開会式の準備を進めていた。


各クラスの代表がそれぞれの組の旗を持って行進し、運動場を一周する。クラスメイト達は旗の後ろに続く。


全校生徒がグラウンドに集合して整列が完了した。


まずは校長の挨拶。校長先生はマイクを手に取り、生徒達に向かって話し始めた。熱中症になるから手短にと教師陣から要望が出ていたらしい。完結な一言で終わった。


「皆さん、おはようございます。今年も体育祭がやってきました。今日は、皆さんのスポーツマンシップとチームワークを発揮する素晴らしい一日になることを期待しています。全力を尽くして、ケガのないように楽しんでください。」


続いて東山生徒会長が選手宣誓を上げる。


「選手宣誓。私達選手一同は、本日の体育祭において、スポーツマンシップに則り、正々堂々と競技に臨むことを誓います。また、仲間と協力し、最後まで全力を尽くす事を誓います」


最後に、全校生徒でのラジオ体操が始まる。音楽に合わせて、全員が一斉に体操を行い、身体をほぐす。体操が終わると、生徒達はいよいよ競技の開始を待ち望む。


俺が出場する最初の種目は借り物競争。ランダムに引いたくじで周りにいる人達から何かを借りてくる、というのが一般的なルールだが、近年は対象が人になっている事も多い。


俺は引いた内容を見てやっぱりねと納得して、ある人物を探した。恐らくアナウンスをやってるテントか、運営の管理状況を確認する為にスタンドにいるか。その人物は読み通り、アナウンスのテントで競技を見ていた。


「いたいた。東山さん、来てください!」


「何よ一体?」


「借り物競争です。東山さんが頼りなんです!」


「そういう事なら同じ赤組だし付き合うわよ」


俺は東山の手を引っ張ってゴールの審査員の所まで走った。俺達は無事一位でゴールし、クラスメイト達に迎えられた。


「ところで紙になんて書かれていたの?親戚とか?」


息を切らした東山はどんなネタだったのか気になるらしい。俺は紙を見せた。



ーー巨乳ーー



「・・・なんで私なの?」


「パッと思い付いたのが東山さんだったし、俺なら許してくれそうだったので・・・」


と答えると、彼女は一瞬固まった。


「イラッとする内容ね。涼真りょうま君も涼真りょうま君よ。私の事、そんな目で見てたの?」


「いや、そういう訳では・・・」


ゴールポストの前で俺と東山の問答はしばらく続いた。こういうハプニングも共学ならではのできごとなのだろうか。ある意味新鮮に感じた。




−−体育祭、昼食


午前中の競技が終わり、各々が生徒同士、または家族同士での昼食が始まり、グラウンドの観客席や教室で弁当を広げている。賑やかな声があちこちから聞こえてきて、和やかな雰囲気が漂っている。うちも千尋と一緒に両親が応援に来ている、はずだったが何か様子がおかしい。親戚まで駆けつけている。と言う事は・・・、っと後ろを振り向くと東山も同じ場所に立っていた。


「同じ学校だし、親戚ぐるみで応援に来ようと思ってたのよ〜。奈々美ちゃん3年生だから今年しかないと思って〜」


お互いどこかギクシャクした面持ちで家族の前に座った。普段の学校生活での微妙な距離感が、そのまま一族の昼食の席にも持ち越されているようだった。仕方なく二人で肩を並べて座る。同級生が"やっぱりそうなんだ"と納得した顔で通り去っていく。


「奈々美お姉ちゃん、お皿配って〜」


気が利く妹をアピールしたいのか俺達の仲をどうこうしたいのか、千尋は満面の笑みで皿と箸を配った。千尋は何のためらいもなく"お姉ちゃん"と呼んだが、それを俺が言った瞬間、この場で本窪田家もとくぼたけは消滅する。


親戚達も楽しそうに話しながら弁当を広げているが、二人の間には微妙な空気が流れている。お互いに気を使って話しかけ合う様子が、周囲の賑やかさとは対照的だった。


「そういえばお兄ちゃん、お姉ちゃん連れて走ってたね。借り物競争だっけ。お姉ちゃんから何を借りたの?」


千尋に聞かれた瞬間、俺達はおにぎりを喉に詰まらせた。まさか借り物競争で巨乳の人を連れていきました、と言えるはずがない。どっちが話してもきまずい。


昼食が終わると、再び午後の競技に向けて準備が始まる。親戚達や家族達からの応援を胸に、俺達は再びグラウンドに戻った。

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