戦いの後

−−自宅


「お兄さん、ちーっす」


家に帰ると妹である千尋ちひろの友人達が遊びに来ていた。彼女達は以前からよく家に来ていたので特に気になる事もなく普通の日常の一部だったが、ふとある事に気づいた。家の中に女子しかいない、これってハーレムじゃないのか?リビングでは妹の友人達が楽しそうに話している声が響いているし、俺もその中に混ざる時がある。夢見ていたハーレムライフがここで実現できるのかもしれないという期待が胸にわいていた。


「お兄さん、対戦しよーっ」


千尋ちひろの同級生の一人が俺にコントローラーを渡した。


「よぉし、かかってきなさい」


と俺は笑顔で応えた。ゲームをしながら彼女達との距離が自然と縮まっていくのを感じた。しかし時間とは残酷な物で、楽しい時間ほど経つのが早いが、向こうも期末テスト前。勉強がある以上、引き止めるわけにもいかない。


「私達はこれで。お兄さんもまたね〜」


「おう、またな〜」


俺はふと思い付いた。このハーレムを発展させる計画を。


「テストが終わったらさ、もっと友達連れてこいよ。大勢でいた方が盛り上がるだろ?」


「そうだね。でもクラス全員は無理だよ」


千尋ちひろが笑いながら答えた。


「そこまでしろとは言ってない」


「じゃあ期末テストが終わったら考えておくよ」


うむ、よく考えてくれたまえ。兄が何を望んでいるのかを。




−−期末テスト後


四天王の面々が全員赤点を回避できたのは驚くべき快挙だった。ちょっと勉強会を開いただけでこれだけの成果を出せるなら上々ではないだろうか。これには担任の永田先生も驚いていた。


「いやぁ〜君達凄いね。勉強会開くだけのことはあるわぁ〜」


朝のホームルームは労いの言葉で始まった。付け焼き刃とは言え、四天王の平均点が上がったのは確か。これはまさに勉強会あっての成果に違いない。元々ポテンシャルがあったのだろうか。


試験が終わった後のお疲れ会は幼馴染の由佳を巻き込んだ皆でゲーセンに入った。


ネオンがまぶしい店内には、最新のアーケードゲームやクレーンゲームが並び、学生達で賑わっていた。藤田達はレースゲームの対戦でさっさと別行動を取ったが、入宮は俺の側から離れようとしない。それもそうか、元々入宮から頼まれて勉強会をしていたが、急に人が集まりすぎて、普段から誰とも話さない彼女が押しのけられてる感じがしていた。それは岡田も同じようで、あまり積極的に前に出てこない為に彼女も側から離れようとしない。しかしこれはこれで良い。ハーレムを感じる。


本窪田もとくぼた君、あれ取って」


入宮が指差す先にはクレーンゲームが。しかも景品は長い箱に収められている30cmほどの棒。説明を読むと魔法の杖らしく、魔族と対等に渡り合える聖なる刻印が施されている、らしい。ハリー・ポッターに出てくる杖が近いだろうか。なるほど、確かに自称魔法使いなら手にしてもおかしくはない。


「こんな時に魔法を使えばいいのに」


「筐体壊したら意味ないでしょ。戦わなきゃ現実と!」


「君は何と戦ってるんだ?」


入宮は俺の質問には答えず、財布から小銭を取り出して俺に手渡してきた。


「これでやってみて。本窪田もとくぼた君ならできるよ!」


その根拠のない自信はどこから湧いて出るんだ?いや、それ以前になんで自分で取らないんだ?


半ば呆れつつも、俺は100円をクレーンゲームに投入した。操作レバーを握り、クレーンを動かしていく。クレーンが景品の杖の上に到達すると、俺は息を止めてボタンを押した。息を止める必要はないのだが。


クレーンが下降し、箱をつかんだが、持ち上げた瞬間に少し揺れて落ちてしまった。おしいな。


「もっかい、もっかいやって!」


始めは入宮が持っていた小銭を使っていたが、気が付いたら自分の金を投入している!実際に景品をGETするまでいくらかかるのだろうか。かれこれ1,000円くらいは入れてるんじゃないのか?俺は半ば呆れつつも、俺は100円を投入した。操作レバーを握り、慎重にクレーンを動かしていく。クレーンが景品の杖の上に到達すると、俺は息を止めてボタンを押した。


クレーンが下降し、杖が入った箱ををつかんだが、持ち上げた瞬間に少し揺れて落ちてしまった。


「う〜む、思ったより難易度高いな」


気が付いたら2,000円超えている。これで取れなかったら金をドブに捨てるようなものだ。ここまで来たら引き返せない。ギャンブル依存症も似たようなものなのだろうか。岡田も岡田でこの行く末を固唾を飲んで待ち構えている。


つかむアームの強さと重心が分かってきたので正面、側面と筐体を見つめながら慎重にアームを操作していく。それを何度行っただろうか。ボトンという音と共に下から景品が落ちてきた。


「やっと!本窪田もとくぼた君!さすが凄い!」


言葉の意味はよく分からないが、喜んでいるらしい。


「それはなにより・・・」


完全に散財だな。クレーンゲームの景品にせずに定価で販売すればいいものを、と言うのは野暮だろうか。


「カラオケ行く人〜」


一度落ち着いたあたりで藤田が次はカラオケだと言い出した。周りも異論はなさそうで、そのままカラオケに流れていった。

カラオケで思い切り声を上げたあとはファミレスで晩メシ食ったりとそれなりに楽しめた。由佳と森田の絶え間なく出てくる女子トークのおかげで会話には事欠かない。入宮と岡田も心を開いたのか、話に乗ってきている。女子と遊ぶのってこんなに楽しいものなのか。中学に入る前に気付いていればどれほどよかった事か、くそっ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る