リベンジ

−−昼休み


部活棟の最上階である三階に生徒会室はあった。チェス部がある二階までは来た事があるが、階段を登っただけで他の階とは違う、異様な空気をピリッと感じた。


「失礼します。東山先輩に誘われて来た本窪田もとくぼたです」


生徒会室の中には東山ともう一人、ガタイがいい男子が座っていた。


「来てくれてありがとう本窪田もとくぼた君。こっちは副会長の・・・」


「副会長の小林だ」


確か入学式の時に体育館のすみで胸が大きな(他に覚えている事はないのか)生徒会長の隣に座っていたな。


「私は職員室に用があるから、細かい事は彼に聞いといて。じゃあ小林君、あとは任せたわ」


え?あなたが面倒見るんじゃないの?副会長に丸投げ?


「よし、それじゃあ本窪田もとくぼた、早速だが始めようか。書紀の仕事は会議の議事録を取るのがメインだ。あそこの本棚に議事録のファイルが入っている。あれに書いていくんだ」


「議事録って話を聞きながら書くんですよね。書くスピードが追いつかないんですけど」


「最近はスマホで録音したものから文字起こしをするんだ」


「であれば録音ファイルを管理した方がいいのでは?」


「そうはならないのが学生生活だな。この年齢で楽をしていると将来実社会に出た時に苦労をする」


すごく達観した物言いをするな。


「生徒会って学校の規則とか学校の予算管理とかするんでしょ?できますかね・・・」


この質問をすると小林は大声で笑った。


「生徒会といっても部活の予算のアンケートを取ったり体育祭、文化祭の事前打ち合わせのような仕事はやるが、実権を握っているのは教師陣だ。それほど影響力はない」


「ですよね〜」


よく考えたらこの狭い部屋で男同士。浮かれて来た事を後悔している。東山が戻ってくる事を期待したが、そのまま昼休みは終了、副会長と部屋を出るハメになった。




−−ショッピンモール、ココナッツベイ


たまには男同士で放課後を過ごすのもありだろう、と俺は藤田達と一緒にショッピングモールに入った。赤点追試組のテストも無事終わった事だし。このショッピングモールは様々な学校の生徒が入り乱れる場所でもある。吹き抜けの通路から下を見るだけでも様々な色の制服が無秩序に集合と離散を繰り返す。


藤田達と一緒に歩いてみると、藤田と武田はお目当ての店があったらしく、プラモ屋まで来ていた。


「今日カラドボルグMK-Ⅲの発売日じゃね?」


「マジか。今日を逃したら買えなくなるぞ。再販も期待できないし。本窪田もとくぼた、ちょっと待っててくれ」


プラモに全く興味がない俺にとっては彼等が何を言ってるのか分からない。藤田と武田はプラモ屋の中に入っていったが俺は一人、カフェラテを注文して通路のベンチに座った。


周りを見渡すと、たくさんの人々が行き交っている。制服を着た生徒達も多く、友達同士で笑い合いながらショッピングを楽しんでいる様子が目に入った。こんなに人が多いと、いろんな人間模様が見られて面白いな。俺はそんな事を考えながらカフェラテを一口飲む。


ふと、向こうから見た事のある制服姿の女子達が歩いてきた。あの制服は武蔵野学園高校か?向こうも俺を見付けるなり驚いた表情を見せた。


「こんな所で会うなんて奇遇ね」


「確か・・・中村さんでしたっけ?」


以前うちの学校でチェスの交流試合をやった時の部長だ。


「覚えていてくれてありがとう。最近生徒会に入ったんだっけ?」


なんでこの人が生徒会の情報持ってるの?


「ところで、今日は何か用があって来たの?」


「今日は友達とショッピングに来たんです。でも、みんなプラモに夢中で、俺はここで待ってるところです」


「そうなんだ。私達も買い物してたの。偶然会えて良かったわ。あ、紹介するね。この2人は・・・」


「山口です」


「同じクラスの伊藤です」


相手が名乗ったのでこちらも返す。


本窪田もとくぼたです」


「珍しい苗字ですね」


「よく言われます」


中学時代に体験できなかった新鮮さ。こんな他愛のない会話でも心が踊るから不思議だ。


「チェスの方はどう?確か体験入部だったけど」


「実は、まだ続けるかどうか決めていないんです」


中間テストの一件といい生徒会の話といい、時間が取れなかったのは事実。


「そうだ、近くにチェスができる喫茶店知ってるんだけど、よかったら行かない?」


女子から誘われたのは人生で初めてではないだろか。このチャンス、逃す訳にはいかない。


「じゃあ友達に断り入れてくるんで待っててください」


慌てて藤田の所へ行こうとしたが、それを中村に止められた。


「お友達と一緒でもいいじゃない。こっちも一人じゃないし」


あんな奴等を連れて行ってはチェスどころではないし、第一ハーレムが成立しない。断固拒否だ。そのつもりで断りに行こうとしていたのだが。


「中村さんじゃないですか」


ここにチェス部部長の鈴木もやってきた。え?部活サボったの?


「鈴木さん。先日はどうも」


本窪田もとくぼたも一緒か。何の話をしてたんだ?」


それを聞いてどうするつもりだ?


「私達これからチェスができる喫茶店に行こうとしてたんですよ」


「ご一緒してもよろしいでしょうか?前回のリベンジもしたい事ですし」


藤田達に断りを入れる以前の問題だ。今度はこいつが付いてくるのか。これこそ引きはがすのは困難だ。


「対局をしたいところですが、先に本窪田もとくぼた君との約束がありますので」


ナイスフォロー!分かってるじゃないか中村さん!


「では私は本窪田もとくぼたのサポートをさせていただきます。彼の腕では勝負になりませんし」


違う、俺が求めているのはそういう事じゃない。


「それでは部長同士の戦いになるじゃないですか」


頑張れ、中村さん頑張れ!


「であれば俺は横で見ているだけにしますよ」


こいつまだ付いて来る気なのか、泣くぞ。


「それであれば。本窪田もとくぼた君のお友達も呼ばないとですね」


あ〜、肝心なの忘れてた。どうすんだこれ。落とし所が分からないぞ。

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