誘惑

−−図書館


図書館での勉強会は静かに進んでいた。入宮は問題集を解きながら、俺に質問を投げかけてくる。


本窪田もとくぼた君、この問題の解き方が分からないんだけど」


「ここはこうやって解くんだ」


「あ、うん・・・分かった」


勉強会はなんとか進んでいった。入宮のペースに合わせて、俺もできるだけ分かりやすく教えるよう心がけている。彼女の理解度が少しずつ上がっていくのを見ると、教えがいがあるというものだ。俺って教師にむいてるんじゃないだろうか。


「今日はここまでにしようか。お疲れ様」


「ありがとう本窪田もとくぼた君。おかげで少しはできるようになった気がする」


「この勉強会、一回じゃ終わらないぞ。中間テストまであまり時間がないし」


「そんなぁ〜」


そして、このぎこちない会話が、やがてもっと自然なものになることを期待していた。もちろん、ハーレムライフの為に。





−−数日後、放課後の教室


入宮はこちらに目配せして先に教室を出ていった。それを見逃す藤田達ではない。


「お前最近入宮と仲が良いじゃねぇか」


「そんな事はない。勉強を教えろって言われてるだけだ」


「それが仲がいいって言うんだよ」


「そうなのか?」


確かに勉強とは言え放課後に毎回話をしているのは事実。無関係と言い切る訳にもいかないか。


「あいつってさ、残念なとこあるじゃん。だから誰からも相手にされないんだよな」


「向こうは魔法使いだから皆が避けてるって言ってたぞ」


「それが残念って言うんだよ。冷静に考えてみろよ。本当に魔法使いなんかいると思うか?」


「確かに」


井上の言葉に納得しつつも、俺は入宮の事を思い出していた。彼女は独特の雰囲気を持っているが、それが面白いと思った。面白枠という扱いではない。




−−図書館


図書館に入ってみると、いつもの席で入宮はすでに教科書を広げていた。頬杖をついて窓の外を見ている様子にわずかながら寂しさを感じた。


「おまたせ、始めようか」


声をかけると入宮はパッと明るい笑顔を見せた。さっき受けた印象は何だったのだろう?


「じゃあ今日の復習から始めるぞ。教科書の・・・」


俺達が毎日勉強会を開いているのが気になってのか、岡田もやって来た。


「私も中間テスト頑張りたいから、よかったら混ぜてくれませんか?」


俺はかまわないが、入宮がどう思うのかが気になる。


「うん、私は他人を蹴落としてまで順位を上げるつもりはないからさ。岡田さんも一緒に頑張ろう」


「はいっ」


元気いっぱいの声を出して岡田は準備室に置いているバッグを持ってやって来た。女子二人に囲まれて勉強を教える。これだよ、求めていたハーレムは。これでようやく一歩進める。


「一人じゃ大変だろう。岡田の方は俺が教えてやる」


図書委員の仕事も手が空いたのか、田中までやって来た。


「では私は田中さんに教えてもらう事にしますね、本窪田もとくぼた君」


俺のハーレムは数秒で崩壊した。なに余計な事してくれてんだ。




−−数日後


中間テストが終わり、俺達は一時の安息を得る事ができた。それでも入宮は自信がないのか、オロオロしている。成績表が映し出された画面が廊下のデジタル掲示板で発表され、喜ぶ者と阿鼻叫喚の者とで二極化している。


俺の席の四方を取り囲んでいる四天王、

藤田 達也ふじた たつや

井上 博之いのうえ ひろゆき

市川 徹いちかわ とおる

武田 大輔たけだ だいすけ


の四人は赤点、追試決定。浮かない顔して教室に戻ってきた。掲示板が空いた頃を狙って入宮と一緒に結果を見に行った。入宮の平均点は・・・。


「平均63点か。まあまあ頑張った方じゃないか?」


「うん、そうだね。本窪田もとくぼた君のおかげだね。で、その本窪田もとくぼた君は・・・っと」


下から探しているようだが甘い。俺の成績はベスト3に入っている。


「ふえ〜本窪田もとくぼた君ってやっぱり凄いんだね」


廊下でそんな話をしていると、廊下の向こうから一人の女子がやって来た。誰だろう、この学年の人ではない。


「あなたが1年Dクラスの本窪田もとくぼた君ね」


「えっと、どちら様ですか?」


「私は生徒会長の東山よ」


生徒会長の名前が出た瞬間、それまで騒がしかった廊下が一気に静寂に包まれた。東山、そう言えば入学式の時に生徒会長のあいさつで見た事あったな。女子の生徒会長。あの巨乳は一度見たら忘れない。今まで忘れてたけど。


「俺の事知ってるんですか?」


「3年の間じゃあなたの噂がチラホラ出てるわ。何をしたのか知らないけど、評判は悪くないみたいね」


「そ・・・そうなんですか?」


誰だ俺の噂話をした奴は?心当たりが多くて困惑するぞ。


「用というのは他でもない。あなた、生徒会に入らない?書紀のポストが空いてるのよ」


「1年の俺がですか?」


「そう、1年生から一人入れようと思ってたのよ。あなたがそれにふさわしい人だと判断したわ。考えておいてくれないかしら」


生徒会長という高嶺の花にお近づきできる、またとないチャンスだ。断る理由がない。


「ぜひ、やらせてください」


考えるどころか二つ返事で引き受けた。


「引き受けてくれるのね。じゃあお昼休みに生徒会室に来て。簡単な説明をするから」


「わかりました。お昼休みにうかがいます」


東山は満足そうに微笑み、その場を後にした。廊下に残された俺は興奮と緊張が入り混じった気持ちで生徒会室に向かう事を決意した。その騒動を聞きつけて由佳まで廊下に出てきた。


涼真りょうま生徒会に入るの?」


近くで聞いていた入宮と由佳が驚くやら何やらで俺の方を見る。


「まぁいいんじゃない。頼られてるって事だろ」


「どうせ相手が女の先輩だったからとかでしょ」


由佳の分析は正しい。伊達に幼馴染をやっていないな。

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