体験入部<後編>
−−夜
由佳から電話がかかってきた。LINEですませればいいものを。どうやら部活の話をしたいみたいだ。
『へえ〜、
「まだ体験入部だし、いつでも抜けてもいいって言われてるから。そっちはどうするんだ?」
『ん〜、どうせなら友達と一緒のところに入りたいけど、帰宅部かなぁ』
そうか、部活をやっていたら自由時間がなくなるのか。それは盲点だった。まぁ体験入部だからいつ去っても文句は言われないだろう。先々の事を考えたら帰宅部の方が女子と遊ぶ機会が増えそうだしな。
しばらくチェス部とは距離を置こうと思ったのだが、毎日の様に鈴木部長が教室前でスタンバっていて、連行されているような気分で部活棟に向かう。いつでも抜けていいのではなかったのか。
そうして交流試合の日が訪れた。前日のうちに空いている教室を使って試合会場のセッティングをすませている。
−−翌日
体験入部も五日目を迎えた土曜の事だった。
「制服着てるけど、お兄ちゃん今日も学校なの?」
パジャマのまま起きてきた妹の
「今日部活の交流試合があってさ、学校でやる事になったんだよ」
「へえ〜、頑張ってね」
「体験入部だから出番はないと思うけどな」
相手は武蔵野学園高校。この辺りでは特に部活動に積極的な学校らしい。
「私は武蔵野学園高校チェス部の部長をしている
向こうの部長は礼儀正しい人らしい。ペコリと会釈した。別にこっちの部長が礼儀知らずと言ってる訳ではない。
「部長の
あいさつも軽めにして鈴木部長は早速教室へと案内した。
体験入部の俺に出番はないだろう。普通そういう奴は試合に出さないよな。見学って事で遠くで見守っていよう。と思っていたら佐藤副部長が俺の所にやって来た。
「
「は?」
突然の実戦投入。
「え?体験入部の俺も出るんですか?」
「そだよ。体験だし」
いやいやいや、無理だろ。惨敗する未来しか見えないぞ。
「大丈夫だよ。相手も1年だし」
あ、いや待てよ。この対局で勝利を収めれば部内だけでなく、部の外にまで注目は集まるはず。ついでに向こうの学校とのパイプも作れる。パイプが作れるという事は武蔵野学園の女子ともお近づきになれる。一石二鳥じゃないか。相手は同じ一年生。やれない事はない。ちょっと頑張ろうか。
前日の間に並べられておいた盤面に対戦相手が決まった両者が座り、学年別の対戦が始まった。
「
「
「「よろしくお願いいたします」」
対局が進むにつれ、俺は鈴木部長と対局していた時を思い出しながら駒を進めていった。高橋もまた、真剣な表情で俺の手を読み取ろうとする。
ここでビショップをd5に動かしてポーンを取る。俺は心の中で次の一手を考えながら高橋の次の手を待った。
「なるほど、なかなかいい手だ。しかしこれでどうだ?」
高橋が自信満々に駒を動かした。やっぱり簡単にはいかないな。俺は二、三手先を読んで、徐々に高橋を追い詰めていった。高橋もまた、意地を見せて最後まで粘り強く対抗した。だがそろそろ終わりにさせてもらう。いいとこ見せたいし、男の相手なんかいつまでもやってられない。
「チェックメイト」
この言葉が出た瞬間、教室にいる全員がこちらの方を向いた。
「・・・・・・まいりました」
どうやら対局で一番早く終わったのは俺達だったらしい。対局が終わって席を立つと、向こうの中村部長はちょうど俺達の対局を見ていたらしく、すぐに声をかけに来た。
「
これまで鈴木部長に連行されながら練習してたからな。
「偶然ですよ」
他の部員達の対局も終わり、最後は部長、副部長の対戦。誰もが息を飲んで行方を見守る。二人の対局は激し攻防を繰り広げた。
結果、部長戦は向こうの勝ち。副部長戦はこちらが勝った。
「実りのある一日でした。次はぜひ我が校にいらしてください」
「次の交流試合の際にはお邪魔させていただきます」
向こうもそれなりの収穫はあったらしい。特に落ち込む様子もなかった。
「今日のMVPは
「え、いや、それは・・・」
「いえ、胸を張っていいと思いますよ」
佐藤副部長と中村部長の両方から認められて素直に嬉しい。だって両方
「1回勝ったからといって油断するな。常勝無敗を目指せ」
浮かれるなと言わんばかりの鈴木部長の一言。
最後は全員で校門まで見送った。
「ではこちらで失礼します。
「はっはい。今日はありがとうございました」
武蔵野学園高校の部員達は駅に向かって歩いていった。
「じゃあ皆、あと一踏ん張り。後片付けしてお疲れ会やろう」
緊張の糸が切れたのか、この日一番の歓声が上がった。
「
「楽しかったです」
「そっかそっか。興味を持ってくれて嬉しいよ」
「
さっきからなんなんだこの人は。佐藤副部長と話をしようとするたびに割り込みに来る。あと俺はまだ体験入部者だ。勝手に部員にカウントするな。ハーレムライフ最大の邪魔者だな。
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