体験入部<前編>
−−昼休み
入学式の翌日から部活の勧誘合戦が始まった。校門入ってすぐのデジタル掲示板に各部の勧誘画像が次々と映し出されている。昼休みになると入部希望画面が表示されたタブレットを持った部員達が校舎、運動場と場所を選ばずデモンストレーションを行っていた。どこかの部活に入っていれば、その中でおのずと女子との関わりは出てくるだろう。どこかに入部するのは必須とみた。
入るとしたらどこがいいだろうか。
例えばサッカー部。ボールを蹴りながらチームプレイでゴールを狙う。そのさわやかさが女子にモテるかもしれない。
例えば料理部。料理ができる男をアピールすれば女子にモテるかもしれない。
例えばチェス部。盤面上での駆け引き。知的なイメージで女子にモテるかもしれない。
ただし、どれもやった事はないのだが。
決めるまでは見学自由なので、適当なところを回ってみるか。藤田達と昼を食べたのだが、全員帰宅部志望だったので、仕方なく一人で回ってみた。
俺は各部の勧誘ブースを見ながら、どの部に入るべきかを考えていた。どれも魅力的に見えるが、自分の目標であるハーレムライフに一歩でも近づくためには、慎重に選ぶ必要がある。
気になっていた部を見て回っていると、サッカー部のブースでは、部員達がリフティングを見せていた。そのさわやかな雰囲気に確かに女子が引き寄せられている様子が伺える。
音楽部のブースでは、ギターやトロンボーンの生演奏に女子生徒達が足を止めて聴き入っていた。音楽の力はやはり強い。
チェス部のブースでは、体験試合をしているようで、部員からアドバイスをもらいながら駒を動かしている。これなら頭脳派なイメージも女子にウケそうだ。とりあえずその様子を眺めていた。
「お、新入生?」
「はい。まだどこの部にするか考えてないんですが」
「試しに対局やってみなよ。私がサポートするから。あ、私は副部長の
空いている盤面に誘導されてその前に座った。
「君、チェスのルール知ってる?」
「いえ、将棋なら少々」
「なら大丈夫だよ。大体同じだから」
その大体が分からないから見学してたんだがな。
「まずは基本の動きから教えるね。この駒はキング、将棋の王将と動きは同じ。これはクイーンと言って飛車と角、二つの要素を持っている、それから・・・」
佐藤副部長の丁寧な説明に耳を傾けながら、俺は少しずつチェスの基本を理解していった。確かに将棋と似ている部分も多く、駒の動かし方は意外とスムーズに進んでいった。
「動きはこんな感じかな。じゃあ早速始めてみよう。相手を・・・新入生はいないか。部長、頼める?」
「俺でよければ」
反対側には部長の鈴木が座った。メガネをかけいて、いかにも知的で優等生らしい顔つきをしている。
「部長の鈴木だ。副部長が一緒ならまず負ける事はないだろう」
え?副部長の方が実力は上なの?どういうルールで部長・副部長に決まったんだか。
かくして俺+副部長vs部長の対局が始まった。
「ビショップをd5に動かして」
「こっこうですか?」
駒を移動する時の呼び方はあるのだろうが、専門用語を知らないだけに佐藤副部長は後ろからアドバイスを入れてくれるのだが、その距離が近い。両肩に手を乗せて耳元でささやくようにアドバイスしてくる。背中には胸の感触が。さらに女子特有のいい匂いまでただよっている。嬉しいのだが、そっちに気を取られて盤面に集中できない。そうしているうちに昼休み終了のチャイムが鳴った。
「今日はここまでにしようか。どうだった?」
「結構頭使いますね。けど面白かったです」
「そう言ってもらえると教えたかいがあったかな。体験入部して続けてみない?チェスは奥が深いから、きっと楽しめると思うよ」
「考えておきます。ではまた」
佐藤副部長達と別れたあと、制服のジャケットに鼻を近づけてみた。まだ佐藤副部長の匂いが残っている。胸の感触は言うまでもない。これは当たりを引いたか?内心喜びを感じながらこれからの高校生活にますます期待が膨らんだ。今この瞬間、自分の求めるハーレムライフに近づく第一歩になるかもしれないという感じがした。
−−チェス部、部室
全ての部は部活棟にまとめて入っているらしい。一回は体育系、二階が文化系。その上は生徒会室だ。部室に入ってみると佐藤副部長の姿はなく、代わりに部長の鈴木部長が座っていた。
「あれ?佐藤先輩はいらっしゃらないんですか?」
「副部長なら今度の交流試合の打ち合わせをしに職員室で先生と詳細をつめている。その間、俺がお前の相手をしよう」
鈴木部長はそう言いながら盤上に駒を並べていく。近々交流試合があるというのも初めて聞いた。
「
「えっと・・・駒の進める方向が少し違うとかですか?」
「違うな」
鈴木部長は指でメガネをくいっと上に上げた。
「将棋は相手の駒を取ったら自分の駒として使う事ができる。つまり、捕えた敵の兵士を自軍で活用できる。対してチェスにはそれがない。相手を殺したらそこまでで、復活する事がない」
「なるほど、確かに」
そう言いながら盤面に駒を並べ終えた。よく見ると鈴木部長の方の駒が少ない。ビショップとルークの姿がないのだ。
「飛車、角抜きだ」
それでも勝てる自信があるのだろう。事実、この日三回対局したが一度も勝てなかった。これを上回る実力を佐藤副部長は持っているのか。
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