入学式

さて、ハーレムライフと考えたものの、具体的なイメージはない。参考になる物と言えばラノベ、深夜アニメ、ギャルゲーあたりだろうか。ああ言う展開を繰り広げていれば、充実した高校生活をおくれるはずだ。ここの認識は合ってるよな。




−−新都高等学校


由佳とこれから始まる学校生活について雑談しながら学校へと向かう。今日は入学式。新たな門出にふさわしいイベントだ。そして幼馴染と並んで登校する。桜の花も満開で、優しい風になびくように花びらを泳がせ、これからの三年間に期待を抱かせる。


「ん?涼真りょうま何かつけた?いい匂いするんだけど」


「気付いた?」


「分かるよ。バレたら大変じゃない?」


「大丈夫だよ。少しだけだし、入学式って言う特別な日だからさ」


「でも、学校によってはそう言うの厳しいから気をつけてね」


由佳は心配そうに見つめたが、俺は軽く笑って答えた。


と、気にせずに歩いていると、校門にいかつい顔の男達が二、三人立って新入生に声をかけている。中には女子もいるが、ガタイもよく、たくましい両腕がジャケットのそでをパンパンに膨らませているのに目がいった。


「あれって生徒会じゃないよね?風紀委員?」


「確かに。ネクタイとかリボンを注意してるもんな」


「あ〜、涼真りょうまのコロンは見逃さないよね〜。ご愁傷様」


俺は彼等に気付かれないようにソロっと校門を通った。


「貴様、ちょっと待て」


校門に立つ風紀委員の一人に声を掛けられた。やっぱりコロンをつけたのがマズかったか?と、思っていたら風紀委員は何やら俺の肩から上腕にかけて触り始めた。


「いい身体をしてるな。部活は何をやっていた?」


「へ?」


何だ?制服の着こなしとかコロンをつけているのを注意しにきたのではなかったのか?しかもいい身体って何?今それ必要?


「名前は?」


本窪田 涼真もとくぼた りょうまです」


「よぅし、本窪田もとくぼた。入学式が終わったら学校の中を案内してやろう。気にする事はない。先輩として後輩の面倒を見るのは当然だからな。俺は清水 健二しみず けんじだ。よろしくな」


入学そうそう漢の先輩に声をかけられるとは思っていなかった。いや、しかしまだだ。風紀委員でも女子の先輩がそこにいる。目の前にいる清水という人物と付き合いを続ければ、そばにいる女子の先輩との接点ができる。清水との付き合い自体は避けたいが。




−−デジタル掲示板前


靴箱に行く前に学校のデジタル掲示板に表示されたクラス表を二人で見に行った。Aクラス、Bクラスと表示が変わっていく。自分達はDクラスの様だ。


「同じクラスだね。偶然〜」


俺は心の中でガッツポーズをした。中学が男子校だった俺にとっては女子の知り合いがいない。共学出身の男子生徒より女子と接する機会が圧倒的に少ないのだ。橋渡しになってくれる存在はいるだけでありがたい。幼馴染というステータス持ちを手放したくないしな。




−−1年Dクラス、教室


掲示板にあった通りの教室に由佳と一緒に足を踏み入れる。主人公の席と言えば最後尾の窓際と相場は決まっている。そう、今作の俺にふさわしい席だ。と思っていたら、その場所だけブルーシートで覆われ、黄色いA型バリケードが置かれている。一体どういう事だ?その前に立ち尽くす俺の後ろから女性担任が声をかけてきた。


「ごめんね〜。先日爆弾テロがあってさ。修復されるまでそこは立入禁止なの」


どんだけ物騒な学校なんだ。ここは平和な教室じゃないのか?


結局俺の席は教室のど真ん中。しかも四方を男子に囲まれている。普通隣は女子のはずだよな。


「俺達だけでも自己紹介でもしとこか。俺、藤田 達也ふじた たつや


周囲にいた四人のうちの一人が話しかけてきた。教室を見回すと、それぞれの席に近い者同士で前の中学の話とか始めている。


井上 博之いのうえ ひろゆきだ」


市川 徹いちかわ とおる。よろしく」


「俺は武田 大輔たけだ だいすけ


「で?お前は?」


藤田はマイクを持つ仕草をして俺の方に手を向けた。


本窪田 涼真もとくぼた りょうま


「珍しい苗字だな」


「よく言われる」


「はいはい、注目〜」


壇上に上がった女性担任は手を叩いて全員を席に座らせた。


「私が1年Dクラスの担任をする永田 亜美ながた あみと言います。皆よろしくね〜」


この担任、ノリが軽いな。男子校じゃ考えられなかった。高校とはこういうものなのか?


「じゃあ皆、入学式が始まるから出席番号順に廊下に並んで並んで〜」


有無を言わさず廊下に並ばされた俺達は永田先生の引率の元、体育館へと向かった。




−−体育館


誰も聞いてないであろう校長の祝辞が延々と続く。そういえば最長記録は16時間強とかだったな(本当らしい)。壇上の横に座っている生徒会の中には校門で見た人物は一人もいなかった。生徒会クラスになると服装チェックよりも会場の設営の方が優先度が高かったのだろう。


「では生徒会長からごあいさつです」


紹介された生徒会長は来賓に一礼した後、演台の前に立った。女性なのか。まぁ今どき珍しくもないか。


「生徒会長の東山です。新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。本学校の在校生を代表して・・・」


しかし胸がデカいな。演台に乗っかっているぞ。いや、重いから乗せているのか?話の内容よりそっちに目がいってしまう。あれは・・・凶器だ。あいさつよりもそっちに目がいってしまう。恐らくこの体育館にいる半数、つまり男子の生徒は釘付けになっているに違いない。




−−放課後


「由佳。一緒に帰ろうか」


由佳を誘って下校しようと靴箱で外履きの靴に履き替えていた。今日の入学式の話に花咲かせながら自宅へと帰る予定だ。小学校の頃は一緒に帰るだけでいじる奴等がいたが、高校になると話は一転、うらやましがられるというから青春は分からない。他の生徒達も同じ中学同士でグループで帰るようだ。


「ちょっと待て」


後ろから聞き覚えのある声が。そこに風紀委員の清水が立っていた。


「忘れたか?学校の案内をすると言っただろう」


清水は肩に腕を回して靴箱から引きずり出そうとしている。汗臭さを感じるぞ。っていうかいつからそこで待っていた?


「あ・・・じゃあ私、友達と一緒に帰ってるね」


お邪魔しちゃ悪いと思ったのか、関わりたくないと思ったのか、由佳は外で待つ中学時代の同級生達と先に帰っていった。


「入学式そうそうに先輩に声をかけられたからと言ってそんなに萎縮するな」


いや、予定にない展開に固まってるだけだ。


「さて、どこから行こうか。やはり食堂からだな。食の乱れは心の乱れと言うからな」


それを言うなら服装の乱れは心の乱れなのではないか。


結局、今日は食堂、多目的室、図書室、音楽室、視聴覚室、部活棟と引き回され、一緒に下校する事になった。


「そうか、お前はこの近くに住んでいるのか」


「せ・・・先輩は遠いのですか?」


「まぁ一時間位かな。俺は一つ手前の駅で降りて、歩いて学校に来るんだよ」


「それは・・・いい運動になりますね」


「お前も一つ前の駅で降りて歩いてみたらどうだ?気持ちいいぞ」


無駄に一駅行かないと歩けないけどな。


新都明神駅で清水と別れ、ようやく開放されたと肩をもんだ。初日から疲れた・・・精神的に。


こうして俺の入学式は散々な目にあった。いや、高校生活は今始まったばかり。明日から俺は本気を出す!

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