第5話 【覇者の祝福】
「はぁ、随分と好き勝手にしてくれたものです。」
「す、すみません。」
崩落の惨状を見て、苦言を呈する先生に、エリナは平謝りする。
最後の土砂崩れによる攻撃は、麓の村を巻き込まないように配慮していたが、やはりやり過ぎという感想は否めない。叱られるのは自業自得だった。
「なに自分には関係ないみたいな顔をしているんですか。君もですよ、アルス。」
「いや、でも、俺そんな被害与えてないですよ。」
「大剣。」
じっとりとした視線のまま呟く先生。
端的に発せられた単語はある認識へと意識を促し、問題を認知させる。
俺は「あっ」と声を上げた。
「旅に出る前だと言うのに、自分の武器を捨ててどうするつもりなんですか?」
「い、今から探すって言うのは・・・・・」
「崩落の影響も有りますし、不可能です。君も分かってて言ってるでしょう。」
「す、すみません。」
言い募る先生に、俺は肩身を狭くして、謝罪する。
勝者も敗者も関係なく肩を落とす不思議な光景がこの場には出来上がっていた。
先生はそれを一瞥し、愚痴を打ち切るように小さく息を吐いた。
「まぁ、色々と言いたいことは有りますが、二人とも大事に至らなくて本当に良かった。」
「信頼出来る審判が居たからこそですよ。」
「えぇ、引き受けて下さって本当にありがとうございます。助かりました。」
「・・・・・君達は人を
先生は苦笑したが、満更でもなさそうだった。
しかし、深く観察されるのを嫌ってか、「さぁ、帰りますよ」と背を向けてしまう。
素っ気ない態度だが、秘密主義な先生らしい。
ふっと微笑をひらめかせ、先生の後に続く。
帰路の途中、エリナがふとした問いを投げ掛けてくる。
「・・・・・そういえば、貴方は一度も『
「何だ気になるのか?」
「はい、今回の決闘の経緯が経緯ですから。」
成程、確かに今回の決闘は、エリナの実力が十分なのかどうか、俺に見極めさせる事に有る。
決闘に買ったとしても、本質的に認められていなければ、似たような話がまた浮上する事になる。
彼女がそれを気にするのは極々、当たり前の事だった。
そして、敗者である俺には、彼女の不安に対して、しっかりと言葉を尽くす義務がある。
「安心しろ。今回の件でお前の実力は分かった。『
きっぱりと言い切る。
しかし、エリナは益々、困惑した様子だった。言葉に断固たる響きがあったからこそ、素朴な疑問がより浮き彫りになる。
「それなら尚更、どうして『祝福』を使わなかったんですか?」
「それは・・・・・」
「使わなかったのではなく、使えなかったのですよ。」
詰まった言葉の先を先生が代弁する。
「アルスの『
「そうだったんですか。すみません、
「気にするな。」
気にした素振りもなく、謝罪を受け取る。
彼女は自身の権利を行使しただけだ。
特段、責めるに値しない。
「【覇者の祝福】。そう言われている『祝福』らしい。もし暇なら調べてみるといい。使徒であるお前なら何か分かるかもな。」
名前こそ洗礼の時に教えて貰ったが、それ以外は教会のどの文献にも載っていなかった。
だから、少しの期待を込めて、エリナへと
そして、俺は何れ知る事になる。
これこそが、神々の望む大願そのものであった事に。
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