第3話




 今日は日替わりハンバーグ定食が和風だしソースがけの日だった。会社近くの洋食屋は、仕事の捌き方が見ていて小気味よいのを気に入っていつも昼休みに使っている。「お好きな席へどうぞ」で迎え、テーブルにセットしてあるランチメニューは簡素かつ千円以内で、席についてちょうど注文が決まったタイミングでカトラリーとセットスープ、プラスチックカップに注がれた水が一緒に運ばれてくる。オーダーを取るとメニューをさげ、ついでに周りに客の去った卓があれば食器を攫い、戻ってきてアルコール消毒をかけてまたメニューをセットする。こちらが少しスマホをいじって、まだ来ないなら本でも読もうかと開いた矢先、ハンバーグとライスがテーブルに滑り込んでくる。付け合わせの丸く盛られたポテトサラダや、サラダにかかったドレッシングの量がハンバーグにちょうどよい。食べ終わった皿からどんどん下げられていくがあくまでごく自然で、食べ終わるのを見計らっている感じがしない。くるくるとテーブルの上の食べ物に箸をつけていけば、皿の上の料理は飽きもなく腹の中に収まっていく。

 休憩が終わる。会社に戻らないとならない。快活に飛び回っていたのは箸だけで、会社に戻る足取りは重い。

「戻りました」

「おつかれ。早速で悪いんだけど、A社への見積もりの件ってどうなってます?」

「あ、すいません、まだ手を付けられてなくて」

「大丈夫大丈夫。まだ先だから全然間に合うと思うけど、一応、そろそろ着手してもらえると安心かなと思って!」

「ありがとうございます。この後出しておきます」

「うんうん、よろしくお願いします!」

 3年先輩の宮前さんは少し目を見開くようにして大げさにふんふんと頷き、椅子をコロコロさせて机に戻っていく。歪みそうになる表情を包み隠そうとしてるから、そういう態度になるんじゃないか、と穿ってしまう。

 やさしく諦められている。会社の先輩は皆やさしい、やさしいゆえにわたしの欠点を責めたてない。わたしは私にも明らかな自分の欠点をやさしい皆と見つめながら、やさしい諦めのなかで息が詰まりそうになる、わたしが悪い、わたしが全面的に悪いのにその悪さの上に棲みついてだんだんやさしささえ受け取れない。やさしさに反抗せざるを得ない。

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