『思記』~10代から20代に書いた詩~
天川裕司
『思記』~10代から20代に書いた詩~
「虚無情緒。」
白紙の上にペンを置き、ない脳ミソをはたらかせて腕を組む。一体どれだけのスミをつけて文字を書き連ねればいいのか。頭の痛くなるようなはがゆさが、一気に脳天につき刺してきた。私は哲学を知らない、虚構も知らない、虚無もない。不安もない、すべて条理に合わせて生きている。だから実に気楽な生活だ。わずかな金だけを置いていくあいつは今でも私の家に酒を持って遊びにきては、“まぁたしにでもしてくれ”とわずかばかりの金を置いていく。昔の小説家、作家は何を考えて生きていたのだろう、そんなたわいのないことばかり考えながら、時には明け方まで話し合うことだってあった。そしてその内、(未完)。
「時のひとり歩き。」
あなたはいつのまにか都会に埋もれてしまって、時が止まったように、何も話せなくなり、人並みのことに目を向けなくなった。空を流れる雲は、あんなにゆっくり動いてるのに、世の中の流れは早いもの。寂しさにしがみついた思いに何度もあなたは笑いかけようとする。私の心までも、まさか忘れたわけじゃないでしょうに。太陽を隠した雲の下で、私はなんと言って心を表せばいいのだろう。過ぎてゆく時間に思いやられながら、想い出ばかりをたどる毎日、くり返しがもうすぐ終わる日々を待って、また、あなたの言葉を気にしてしまう。
「濁流。」
“自分さえしっかりしてればいい”、そう思った男は、毎日を自分で平穏にしようと試みた。勢い溢れる世間の波は、今にもその男をのみ込みそうで、男は必死に耐えていた。よどんだ空気が人と人との間を触れまわり、人は常識さえもマヒしていく。それでも常識好きな人間は新しいベースを作り上げようとして、この新しい時代を色付けた。そしてただ一人その色付けた人は、そのすぐあとに流れにのみ込まれ姿を消した。さあそこから常識のひとり歩きが始まった。欲、と地位と暴力の中で成り立つ幸福はしばしば姿をけしたり、見せたりしている。そしてその幸せが次に姿を見せた時、常識がその幸せをものみ込んだ。そしてそれにはまわりからはみ出ないように生きれば幸せに生きられる、と書いてあった。――――何日もしてその常識は姿をけし、また毎日の流れへとかわっていった。男はここぞ、とばかりに目の前にある幸せを見た。“あ、そーか….”、男は少し驚いたような目をした後、すぐに以前と同じ冷静さをとり戻し、いつもより少し流れがゆるく感じる毎日の中を、歩きはじめた。それを見ていた私は、“何をしても結局同じようなものか”そう呟いて、偏見ぎみに彼と同じ流れの毎日を、笑って過ごしていった。…
「風。」
「過去の空気ものは過去のもの。これからは見たこともないような今の風がふく。明日はどこから来るのだろうか。又何色か?
「イギリス。」
英国イギリス、一度行ってみたい。あの隠れながらにする悪戯いたずらはなかなかに冴える。パワーを秘めた暗黒、暗闇の昆虫。
「王蟲。」
カナリアは人の真似をするので有名、白い鳩は平和の象徴で知られている。では王蟲こんちゅうは?この辺りが、人を刺すものである。
「逃亡。」
良い人が、悪い介護をやり始める。
「女。」
女の内でも、始めから器量の良い者はこの時代、できるだけ、奇麗になる事だけを望み、あとはおざなりになっても構わない、と心の奥底で思っている。そういう女こそ、他の男との関係を持ち、その罪を罪としない生活にその身を堕としてゆくのだ。私は見た事がある。男の臨終の時に、それまでの助かる見込みを信じていた男の女、男の死ぬのが決った時、手足に香水をふりまいてそこから立ち去って行く姿を。その姿は、この世に確実に存在する。
「異性。」
私にとって、この世の異性の存在が間違っているんだ。唯、欲望と、自分の寂しさをまぎらわすためだけに、その手足を振って闊歩するのだとしたら、私はそれを「愛」とは呼べない。もう少し違ったところに、その事実があると誰か私に言うのならば、私にそれを見せて欲しい。きっと、私の内のこの事も、この現実にそう遠くはないと予感しているのだ。
「ドア。」
結局、誰も来ないのなら、はじめからドアをロックして、そこから、自分から、去った方が得だ。苦しまずに済むものね。
「制裁後。」
あの十三、四歳の頃のドス黒い過去があったせいで、この世に生き地獄の炎なるものを起す錯覚を身にまとった。しかしそのお陰で、見えない勇気を手にはできたが。
『思記』~10代から20代に書いた詩~ 天川裕司 @tenkawayuji
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