第61話 文化祭⑥

「ここだぁ!」


 修哉は叫びながら手元にあるサッカーボールを思いっきりぶん投げる。

 ぶん投げられたサッカーボールは先に置かれてある数字の書かれてあるボードに真っ直ぐ飛んでいきボールは目標としていた五番のパネル…の下に位置する既に開かれてある八番のパネルを見事に通過していった。


「終了!挑戦者ノービンゴ!」

「ぬおぉぉぉ!!」


 ノービンゴという言葉を聞き、叫びながら膝から崩れ落ちていく修哉、それを少し離れた場所で見守っている俺と坂上くん。

 お化け屋敷が終わったあと俺たち三人は残り時間を充実に過ごす為、校舎の中を散策して行った。

 そしてなんやかんやで時間は過ぎていき一時間後、現在俺たちはグラウンドで出している的当てビンゴゲームをしていた。

 ルールは簡単九球投げて九つのパネルで縦横斜めのビンゴを作るゲーム。

 いやーにしても面白かったな、最初の二球は思いっきり外してそのあと三球角をあたたかと思えばそのあとは全てボード外か既に空いたパネルにインしていった。

 本人は悔しいのだろうが見てる側の俺たちからしたらただ単に面白いだけなんだけどな。


「ワンモア!ワンモア!!」

「もう無理なの修哉。時間見なさい?もう十六時なるのよ」

「クッソーー!!」

「またのご来店お待ちしておりまーす」


 修哉はもう一回やりたいと係の人に頼み込んでいるが、残念ながら時間もそろそろキツくなり集合の時間となっきたので、駄々をこねる修哉を俺と坂上くんで引きずりながら教室に戻る。


—— —— ——


「…じゃあ伝えることはこれぐらいで、あとは実行委員のもと片付けなり食料確認なりしてから帰宅。今日はお疲れさん」


 ツッチーからの話は終わり、本日の日直が礼をしてその場を締めくくると場は話し声や笑い声で包まれた。

 そんな中で一応実行委員である修哉は教壇の上に立ち全員の視線を集める。


「えー、一応俺が任されたので俺の指示に従ってもらいます。じゃあまず接客担当は…」


 修哉はそんなことを言いつつ正確にそれぞれに役割を渡していく。

 修哉はいつもは駄々をこねる世話が大変なやつだがなぜかこういう時だけ頼りにできる、長年の付き合いの俺でもやはりそこだけは慣れないんだよな…。


「んで、調理担当は食材の在庫確認な。もし足りなかったら言ってくれ。智が買いに行く」

「え?俺?」

「あぁ。今俺に対して変なこと考えてた気がしたからな。罰だ、謹んで受け入れろ」

「めちゃくちゃだ」


 すると修哉が突然やってくると他と同じように俺たちにも役割を振ってきたのだがなぜか俺だけまた別の仕事を任せてきた、それも少し面倒な仕事を。

 こいつやっぱり読心術とか習得してるんじゃないの?

 俺は修哉に少し不気味さを感じたりもしたが結果として修哉のその推測は正しい、なのでしぶしぶ俺はその仕事を受けいれることにした。


「んじゃ、それぞれ持ち場にゆけー!」


 修哉の合図を聞き、たむろっていた人たちは一斉にその場を離れ、各自渡された仕事をしに持ち場に向かった。

 そして俺も買い出しという仕事を果たす為教室から出る。


「江崎くん私も行こうか?」


 すると俺の後ろから来ていた水瀬さんが声をかけてきてそんなことを言ってきてくれた。

 うぅ…優しいなぁ…、こんな心があいつにもあったらなぁ…。


「智?」

「なんでもない」


 おっと危ない危ない、今の状態のあいつに対して変なことを考えると見抜かれてしまうからな、今はやめておくか。

 俺はまた見抜かれて面倒ごとが倍増するのはごめんなので会話を水瀬さんの方に戻す。


「大丈夫ですよ多分そこまで量もないだろうし」

「良いの?私一人ぐらい大丈夫だと思うけど」

「大丈夫大丈夫。俺先にスーパー行ってるんで、足りないものは連絡してください」


 俺は水瀬さんからの提案を丁重に断った。

 というのもそこまで深い意味はなく、ただそこまで買う量はないと思い俺一人で十分だろうというだけのことだ。

 俺は水瀬さんに事前に指示を送っておいてから俺は言った通り学校を出て、スーパーのある方向へと向かった。


「あ、忘れてた」


 しかし、その途中で俺はあることを思い出し一旦足を止めてポケットからスマホを取り出す。

 そして何度かスマホをタップして開いたのはメッセージアプリ、相手は花守さんだ。

 多分買い物をしてからも色々仕込みやらが待ってそうなので帰宅時間が結構遅くなる予想している。

 そのため花守さんには先に帰ってほしいと言いたかったのだが急いでこっちに向かって行ったので事前に花守さんに話すのを忘れていた。

 俺はすぐさまメッセージをうち、送信する。


『すみませんが今日は一人で帰ってもらってもいいですか?多分こっちの仕事がすぐには終わらないと思うので』


 俺自身としてあまり女子を一人だけで帰したくないんだよな。

 いや、普通に変なことを考えているわけではなくただ心配なだけだ。

 もう十一月中旬になり、まだ四時半ごろだというのにあたりはだいぶ暗くなってきている。

 そんな何が起きるかわからない時間帯に女子一人、まぁ別に女子じゃなくてもだが、歩かせようなんて思う人はなかなかいないだろう。

 俺は再び歩きながら花守さんの返信を待つことにしたのだが意外にも返信は早く、五、六歩ほど歩いたところでスマホから通知音が聞こえた。


『分かりました。江崎さんも気をつけて帰ってくださいね』

『はい、ありがとうございます』

『それではまた明日』


 何回か話をしてから花守さんの黒猫がバイバイしているスタンプが送られてきてこの会話は終わった。

 明日かぁ…、明日だもんな花守さんと一緒に文化祭回るの、楽しみだなぁ………ちょっと待て。

 俺はあることに気づき、ふと足を止める。

 そしてそれが徐々にやばいことに気づいていき、俺は冷や汗をかく。

 そんな冷や汗をかくほどやばいことそれは…。

 ちょっと待ってくれ…、明日どうやって回ればいいんだ…?、てか何をすればいいんだ!?

 そう俺は明日の予定なんてものを何一つ考えていなかったのだ。

 ん?今くだらない、そんなことで…と思ったかい?、でもな…俺からすればこれは人生の一大事なんだよ!……ん?俺は一体誰に話しかけていたんだ?

 俺は誰に向かって話していたのか、いや頭の中だから考えていたなのか?、まぁとにかく不思議な感覚に陥ったが今はそれどころではない。

 この俺江崎智は生まれてから十五年間、ろくに女子と二人っきりで遊んだことがない、あっても母さんとか霧香とかしかない。

 いや、一応花守さんとは出かけたりとかはしているがそれは何かしらの目的があったことで成り立っていた。

 しかし今回は文化祭、多種多様な出し物が出ている。

 つまりはその様々な出し物の中でどれに行ったら花守さんは楽しんでもらえるか、今回の問題はそれなのだ…。

 くっ…、こんなことなら変装云々のことなんか修哉のアンケートを聞いてとっとと片付けておけば良かった。

 俺は今更しかたないことを後悔しながら今直面している問題について考えるがやはりすぐ解決策が見つからない。

 一応今回の文化祭一日目、俺と修哉と坂上くんで出し物は色々回ったがそれのどれが楽しめるものなのか全くわからない。

 俺は…俺は一体どうしたら……、助けてくれ!修哉…!

 俺は心の中で一番頼れる男の名前を叫びながらトボトボとスーパーに向かって行った。

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