第60話 文化祭⑤
「よし、遊ぶか!」
「そうすっか」
「じゃあお化け屋敷行く?一組のやつ」
「良いな」
十数分後、ひとまずたこ焼きやら焼きそばやらで腹を満たした俺たちは修哉の一言を合図に文化祭を回りに行くことにし、その記念すべき一ヶ所目、行くところは坂上くんの提案で一組が主催しているお化け屋敷に行くことにした。
そういえばうちの列で頭の中がごっちゃになっていたが一組の列も一般的に見たら長かったな。
俺はそんなことを思いながら食べ終わりに出たゴミを一つにまとめ道中に設置されているゴミ箱の中に放り捨て、そのまま一学年のクラスがある四階へと向かう。
「いやぁ、やっぱ混んでるな」
「でも少し並べばすぐっぽいけど」
階段を登り終え、右手側を見ると一組から出ている列を確認した。
しかし、昼の時と比べるとそこまで列は長くはなく、入って行く人も四、五分ほどで出てきており、少し待っていればあっという間に中に入れそうな感じがする。
俺たちはその列の最後尾に並び順番が来るまで談笑して時間を潰すことにした。
—— —— ——
「「きゃあーー!」」
『………』
「うん…、おっけ。それでは次の三名様どうぞ中へ!」
悲鳴とともに前の扉から俺たちの前にいた二人組の女子が勢いよく出てきた。
それを確認した入室担当の人はトランシーバーから出る声を聞き、そこから許可が出たのか俺たちに入室するよう促す。
俺たちは一人ずつ扉の中に入る。
中はあたり一帯が真っ暗で光源なんて一切見当たらない、唯一あるとすれば入室前に渡された、現在修哉が手に持つ懐中電灯ただ一つのみ。
また冷房が効いているのか少し肌寒く感じるぐらいひんやりしている。
なんともこれぞお化け屋敷!、といった雰囲気が感じられる。
「へぇー、よく出来てるな」
「おいこら、そんなスタスタ行くな。懐中電灯お前しか持っとらんのよ」
「あ、そっか」
すると、俺の前にいた修哉は感想を口にしながら懐中電灯をつけ、スタスタと先へと進むので俺は一旦修哉の動きを止める。
唯一の光源お前しか持ってないんだから先進むんじゃないよ。
というか絶対違うでしょ?そもそも絶対そんなスタスタと進むことなんてないでしょうがお化け屋敷というのは。
納得した修哉は少し戻り、俺たちの隣に来て再び今度は一緒に先に進む。
「えーっと、確か四人の安否確認だっけ?」
「そうだね」
入室前、この懐中電灯とともにこのお化け屋敷についての説明もされた。
今から数年前、とある時女性とその友人がこの屋敷の中で肝試しをした。
この屋敷は彼女が産まれる前から建っているが彼女に限らず誰かがこの屋敷を出入りしているところや手入れしているところを見たことがなく、ボロボロになった今では周りからはただの荒れ果てた空き家として認識されていた。
なのでこの屋敷に無断で入る人は度々見かけることがある、そして今回彼女たちもその人たちと同様にこの屋敷に入ろうとしていた。
順番は四人のうち彼女は二番目であり、彼女は緊張や好奇心やらを抱えながら一番目に入っていった男性のことを待つことにする。
しかし、いくら待っても彼はなかなか帰ってきませんでした。
迷っているのか?とも考えましたがこの肝試しは廊下の一番端っこまで歩き、壁にタッチしてから来た道を帰ってくる、というただ単純なことであり、道が入り組んでいない限り迷うことなんてなかなかないのだ。
彼女たちはどこかで倒れているのではないのかと心配してみんなで一緒にその屋敷の中に入りました。
中はやはり誰も住んでいないのか明かりなんてものは一切点いてなくあたり一帯が真っ暗であった。
彼女の隣にいたもう一人の男性は念の為持ってきていた予備の懐中電灯を点け、一気に視界が開けると、最初に見えたのは一本道の廊下であった。
彼女たちはその廊下をゆっくりと歩いていく、そしてしばらく長い廊下を歩くと壁にぶつかり二手に分かれた。
左手側を見ると一番目に行った男性が背中をこちらに見せながら立っていた。
「もう何やってるのよ。心配したのよ」、彼女は彼にそう言葉をかけましたが彼はそれに対して一言も言葉を返してくれませんでした
「おい、なんか言えよ」と懐中電灯を持つ男性はそう言いながら彼の元に歩いていきました。
後ろにいた彼女たちもそれについて行きました。
その時の彼女たちは一切気づきませんでした。
後ろ姿をずっと向ける彼に意識がいっているから。
一つ、二つ…と足音が増えていることに。
翌日彼女たちの住む町で四人の行方不明者が出たと数ヶ月にわたってニュースに報道されました。
ここまでがこのお化け屋敷の元となるお話。
そして今回俺たちにしてほしいことがその行方不明となった四人の安否を確認してきてほしいというのだ。
「絶対やられてるだろ。調査する必要あんのかな」
「そんなこと言わないの」
「お、なんかあるぞ」
修哉がそんな悲しいことを言いながら真っ暗な一本道を歩いて行く。
分かんないでしょ、まだ生きてるかもしれないよ……まぁ、俺も別にそう思わなくはないけどさ…。
すると突然道は左側に曲がり、修哉はその角を曲がると何かを見つけたのか声を上げる。
俺と坂上くんもすぐその角を曲がって見てみると、そこには開閉式の大きな棚が一つぽつんと置かれてあった。
俺たちはゆっくりとその棚に向かいその前に立つ。
「ふっ、これでこの俺を驚かそうだなんて笑わせるぜ」
「その余裕は一体どこから来るんだ?」
「だってよぜっったいここから出てくるよな?」
「それに…」
修哉はなぞの余裕を見せながら目の前の棚を指差す。
まぁ、この感じからして何も起こらないということはないだろうし、多分仕掛けの一つや二つはあるだろう。
すると修哉は懐中電灯を何故か下に向ける、そこにはもう一つ別の懐中電灯が落ちてあった。
「この前にこんなの落ちてんだ、開けてくださいって言ってるようなもんだろ」
「だね」
「そんじゃあ望み通り開けてあげます…っよ」
確かにここに入る時、懐中電灯を持って入ったって言ってたからな。
俺がそれに納得していると修哉が勢いよく棚の扉を開けた。
すると中からドサッっと何か重たいものが落ちた音がした。
修哉が再び懐中電灯を下に向けるとそこには…顔中血だらけの黒髪短髪の男性が横たわっていた。
「ほらな」
「ほんとだね。じゃあちょっと確認するね」
「おう、頼むわ」
全く予想していた状況に普通な対応を見せる俺たち、そこに坂上くんが紙とペンを持ってその人を観察する。
この二つは懐中電灯と同様にもらったもので、紙には今回目的である四人の特徴が書かれてある。
もしその特徴にあう人が見つかったら、生きているようならマルを、亡くなっているようならバツを記入する。
「…あー、やっぱ懐中電灯持ってた人だ」
「そうか。なら…これはもう亡くなってる…よな?」
「多分そうだろうな」
「それじゃ、バツっと」
坂上くんはそれらしき人を見つけ、亡くなっていると判断してその人の横にバツと記入した。
「よし、まずは一人。多分この感じだとそれぞれのとこに何かしらのものが置かれてるっぽいな」
「ぽいね」
「よっしゃ、それなら楽勝だ!」
修哉は閃いたかのようにそんなことを口にする。
まぁこれだけ見れば今みたいに何かしらが合図として置かれている感じがする。
でも、まだ一人目だからな…、確信がないんだよな。
すると修哉はめっちゃウキウキしながら先に行こうとする。
「おら、行くぞお前ら!」
「あ、ちょっと待…」
バタンッ!!
「うおぉっ!」
しかしそれは足止めを食らったかのように止められた。
何が起きたかというと、驚きの声を叫ぶ修哉の目の前で突然左にあった壁ごと人が倒れてきたのだ。
修哉はすぐさまその下に懐中電灯を当てる、そこには左腕がない金髪ショートの女性がこちらに目を向け横たわっていた。
「修哉…」
「智……何も言わないで」
俺は修哉に一つ言いたいことがあったのだが当の本人にそれを止められ、口にすることができなかった。
なので俺の心の中で留めておいてあげるが……、修哉…君の閃きは空振りみたいだね…。
「だあぁ!完全にやられた!」
「まぁまぁ、騙されるのもお化け屋敷の醍醐味でしょ。…あ、いたいた」
驚かされたことに悔しがる修哉を隣で宥めながら紙を確認する坂上くんはそれらしき人がいたのかその隣にバツと記入する。
そして修哉は「次だ次!」と言って再び先頭に立ち、どうやら今のが結構効いたのか辺りをキョロキョロとよく見回しながら先に進む。
俺と坂上くんはそれを後ろから見守ることにした。
だってなんか面白いことが起きそうな気がして。
「ここか?…違う。ここか!…違う…」
壁のあっちこっちを確認する修哉、しかしそのどれもが予想とは外れ何もないまま過ぎていく。
そして、再び曲がり角が見え、修哉はそこを曲がる、そこで再び事件は起こった。
「うおぉぉ!!」
今度は何かが倒れる音などしなかったのに角を曲がった途端、修哉の悲鳴が聞こえてきた。
俺と坂上くんはすぐさまその曲がり角を曲がるとそこには修哉の目の前、曲がったすぐの壁に寄りかかるように立つ血だらけの黒髪ロングの女性がいた。
これを見た時、いろんなホラー系を体験していた修哉がこんな簡単な仕掛け?にと思い驚いたが多分壁に気を向けすぎた結果こんな簡単な仕掛けにも気づかなかったのだろうと納得した。
しかし、そうだとしても…。
「かぁー!俺がこんな仕掛けに!!」
「「ククッ…」」
「そこ!笑うんじゃねぇ!」
「悪い悪い、でもよぉ…ククッ…」
「よし、今度はお前らが前だ!ほら歩け!」
「分かった分かった」
今のところ修哉の考えが全て裏目に出ていることがおかしく、笑いを抑えられなかった、しかもそれは俺だけに限らず隣にいた坂上くんも同じように笑ってしまっていた。
それを見た修哉は怒って俺ら二人を前に押し出し先に行くよう促す。
俺と坂上くんは素直にそれに従うことにし、修哉から懐中電灯を受け取って先頭に立つ。
「えーっと、今ので三人目だからあと一人だね」
「あと一人かぁ…、どんなふうに出てくる…あれ?」
角を曲がり少し歩いていくと再び右に曲がる曲がり角が出てくる、俺と坂上くんはそこを曲がるとあるものを見つけた。
目の前の先にこちらに背を向けながら立つ黒髪ロン毛の一人の男性の姿があった。
どんな風に出てくるか坂上くんと予想しようと思っていたのだがその前に出てきてしまった。
「なんだろ、あの話と似てるよね」
「というか全くそれにしか感じない。」
今のこの状況はあの話に繋げてようで話の最後、一番目に行った人を見つけた時と一致している。
となるとやはりあの人が最後の一人ということなのだろうな。
俺と坂上くんはゆっくりとその人の元へと歩いて行く、俺はその最中あの話の続きについて考えていた。
確かあの後は…
『「おい、なんか言えよ」と懐中電灯を持つ男性はそう言いながら彼の元に歩いていきました。後ろにいた彼女たちもそれについて行きました。その時の彼女たちは一切気づきませんでした。後ろ姿をずっと向ける彼に意識がいっているから。一つ、二つ…と足音が増えていることに』。
…………あれー?
ものすごい嫌な予感がする、いや俺自身には多分それといった被害は少ないのだろうが…俺以外のが…。
「ねぇ、江崎くん」
「ん?どうしたの坂上くん」
「僕気づいたことがあるんだ」
「あー…もしかしてお話が関係してます?」
「江崎くんも気付いたみたいだね」
すると、隣を歩いていた坂上くんが俺に声をかけてきてそんなことを言ってきた。
どうやらこの感じ、坂上くんもきづいているようだな…。
後ろのやつに声をかけようにも多分今更であり、まだ後ろは確認していないが多分…もういるだろうな…。
「あぁー、大変言いにくいのだが…修哉よ」
「ん?なんだ?」
俺は自分たちの後ろにいる修哉に声をかける。
今の返答の感じからして修哉はまだ何も気づいていないようだな。
俺はしっかり言葉を考えてから口にすることにする。
「そのだな…先に言っとく。すまん」
「ごめんね、修哉」
「あ?何が?」
「後ろ向いてみ」
「後ろ?」
しかし、これといった言葉が思い浮かばないので謝罪の言葉を一言だけ言い、それに続いて坂上くんも謝罪の言葉を口にする。
何故急に謝罪されているのかよく分かっていない修哉がこちらを見ながら困惑しているので俺は後ろを見るよう促す。
修哉は言われた通りに後ろを向く、俺もそれに合わせて懐中電灯を照らしてあげる。
視線と光が交差する場所を確認してみるとそこには……真っ赤な血が鮮明に確認できる真っ白な服、肌は包帯でぐるぐる巻きにしており、右手には包丁らしきものを持つ高身長の何かがいた。
やっぱりかー…。
「ぎゃああぁぁぁ!!!」
「キエェェェェェェェ!!!」
「走れ!」
突然の怪物の登場に今までの比ではないほどの悲鳴をあげる修哉、それに呼応するように目の前の怪物も奇声を上げる。
俺の隣にいた坂上くんはそう一言叫ぶと走って先に進み、俺もそのあとを追うように走る。
一度後ろを確認すると怪物に追われながら走る修哉の姿が。
角…角…角…いくつかの曲がり角を曲がるとついにゴールらしきドアを確認する。
先頭に立っていた坂上くんは急いでそのドアを引き続々と外に出ていく。
坂上くん、俺、と来て修哉も外に出てきて、修哉は一瞬にしてドアを閉めた。
「お疲れ様です。どうでしたか?」
「なぁ智…」
「…どうした?」
すると俺らの目の前に係の人たちが来て色々と物を回収していった。
そんな中疲れ果てている修哉は俺に声をかけてきたので、俺はちゃんと聞いてあげることにした。
「俺…なんかしたかな?」
「……分からん…」
「お疲れ様…」
今回ばかりはこいつに同情してしまう俺と坂上くんであった。
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