第55話 文化祭準備⑥

「江崎さん少し良いですか?」

「ん?あぁ、うん、大丈夫だよ」


 学校が終わり帰り道、話した通り久しぶりに花守さんと帰路についていた。

 そして、学校から少し離れ、マンションにも近づいてきたころ、花守さんが俺は声をかけてきた。

 多分、朝俺に駆け寄ってきて、話そうとしていたことなのだろう。

 花守さんが止まったので俺もそれに合わせてその場に止まり花守さんの方を向く。


「あの…そのですね…」


 何やら恥ずかしいことなのか、花守さんは口ごもっておりなかなか肝心の内容が聞こえない。

 そんなに恥ずかしいことなのだろうか?

 俺は花守さんのその様子から話そうとしている内容が何なのか更に分からなくなる。

 そんな花守さん、ついに意を決したかのような顔をしてこちらの目をしっかり見る。


「ぶ、文化祭一緒にまわりませんか!」


 あぁー、なるほど、なるほど………、…大丈夫なのかそれ?

 次に花守さんが口にした言葉を聞いて先ほどの行動含め納得する、かと思いきやそんなことはなかった。

 俺と花守さんは友達、それはそうなのであるが周りから見たらそうとはならず、不良と美女、もっと簡単に言えば美女と野獣だろうな。

 そんな二人が一緒にまわるとなると周りがどんな目でこちらを見る、どころか変な噂すら流される可能性もあるんだよな…。

 まぁ、もう二人で登下校してる時点で色々噂されてると思うけど…、文化祭は登下校と比べて威力がだいぶ違うだろうからな。

 そしたら花守さんの生活にどんな悪影響を及ぼすか…。

 いやでもしかし、あの花守さんが珍しくお願いしているのだ…、一体どうしたら…。

 花守さんのお願いを受け入れたい、しかしそれによって花守さんの身に何かあったら…、という二つの考えが無限機関に突入してしまった。

 しかし、花守さんのとある一言で思考は一変する。


「ダメですか?」

「!!?!?!」


 突然花守さんが悲しそうな表情と上目遣いの即死コンボを発動してきたのだ。

 は、花守さん!?どうしたんだ、いつもはこんなことしないじゃないか!

 いや、待て。

 俺は一度花守さんの表情を確認してみる。

 こういうことをした花守さんは大抵、いやほぼ確実に顔を真っ赤にする。

 そういう時は修哉あたりの変な入れ知恵によるものだと、花守さんと一緒にいるうちに学んだ。

 そういうことで花守さんの表情を一度確認してみる。

 花守さんの顔は………、真っ赤になって…いないだ…と。

 嘘だろ!?しかもこのパターン、無意識だな!無意識でこんなえげつない攻撃を仕掛けてきているのか!?

 やばいって、それは…、そんなんされたら…。


「断るなんて無理だろ…」

「!良いんですか?」

「…はい。時間はどうします?」


 結果、あれだけ散々危険を恐れていたのに普通に承諾してしまった。

 これはあとで修哉と対策会議だな。

 しかし、行くことが決まった以上色々事前に決めておかなければならないので、今度はそれについて話す。


「花守さんの接客の仕事は何時から何時ですか?」

「私は二日とも十時から十三時までですね」

「あっ、俺と一緒の時間帯なんですね」


 担当が異なるとそれなりに時間が合わないこともあるのだが偶然にもシフト時間が全く一緒ということだった。

 それであれば時間は決めやすくなる。


「そのあとは特に用事も入れてないのでどちらでも大丈夫です」

「なるほど…、…じゃあ二日目の午後でお願いできますか。一日目は修哉と坂上くんとでまわる約束をしてまして」

「私は全然構いません」


 文化祭、一日目、この日は修哉と坂上くんとでまわる約束、……いや、半強制的な部分はあったがまわることを事前に話していた。

 よって俺自身空いてる時間は二日目の午後のみとなり、花守さんがどちらでも大丈夫だという情報によって、早くも行く時間帯が決定したのだった。


「すみません。私のわがままに付き合ってもらって」

「いや、花守さんはもう少しわがまま言っても良いんですよ?」


 本当にこれはお世辞とかではなく、花守さんは相手のためなら自分のことは放っておくことが多い。

 なので、俺が口出しすることではないと思うのだがやっぱりもう少しわがままを言ってみても良いと思う。

 修哉みたくはやめて欲しいけど…、まぁその可能性はないか。


「じゃあ江崎さん。私がいっぱいわがままいっても全部応えてくれますか?」

「まぁ、可能な範囲であればなんでも」

「フフッ、ありがとうございます。それと…」

「ん?はい、どうしました」


 すると花守さん、うーん、と考えた様子を見せたかと思えば、イタズラっぽく笑い、そんなことを言ってきた。

 やっぱり今日の花守さんはいつもとはちょっと違う感じがする。

 なんというか積極的というか…。

 でももしかしたこれが素の花守さんなのかもしれない。

 もしそうなら、そういう姿を見せてくれるぐらい信用してくれているということなのだろう、そうなら正直めっちゃ嬉しい。

 すると、もう一つ話があったのか花守さんが話題を変えようとしていた。

 しかし、花守さんは「あ」と声をあげたかと思うと再び考え始め、少しの間会話が途切れた。


「…すみません、やっぱり大丈夫です」

「何か聞きたいことがあったんじゃ?」

「はい。でも今よりかは当日が良いかと思いまして」

「そうですか」

 

 そして口を開いたかと思えば今はまだ、ということで内容を話してはくれなかった。

 でもそれでも当日に話す、と言っていたのでそれ以上は深く聞こうとはしなかった。

 俺と花守さんはとりあえず重要性のある話が一度片付いたところで再びマンションへと向かう道を一緒に歩いていく。

 あっ、そうだ、これだけはいっておかないと。


「花守さん」

「はい?」

「あまり無闇に上目遣いはしないでくださいね。危険なんで」

「え?なんでですか?」


 やはり無意識だったのだと理解した俺はそれ以上は特に何も言わずにマンションへと向かった。

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