第54話 文化祭準備⑤

「さあ!始まった!衣装御披露目会だ!!」

「「「うおぉぉぉぉ!!」」」(一部男子)


 修哉が口にした言葉によりクラスの中心から大きな歓声が上がった。

 抑えというものを知らず声は教室の外まで響こうとしている。

 こんなに騒いで他クラスから苦情が来ないか…?、と考えたがその心配の必要はなかったのだった。

 なぜなら今のこの時間はどのクラスも文化祭の準備に割り当てられているからである。

 それゆえに廊下を見ると出し物に使う材料を持った人が行き来している。

 それよりも…。


「なんでこのタイミングで衣装御披露目?」

「なんでもみんなのやる気をあげるためらしいよ」

「あ、水瀬さん」


 独り言のつもりで口に出したのだがたまたまこちらに来た水瀬さんがそれを聞き、答えてくれた。

 まあ、そんな感じはするよな、現に修哉の周りにいる男子のやる気度が数倍ぐらい上がっている気がする。

 しかし、それに対してその男子たちを見る女子たちの視線がアホほど怖いんだが…。

 …いや、気にしないでおこう。うん、そうしよ。


「じゃ、まずは!執事達のご登場だ!」


 俺が変なことを考えていると修哉が入室の合図を出した。

 その合図から一拍おいた後、前の扉が開かれ、外から執事服姿をした男子数名が入ってきた。

 それに対し、中にいたものは歓声や笑声でかえしていた。

 彼らが着ている執事服は至ってシンプル、黒を基調としており、黒のロングネクタイ、白い手袋が特徴的で、これぞ執事服という感じでとても良い。


「続いて!こちらが大本命!メイド達のご登場だ!」

「おーい!俺たち本命じゃねぇのかよ!」

「うるせぇ、最初からこちらが本命じゃ」

「ひでぇー!」


 執事達からのブーイング(修哉に対しての)を受けながらメイド達を迎える教室、先ほど執事達が入ってきた扉が再び開き、そこからはメイド服姿の女子達がいた。


「「「「おおぉぉぉぉ!!!!」」」」 (主に男子達)


 先ほどまだ教室の中で埋まっていたブーイングは一瞬にして歓声へと変わり、その男子たちを見る一部女子たちの視線が一層強くなったような気がした。

 もう怖いってこのクラス…。


「「「ん?……んんんんぅぅぉおおおおぉ!!!!」」」


 するとものすごい熱狂的な歓声が一瞬止まり、数秒後に今度は声にならない声で歓声を上げた。

 な、なんだ、なんだ?

 気になった俺は再びメイド服姿の女子がいたところを確認する。

 そこには…、メイド姿をした花守さんがいた。

 紺色のロングワンピースに白色のエプロン、白色のカチューシャをつけ、それに合わせてか髪型はポニーテールにしておりとても似合っている。

 こりゃみんなのテンションも上がるわけだ。

 その花守さん何かを探しているのか辺りをキョロキョロと見回している。

 そして花守さんと俺の視線があった瞬間、こちらにすぐ駆け寄ってきた。

 どうやら俺を探していたようだ。

 しかし、花守さんが俺の下にまでやってくることはなかった。


「花守さん!写真撮って良い!?」

「私も私も!」

「あ、え?」


 花守さんメイドバージョンのせいか、いつも以上に人が花守さんの周りに集まり、行先を人で塞いでしまった。

 そして次第には花守さんが見えなくなっていったのだった。


「いやー、はな大変だなぁー…」

「そりゃ、学校一の美少女と言われてる人がメイド服なんて着たら」

「それもそっか」


 花守さんはこの学校では一番の美少女としてうたわれており、時たまに女神だと言われるほどの人である。

 そんな美少女が普段は絶対に着ないであろう服を現在着ているのだ、あの人たちの気持ちもわからなくはない。


「それにしても花守さん何のようだったんだろ?」


 花守さんは確実に俺と目があってからこちらに駆け寄ってきた、となるとやはり何か言いたいことがあったのだろう。

 俺は花守さんがこちらに来ようとしていた行動の意味を考えてみる、……が、全くもってその意味どころか小さいキーワードすら出てこない。

 仕方ない、今日の帰りは久しぶりに花守さんと帰る話だし、その時に聞いてみるか。

 この時間、俺と水瀬さんは人の波に揉まれる花守さんを遠くで見守っていた。

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