第53話 文化祭準備④

「それじゃ、先生今日はお願いしまーす」

「何故この音楽?」

「そりゃあ、料理と言ったらこれでしょ」


 玉井さんの開始の声とあのかの有名な料理番組の音楽が流れ出したことで調理を開始した。

 

「先生今日は何を作るんですか?」

「あ、結構細かくやるのね。…えっと、今日はオムライスを四人分作っていこうかと思います」

「良いですねぇー」

 

 思いの外しっかりとサポート役をこなそうと熱演する玉井さんをとなりにこちらもしっかりと役目をこなそうと調理に取り掛かる。


「えっと、まずはサラダ油をフライパンに引いて、熱してください」

「サラダ油……大さじ一です」

「次に事前にカットした鶏もも肉、みじん切りにした玉ねぎ、ピーマンを今言った順に炒めてください」

「え、えーっと…鶏もも肉…さとるんいくつ?いくつ?」

「え、えっと、鶏もも肉は二百で、玉ねぎは一個ほど、ピーマンも…」

「たまー、江崎くんの邪魔になるからこっち来なー」


 しかし開始して一分もしないうちに俺に材料の量を聞いてくる玉井さん。

 まぁそれもそうだろうな、だって事前に伝えておく、なんてこと一つもしてないもの。

 そこにカメラマン兼玉井さんの世話役?の水瀬さんが登場してきた。


「えー、やだー」

「なんでー?」

「だってサポート役いなかったら番組が成り立たないじゃん」

「あの番組じゃないからいらないよ」

「でもサポート役は必要でしょ」

「多分江崎くん一人のほうが早いと思うよ」

「やだー、やるのー」

「ダメだ、駄々こねモードに入った。…仕方ない」

 

 水瀬さんは玉井さんをキッチンから出すため奮闘するのだが、それでも玉井さんは一向にキッチンから出ようとせず、なんなら駄々こねモードというやつに入ったらしい。

 水瀬さん曰くこうなるともう言葉一つではもう言うことを聞かなくなるらしい。

 しかし水瀬さんは何か策があるようなことを口にすると、視線を玉井さんからリビングでテレビゲームをしている修哉に向けた。


「榊原くん、このままじゃすぐ料理はできない」

「何!?」


 水瀬さんの言葉を受け取った修哉は手に持っていたゲーム機を手放し、瞬時にこちらに向き直った。

 あぁ…、そういう策ね…。

 俺は水瀬さんが修哉にそう言った瞬間に水瀬さんが言う策の内容を理解した。

 しかし、俺が特に口を出すようなことでもないと思ったのと、何より少し面白そうだったので特に口出しはせず、フライパンの上の材料を炒めながら見聞きすることにした。


「な、何故!?」

「たまがどうしてもサポート役をしたいって言うんだけど、ちょっと今止まり止まりになっちゃっててね。この調子だと結構かかっちゃうと思うの」

「……」


 大まかな事態の状況の把握が済んだのか修哉は玉井さんの方を向き、少し間を置いてからこちらに向かって歩いてきた。


「玉井…」

「な、何?しゅうちゃん?」


 そしてそのまま玉井さんの前まで来ると一度玉井さんの顔をのぞいてから、フッと笑ったかと思えばそのまま玉井さんを抱っこした。


「よし、玉井はこっちで遊ぼうなー」

「えー!?やだー!こっちやるー!」

「玉井ーー!」

「何!?」

「飯のためだ!我慢しなさい!」

「やーー!」

「音声後付けしといてあげるからー」


 おんぶされた状態でいまだに抵抗をしている玉井さん、しかし、いまの修哉の心の中は飯でいっぱい、そんなことは無視してリビングに帰っていった。

 玉井さん、開始二分ほどで退場。 

 あいつほんとくだらない時だけはやる気に満ちるんだよな…。


「じゃ、続きやろっか」

「あ、はい」


 ひと段落ついたところで再び水瀬さんがこちらに声をかけ、カメラに視線を戻した。

 玉井さんのことは…置いておくのは可哀想だが、野菜が焦げてしまうので、ひとまず置いておき、こちらも再び自分の仕事に戻る。


 鶏肉に火が通ったらそこにケチャップを大さじ三ほど入れ、サッと炒める。

 全体に絡まったらご飯四百ほどを加えて炒める。

 これでチキンライスは完成だ。

 ちなみにここでこのチキンライスを楕円形にしておくとこの後の作業が楽になります。

 そして続いて、別のフライパンにサラダ油を引き、熱している間に卵をといておく。

 といた卵をフライパンに流し込み、半熟状になったら一度火を止めます。

 最後に先ほどのチキンライスを卵の上に乗せ、そのまま皿の上にひっくり返せば…。


「完成です」

「……はい、おっけ。お疲れ様」

「それじゃあ後三人分作っていきますね」


—— —— ——


「ご飯出来たよ」

「飯!腹減った!」

「あ、バナナ置かないでよ!あ、ちょ…負けたぁー!」

「あ、よっしゃー!勝った!」


 あの後、三人分のオムライスは卵を載せるだけだったのでささっと作り終わった。

 なのでご飯を食べようと二人を呼びに来たのだが、そこには楽しくレースゲームをしている様子の二人がいた。

 いや、あの時の玉井さんは何処へ…。

 しかし、今の感じだと区切りのいいとこで終わったらしいのでちょうどよかった。

 二人を呼んだあと自分の分の皿をリビングにある長テーブルに持っていく。


「よし、じゃあ食うか」

「腹減った!」

「はいはい。それじゃあ…」

「「「「いただきます」」」」」


 四人全員席に着き、食べられる準備もできたところで全員で声を合わせてから食事にした。

 あっ、ちなみに今日撮った動画、後日確認したところ玉井さんの声が入っていました。

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