第8話

 邪悪な達磨笑顔のツインテールと別れて裏門へと急ぐと、車種だけは普通の乗用車が停まっていた。ヒマワリのようなマットな黄色の車体が青空の下で光り輝いていて、異様に目立っている。

 洗車も行き届いていて反射する光はピカピカと音がしそうなほどだ。そこだけ切り取ったら真夏のような暑苦しさである。


 今朝まで運転手を務めていた津田沼の車は黒光りして威圧感のある大きな車で、当たり前だがごく普通の高校の校門に似合う車ではなかった。

 運転手が変わっても同じ車が迎えに来るのだろうと思っていた英智は、違った方向で目立つ車を見て思わず足を止めた。


 はたしてこれは、本当に自分を迎えにきた車だろうか。


 英智の育ての父である昴は、表向きは不動産会社に勤める一般人であるが、実は反社会的組織に属する人間である。平たく言うと暴力団――墨田組の三次団体、飯田組の幹部で、その仕事がら敵も多い。


 今まで英智を迎えにきていた津田沼の車は、つまりそういう所属であることが一目でわかるような、いかにもな車だった。

 昴の仕事を邪魔することは本意ではないのだが、正体不明の車に乗って事件にでも巻き込まれたらよけい煩わせることになるので、一度昴に電話をして確認することにした。


 すぐに校舎に駆け込めるように距離を取る。

 鞄からスマートフォンを取り出そうとしたそのとき、運転席の窓が開いて車の強烈な黄色に負けないド派手な金髪がにゅっと窓から顔を出し、「えーち坊っちゃーん、待ってたよー」と、間延びした声で英智を呼んだ。


 「……」


 車と同じ暑苦しい黄色の地に、真っ赤なハイビスカスの柄が入ったアロハシャツ。その胸元を大きく開け、汚れひとつない真っ白なスーツを羽織って真っ黒なサングラスをした金髪の男前が、おーいおーいと窓から顔を出して手を振ってくる。目が痛い。


 英智の名前を知っていることと、迎えは金髪の男だと昴が言っていたことを思い出し、少しだけ警戒心を解いて車に近づく。


 「瀬下さんですか?」


 「そー。オレ、瀬下翔平せしたしょうへいっつーの。桜井さんの坊ちゃんでしょ? お迎えにきたよー」


 「坊ちゃんって……」


 「英智くんでしょー? 桜井さんの息子さんの。だから坊ちゃんじゃん?」


 へらぁっと笑ってちょいちょいと助手席を指す男前はなんとなく、邪悪な笑顔のツインテールと同じようなニオイがした。

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