第3話・培養した神経細胞の暴走

 殺人鬼の鉄丸を排除して、別施設で人工皮膚の裸体でメンテナンスをされているサキの様子を、コーヒーを飲みながら送信されてきた映像を眺めている開発チームの責任者が呟いた。

「いくら、ジェノロイドとは言え。裸の若い娘があんなことをされている姿はエロいな」


 タブレットでサキが始末した、殺人鬼の人数を確認していた女性職員が言った。

「これまでに、蛇形 サキMARK―Ⅱが、社会から排除した殺人鬼は二十六人……かなりのハイペースです」

「やはり、殺人鬼同士は、行動パターンが読めるというコトか」


 女性職員が不安そうな表情で、責任者に質問する。

「大丈夫でしょうか……蛇形 サキMARK―Ⅱには、死刑になった蛇形 サキから取り出されて培養された、脊髄せきずい神経細胞が移植されているんですよね」

「そうだが、何か問題でも? ジェノロイドの反射速度を補う目的だけの、神経細胞移植だが」


「聞いたところだと、予想に反して蛇形 サキの培養神経細胞が、ジェノロイドの全体にまで根を広げているとか」

「それが何か?」

「別人に移植された、臓器に元の人間の記憶が甦るという事例話を思い出しました……もしも、サキの意識がジェノロイドをコントロールするようにでもなったら……怖ろしいコトになりそうで不安です」

 

 開発の責任者が、女性職員の不安を、一笑する。

「たかが、神経細胞に人間の記憶が残っているはずがないだろう。君は心配しすぎだ」

 そう言って、責任者はメンテナンスが終了して着衣した蛇形 サキMARK―Ⅱを画面越しに眺めた。


  ◇◇◇◇◇◇


 その夜──消灯したメンテナンス室で、金属アームで固定されて、オフのスリープモードだった蛇形 サキMARK―Ⅱが、再起動リブートでオンモードに変わり、人のいない部屋で勝手に稼動を開始した。


 光る両目を見開いた蛇形 サキMARK―Ⅱの、目だけが動いて部屋の中を見回す。

 ジェノロイドの神経細胞が根を張った電子回路内では、徐々に死刑囚【蛇形 サキ】の意識が甦りつつあった。

(ここは? どこ? あたしは生きているのか? 死刑で死んだはずでは?)


 サキの意識は、自分を逮捕した時にアスファルトの道路に顔を押さえつけた刑事や、取調室でサキに罵声を浴びせた女性取調官、死刑を宣告した裁判官の一瞬だけ薄笑いを浮かべた顔が鮮明に浮かんできた。


 それと同時に、サキは仲間だった殺人鬼たちを殺害した時の快感も甦る。

(殺し足りない……まだ、殺し足りない)


 動き出した蛇形 サキMARK―Ⅱの背中から、コード類が次々と外れ。

 自由になった銀髪ポニーテールの女性型ジェノロイドは、部屋から出ていった。


  ◇◇◇◇◇◇


 ジェノロイドが、メンテナンス室から姿を消した数時間から数日後──サキに関わった法律関係の者たちが次々と惨殺された。


 蛇形 サキを逮捕して顔面をアスファルトに押しつけた刑事も、サキの口から放射された火炎で焼き殺され。


 取り調べ室でサキに暴言を吐いた女性取り調べ官は、半裸の下着姿でマンションのベランダから逆さ吊りされた格好で絞殺された。


 サキに死刑を宣告した裁判官は、血だらけの浴室で頭部を切断された姿で発見された。


 そして、蛇形 サキの復讐はジェノロイドとして利用した、開発者たちにも向けられた。

 

  ◇◇◇◇◇◇


 深夜──車を発進させて逃げようとした男の車のヘッドライトの光りの中。

 道路に立ちはだかる、サキの姿が浮び上がる。

 悲鳴を発する、メンテナンス所員の男。


「悪かった! 誰もいないメンテナンス室で、衣服を脱がして弄んだのは悪かった! 許してくれ!」

 サキの前腕から突出した、マシンガンの銃口が男が運転する車に向けられる。

 アクセルを踏み込んだ男の運転席に向って、連射された銃弾が撃ち込まれ。

 サキのジェノロイド体を、興味本位で弄んだ所員男の体は穴だらけになった。

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