第5話 ウミガメのスープ

 ある男が、ある飲み屋で、他の常連客と、話をしていた。この店はスナックで、馴染みの女の子がいるので、結構常連になってから長くその店で飲むことが多かった。

 今年で、すでに4年目くらいであろうか。その馴染みの女の子も、

「川さんは、私がお店に入ってすぐくらいのお客さんだったから、私にとっては、まだまだ新人の頃からのお付き合いということになるのよ」

 というので、

「そっか、まるで一心同体みたいじゃないか。それよりも、腐れ縁と言った方がいいのかな?」

 といって笑うと、女の子も、

「何言ってるのよ、腐れ縁というのは、ひどいわね」

 というが、そんな冗談が交わせるほど、仲良くなっていたのだった。

 そんな中で、ここ1年くらいで一人常連になった客がいたのだが、ここでは、皆から、

「つかちゃん」

 と呼ばれていた。

 川ちゃんと呼ばれている男、

「川崎」

 というのだが、彼も、つかちゃんの名前を知っていた。

 つかちゃんというのは、本名を、

「飯塚」

 といい、お互いに、本名を知っていながら、

「川ちゃん」

「つかちゃん」

 と言い合っている中だったのだ。

 このスナックの女の子の名前を、

「いちか」

 と言った。

 もちろん、本名ではないのだろうが、客のほとんどは、いちか目的で言っているのは間違いないだろう。

 といっても、そんなに客が多いという店でもない。

 いちかのいいところは、天真爛漫で、天然なところがあるが、それがいいところであった。

 それでも、いちかには、一線を画したところがあり、もし、客が口説こうとしても、

「この子を口説くのは絶対にムリだ」

 ということが分かっている。

 だから、客はすぐに諦めて、店に来なくなる。

 ママさんとすれば、

「困ったものだわね」

 といって、嘆いていたが、実際には、そうでもなかったようだ。

 ママさんとしても、いちかの天真爛漫さには、一目置いているようで、

「いちかは、いてくれるだけでいい」

 と思っているようだった。

「お客さんなんて、どうせ、短い周期で入れ替わるものだし、それでも、たくさんのお客さんが、一か目当てで来てくれるのは嬉しい。でも、いちかが変なことに巻き込まれる様子のない女の子だということの方が私には嬉しいのよ」

 というではないか。

 ママさんのその言葉が、いちかに対しての、

「的を得た答えだ」

 といってもいいだろう。

 いちかにとって、この、スナック「カトレア」というお店は、オアシスのようなお店だといってもいいだろう。

 ママさんも暖かく見守ってくれるし、いちかを目当てに常連になってくれた人も数人いる。

 その代表というのが、川崎であり、飯塚ということになるのだろう。

 しかも、最近では、川崎と飯塚が、示し合わせてくるということはないのに、いつもどちらかが来ると、後から、もう一人が来ると言った感じで、このあたりも、

「腐れ縁」

 と言われても、

「まんざらでもない」

 という気分になるのであろう。

 だから、いちかも、

「あっ、今日は二人が揃う日だわ」

 と思うと、気分が高揚してくる気がした。

 いちかも人間である、楽しい人や、顔を見るだけで嬉しいと思えるような人が来てくれれば、とたんに顔に出たり、態度に出たりするのだ。

 だから、二人がたまに聞く、いちかのウワサとして、

「あの子は、塩対応しかしない」

 ということで、

「決まったことしかしない子なんだ」

 と、心の中で、もっとひどいことを考えていた。

「ちょっと顔がいいと思って、その実は正反対じゃないか」

 と、勝手に、

「可愛かったり、綺麗な女性は、気持ちもスッキリしていて、必要以上にその気にさせるほどの厚い対応ではなくとも、少なくとも、塩対応されるようなことはないに違いないだろう」

 と考えるのは、お門違いだというものであろう。

 だが、いちかは、今でも、

「お店のマスコット的存在」

 それは、自他ともに認めることであり、最初は引っ込み思案だった、いちかも、

「結構、その気になってくる」

 というものだった。

 そんな、いちかに対して、いい加減な客も多かったりする。

 それこそ、

「ただの酔っ払い」

 といってもいいだろう。

 女の子を口説くのに、

「酒が入っていないとできない」

 というようなやつも、中にはいるだろうが、この、

 スナック「カトレア」

 という場所で、いちかという女の子を口説こうというのであれば、あまりにも暗色すぎて、相手にもされないというのは、当たり前のことだった。

 もちろん、川崎も、飯塚も、二人とも、いちかを口説こうという意識はないようだった。

「ただ、店に来て、言いたいことを言っていればそれでいい」

 それが、この店を、

「オアシスのような場所だ」

 という気分にさせたのだろう。

 川崎の飯塚も、二人とも、結構物知りであった。

 そういう意味では、こういうお店で話す内容の引き出しは、結構持っているのだった。

 政治の話から、オカルトのような話まで、その内容は多岐にわたっているといってもいいだろう。

 話を聴いてもらう方とすれば、まわりから、

「すごいわ。よく知っているわね」

 と言われたい一心でもあった。

 口に出さなければいけないことは、口に出してくれると嬉しいが、言わなくても、相手の気持ちくらいはわかるものだ。

 それこそが、本当に口に出さないだけで、

「心の友」

 というように、お互いに思っているのは、滑稽な感じがしたのだった、

 この日の話は、少し怖い話であった。

 内容もさることながら、最初からテーマが恐ろしかった。

「いやよ、気持ち悪いわ」

 と口ではそういいながらも、嬉しそうにしているいちかだった。

「いちかは怖がっているわけじゃない。むしろ、喜んでいるんだ」

 と感じているのは、二人ともに同じだったのだ。

 二人は、嫌でも何でもないくせに、嫌がっている素振りをしているいちかを見ていて、

「可愛らしい」

 と思うのだった。

 だから、そんな態度が見たくて、わざわざ、

「怖いタイトルでのお話」

 という形で始めることも、往々にしてあったのだ。

 この日のタイトルは、

「死体を隠すには?」

 という話だった。

 二人とも、別に警察の人間でも、法医学関係の人間でもない。

 もっとも、二人の正体がどういう人なのかということも、この店では誰も知らなかった。

 川崎の方は、この店以外にも数軒の馴染みの店を持っていたが、飯塚は、他に馴染みはなく、やっとできたのが、この、

スナック「カトレア」

 だったのだ。

 飯塚としても、

「馴染みの店を作りたい」

 という気持ちが強かった。

 実際に、馴染みになれそうな店だと思うと、数回通ってみるのだが、いつも、

「何かが違う」

 ということを感じるのだった。

 何が違うのかということになると、正直分からない。

 いつも、何かと比較しているわけではないのに、

「何かが違う」

 と思うのだ。

「馴染みになれそうでなれない」

 という一種のストレスを感じるようになると、その思いは人にも伝わるもので、普通の人であれば、

「最初から違う」

 と思うようなことでも、

「すぐに結論を出す」

 というのは、辛いものだ。

 ということで、自分なりに結論めいたことは、どんどん先延ばしのようにしてしまうのだった。

 さて、今回の話の中での、

「死体の隠し場所」

 ということであったが、最初に言い出したのは、川崎の方だった。

 それを聞いた飯塚は、

「相変わらず、川ちゃんは、恐ろしい話として、鋭利な凶器なのか、爆弾のようなものを降らせてくるよな」

 というのだった。

「最近、よく昔の探偵小説を読むようになったので、そういうトリックだったり、猟奇的殺人のようなものに興味があるというのかな?」

 と川崎がいうと、

「そんなものかな?」

 と、歯切れが悪そうな、ぎこちない笑いをした飯塚だった。

「ところで、つかちゃんは、本格派探偵小説というのと、変格派探偵小説というのがあるという話を聴いたことがあったかい?」

 と聞くではないか、すると、

「いいや、何だいその話は?

 と飯塚が訊ねると、

「トリックや謎解き、頭脳明晰の探偵が出てきて、歯切れよく事件を解決するということに特化しているものを、本格派探偵小説と呼び、それ以外の話を、変格派探偵小説と呼ぶんだけどね。君はどっちが好きだい?」

 と言われた飯塚は、

「そうだなぁ、僕は、やっぱり本格派かな?」

 という。

「なるほど、確かに本格派探偵小説の方が、目立つし、こっちの方が、探偵小説、ミステリーという意味では、花形と言ってもいいだろう」

 ということであった。

「俺は実際に、あまりミステリーのようなものは読む方ではないんだが、しいていえば、本格派だと思う。猟奇殺人とか言われると、ホラーだったり、オカルトっぽくなるだろう? 話が怖いじゃないか」

 と飯塚はいうのだ。

「そうそう、その通りなんだよ。変格派というのは、どうしても、ホラー色があるので、純粋に、探偵小説が好きだという人には、変格派というのは、嫌われるかも知れない。どうしても、目立たないということになってしまうんだよな」

 と、川崎は言った。

「怖い話は、俺は苦手だもんな」

 と飯塚がいうので、

「怖い話と言っても、サイコホラーのような話はそんなにないからな」

 と川崎がいったが、途中で言葉が止まって、少し考えているようだった。

「いや、これは、ちょっとした理論ということで、この話を思い出したのだけど、その話を一緒にした人が、ものすごい怖がりだったんだ。そんなやつが口にできるくらいなので、そんなにびくつくことはない。だけど、この話は、怖くはないが、別の方向から見ると、怖いと感じるに違いないような気がするな」

 と川崎がいった。

 その話を聴いて、飯塚はわかりかねていた。

「怖い話なのか? そうでもないのかい?」

 とばかりに、ちょっと苛立った様子でいうのだった。

「何も、そんなにがっつくことはない。ゆっくりとしたいつもの気分でいればいいだけなんだよ」

 と諭すと、

「俺は何をそんなに苛立っているんだろう」

 とばかりに、バツの悪そうな態度として、視線をどこにやっていいのかということを考えさせられているかのようだった。

「うん、ゆっくりと話をしてもらおうかな?」

 と言葉尻も落ち着いていて、

「元々、この男は、冷静沈着なところがあって、そんな性格だから、俺も好きになったんじゃないのか?」

 ということを思い出させたのだった。

 それにしても、

「死体の隠し場所」

 というのは、穏やかではないだろう。

「それは、焼いたりしない場合のことだよな?」

 と、飯塚が言ったが、

「ああ、もちろん、そうだね? まずは、何もしていない。ただ、普通に死んだ人間の死体の隠し場所だよ。つまりは、よく昔からいわれるような、「顔のない死体のトリック」などではないということだね?」

 と、川崎はいう。

「顔のない死体のトリック?」

 と飯塚は、このあたりの話になると、よくわかっていないようだ。

「ああ、死体のないトリックというのは、昔の探偵小説の中で、よく言われてるうちの、殺人トリックの一つなんだけど、いわゆる殺害方法別の殺人の方法というものだというべきなんだろか」

 という。

「そんなにいろいろあるのかい?」

 と聞くと、

「ああ、いくつかあるかな? 密室トリック、一人二役トリック、アリバイトリックなおと、探偵小説の中にもいくつかある。その中にこの、顔のない死体のトリック。いわゆる、死体損壊トリックというのがあるんだよ」

 と川崎は言った。

 それを聞いた飯塚も、

「なるほど」

 と答えたが、

「それって、犯人と被害者が入れ代わるっていう公式があるトリックのことじゃないの?」

 と横から、少し乾いた声が聞こえてきた。

 聞き覚えのある声ではあるが、

「まさか、ここでこの声が帰って来ようとは?」

 ということで、川崎だけでなく、飯塚も驚いた。

 そう、その声の主は、

「いちか」

 だったのだ。

 いちかは、ニコニコしながら、ハトが豆鉄砲を食らったかのような表情をしている二人の男性に対してニコニコしている。

「よく知ってるね?」

 というと、

「うん、私、学校で、ミステリー研究会に入っているから」

 というではない。

 そう、確か、いちかは、この近くにある大学の学生だということだった。

 なるほど、ミステリー研究会であれば、これくらいのことは分かっていても不思議ではないだろう。

 話を聴いていた、いちかの方でも、その答えを考えようとしていたようだ。

「じゃあ、死体損壊トリックを除くということは、ほぼ、死体には、被害者を判別できないほどの、傷はないということになるのね?」

 ということであった。

 それを聞いた川崎は、

「そうだね。いちかちゃんの言う通りだ」

 と聞いて、いちかも納得したようだった。

「ところで、さっきの、公式って、あれはどういうことなんだい?」

 と、飯塚は聴いた。

 すると、川崎は自分で答えるのではなく、いちかを制したので、それに気づいたいちかが、おもむろに話始めた。

「顔のない死体のトリックというのは、まず、どういうことなのかというと、さっきも言ったように、被害者が誰なのか分からなくするために、死体を損壊させるのよね。例えば、首なし死体にしてしまったり、顔をメチャクチャに切り刻んだり、顔に硫酸をぶっかけたりしてね。そしてその時に、忘れないように、指紋のある手首を切り取っておく必要はあるんだけどね」

 ということであった。

「それでどうなるの?」

 と飯塚が聞くと、

「だって、死体の身元を分からなくしておいて、犯人は逃げ去ってしまえば、誰が殺されたのか分からないわけでしょう? もし、その時に一緒にいたのが誰なのかということが分かっていれば、普通なら、その人が犯人だということは、一目瞭然でしょうけど、被害者の身元が分からないということであれば、被害者は、二人いたうちの一人で、犯人もそのもう一人だということだけしか分からない。

 つまり、被害者が誰か分からないということは、犯人が誰か分からないということと同じで、捜査するにしても、大変でしょう?」

 という。

「じゃあ、どっちも探せばいいんじゃあない?」

 と飯塚がいうと、今度は、川崎が答える。

「確かにそうなんだけど、警察というのは、指名手配をするとしても、どちらかしかできないだろう?」

 というと、

「どうして? 二人とも指名手配すればいいじゃないか?」

 という。

「それって、要するに、同じ事件で、二人を指名手配するということだろう? 共犯がいて、その共犯も一緒に、手配するというのであれば、分からなくもないけど、その指名手配は、明らかに、犯人を特定できていないということであり、そんな手配をすれば、即座にマスゴミの餌食になってしまうだろうね」

 というのだ。

 それを聞いて、飯塚は、

「ドラマなんかでよく、縄張り争いのような、醜い争いがあるようだけど、警察って、そんなメンツまでも気にするところなんだね?」

 というので、

「そりゃあ、そうさ。ちょっとでも間違えたりすると、すぐにマスゴミの餌食さ」

 と呆れたかのように、川崎が言うと。

「本当に情けないもんだな。警察って、もっとしっかりしたものかって思っていたよ」

 というが、そんなことは、

「今も昔も変わりない」

 というのは、誰もが認めることであろう。

 そもそもが、

「公務員」

 警察と言えども、やっていることは、お役所仕事、

「なんといっても、我々の税金で生活しているということは、動かすことのできない事実なんだからね」

 というではないか。

 なるほど警察も役所仕事も、ロクなことはない。

「警察は弱いものの見方だ」

 などという、

「お花畑」

 のような話を聴いたことがあったが、そんなバカなことがあるわけはない。

 警察というところは、

「朱に交われば赤くなる」

 というところであり。

「長い物には巻かれる」

 というところの代表選手なのであった。

 さて、そんな警察であったが、それはさておきという意味で、

「でも、今は昔の探偵小説時代のトリックも、なかなかできなくなってきたというのが事実なので、ミステリーにおいても、殺人トリックは、だいぶ減ってきたといってもいいのかも知れないな」

 と、川崎は言った。

「というと?」

 と相変わらず、飯塚が聞いた。

「今のように、科捜研などの登場と、科学の発展で、死体が損壊していても、DNA鑑定というものを行い、肉親との家族関係などを調べれば、ある程度正確に、被害者を特定できるんじゃないかな?」

 と川崎は言った。

「なるほど、そうだな」

「さらに、アリバイトリックなどにおいても、今のように、これだけたくさんの防犯カメラや、WEBカメラなどというものがあって、下手をすれば、衛星カメラで上から捉えている場合もある。そんな状態で、そう簡単に、犯行をごまかしたりはできないんじゃないかな?」

 と、川崎は言った。

 そうなると、この問題も難しいかもしれない。

 だが、あくまでも、想像でのことなので、どちらかというと、なぞなぞという要素もあり、そう考えるのも面白いかも知れない。

 そう考えると、飯塚も、

「自分にだって、答えが出せるかも知れないな」

 と思っていた。

 飯塚は、

「俺は、ミステリーというのはあまり読んだこともなく、ピンとはこないが、ある程度絞られてくると、そこからのひらめきには、それなりに自信がある」

 と思っていた。

 つまりは、

「なぞなぞ的なものは得意だ」

 と思っているようだった。

「ちなみに、この発想は、探偵小説時代の発想でいいんだよな? 今のような科学捜査が発展していない時代の発想だよな」

 と飯塚がいうので、

「ああ、もちろんそうさ。何でもかんでも、科学捜査ですべてが解決できるのであれば、今の警察も、あそこまで能無しではないさ。もっとも、その科学捜査が発展したとしても、それを使いこなせるかどうかというのが肝になるのさ」

 と、川崎に掛かれば、警察はボロクソであった。

「川崎って、何か警察に恨みでもあるのかな?」

 と思うほどであったが、確かに、川崎は、警察に恨みを持っているようだった。

 それがどこから来るのか分からないが、話の合間であったり、人に突っかかっていくこともあるくらい、警察というものに対して。敏感に反応していた。

 だからといって。普段から、逆上するタイプではない。いつも、

「冷静沈着な性格だ」

 と皆から思われていて、だからこそ、その中でも警察というものに対してのこの態度は、目立つものがあるといってもいい。

 そんな川崎なので、時々、こういう、

「警察を愚弄する」

 というような発言をすることもある。

 まわりの人間は、警察を好きも嫌いでもないが、どちらかというと、

「頼りない」

 という意味で、嫌いな方が強い人ばかりであろう。

「ばかり」

 などというと、生易しい。

「皆、大なり小なり、そう思っていることに間違いはない」

 と感じているのだった。

 そんな警察というものに

「挑戦する」

 というのは、結構面白いもので、答えがみつからなければ、

「まあ、しょうがない」

 ということにして、答えが、それなりの形で見つかれば、

「やっぱり無能何じゃないか?」

 ということになるのだ。

 自己満足でしかないのかも知れないが、川崎はそれでいいと思っていた。

 少なくとも、まわりの皆にも、警察の無能さというものが分かるというものだからであった。

 ただ、川崎が、

「どうしてここまで警察のことを毛嫌いしているのか分からない」

 と思っていた。

 しかし、何らかの恨みはあるのは分かるが、その恨みもそんなに深いものではない。それであるならば、警察に対しての恨みをなぞなぞのような形で解消できるのであれば、それを自分たちも

「ゲーム感覚」

 というもので、応対してやろうと、飯塚は感じていた。

 飯塚が、いつも、川崎に対して、相槌を打っているのも、

「本当に分からない」

 というわけではなく、相槌を打つことで、

「川崎の、苛立ちが少しでも収まればいい」

 という考えがあったのだ。

 それだけ、飯塚という男は、頭のいい男であり、それをまわりに感じさせないところが、素晴らしいだろう。

 川崎がそれをわかっているかどうかは、分からないが、川崎にとって。飯塚という男は、

「実にいいパートナーだ」

 といってもいいだろう。

 今回も、川崎の出した、

「なぞなz」

 いや、

「テーマ」

 に対して、今回は助っ人として、いちかがいるではないか。

 いちかという女の子は、

「結構頭がいい」

 というのは、定評があるところであった。

「頭がいい」

 というのか、

「機転が利く」

 ということであったり。

「閃きに優れている」

 というところがあったりするのが、特徴だろうと、これに関しては、川崎も、飯塚も意見は一緒だったのだ。

 まず、最初に聞いた、

「時代背景」

 においては、昔で発想してもいいということであった。

 しかし、いきなり、

「昔の発想でも構わない」

 と言われても、

「そんなに昔のことが分かるわけはない」

 というものだ。

 何と言っても、

「自分たちが生きている時代ではない」

 ということであるし、

「警察がどういう組織であったか?」

 あるいは、

「その時代の社会的背景がどういうものであったのか?」

 などを、いきなり創造するというのも難しいものである。

「とりあえず、分かる範囲で、少しずつ話を聴いてみるしかないか?」

 ということを考えると、その時、なぞなぞにも精通がある、しかも、大学生であるいちかとすれば、ある遊びが思い出された。

 というのも、

「ウミガメのスープ」

 という発想であった。

 これは、どういうものなのかというと、

「問題を出した人に対して、自分が解いていくためのヒントをたくさんもらって、そこから推理していくものだということだ」

 というものであるが、それには、少々のしがらみがないと、ゲームとしては面白くないというものだ。

 そのしがらみというのが、

「質問された人が、「イエスかノーか」ということで答えられる質問でなければいけない」

 ということであった。

「そもそも、この話は、刑法上の、緊急避難の話に似ていて、海で遭難氏、そこで、先に餓死した人間がいるとして、無人島に辿り着いたはいいが、自分が助かるためには、死んだ人間の肉を食らわなければ、生きられない。一人の男が、どうしても、人肉を食らうのを拒否し、死を待つばかりとなっていた」

 というところに追い込まれたところから始まる。

「まわりの生き残っている人たちは、このままではいけないということで、頑なに人肉を食らうことを拒否している男に、人肉で作ったスープを、ウミガメのスープだと偽って、食べさせたのだ」

 ということであった。

 本人は、空腹から、意識も朦朧としているので、

「スープだ」

 だと言われると、疑いもなく食べ、何とか生き延びることができた。

 という話だった。

 そこで、この話をモチーフにしたクイズが出された。

 そのクイズの内容だが、

「ある男が、中華料理屋で、ウミガメのスープを、最初は、おいしいおいしいといって食べていたのだが、急に。何を思ったか、そのまま自殺をしてしまった。どうしてだろうか?」

 というのが、クイズだった。

 普通であれば、これだけ聞いただけでは、

「何が何か分からない」

 というわけだ。

 そこで、解凍者が数院いるとして、回答者にたくさんの質問をさせる。

「その人が死にたくなったのは、ウミガメのスープを呑んだからですか?」

 とか、

「その人は、ウミガメのシープを初めて飲んだんですか?」

 というような質問である。

 これであれば、

「イエスかノーか?」

 ということで答えることができるであろう。

 それによって、質問者は、

「イエス」

「ノー」

「これだけでは、分からない」

 などというヒントになることを答えるのだが、質問に対しての答えが限られているので、質問をたくさんしないことには、回答にはたどりつぃけ内という意味で、いわゆる、

「帰納法的なクイズ」

 といってもいいだろう。

 そういう意味では、

「なぞなぞに近い」

 といってもいいだろう。

 この犯行が、どのようなものなのかということを考えた時、たくさん、ヒントになることを言っていた人よりも、冷静に聞いていた人の方が、先に回答するかも知れない。

 このクイズは、

「一人が答えれば終わりというわけではなく。回答者は、出題者に耳打ちをして、

「違います」

「正解です」

 というのだ。

 そして、違った場合には、その人が何と答えて間違えたのかということを公開する必要がある。

 それで、無限にある回答がっ少しでも絞られたかのように思うのであろう。

 無限にあるものから、一つ、二つくらいが減ったとしても、それは、ただの気休めでしかなく、

「回答に近づいた」

 というわけでもなんでもない。

 それでも、一つが消えたことで、そのあたりの発想をしていた人の回答も、

「すべて違っている」

 ということになるのだろうということであろう。

 そんな中において、

「このウミガメのスープというクイズは、やればやるほど、その本質が分かってくる」

 ということになるだろう。

 問題を出す方も、イエスかノーかであっても、それを言うたびに、

「だいぶ離れましたね」

 などと、道しるべになるようなことを言わなければならない

 そういうことを考えている人もいて、そういう人ほど、

「この問題の出題者にふさわしい」

 ということになるであろう。

 回答する方も、

「相手に回答しやすい質問」

 という意味で、ある程度の頭がないと務まらないだろう。


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